7 殺人者の証明が必要だ

 人を殺した。


 と、誰かから告白された場合に、こちらから返すべき正しい答えとして、適切なのはどんな言葉だろうか。


 しばらく考えてみたのだけれど、俺には模範解答が思い浮かばなかった。


 人を殺したことがあるだって?

 本当に?


 俺の正面に立っている、この女の子が?

 いったい誰を、どんな理由で殺したっていうんだ?


 そんな疑問がぐるぐると頭の中を駆け巡っていった。


 しかし思考が本格的な混乱に陥ってしまうすんでのところで、俺の貴重な(量的にもあんまりない)理性が、親切にも警鐘を鳴らしてくれた。


 おちつけ江蓮、これはゲームなんだぞ、ここで大切なのは、『ひとを殺した』という事実自体ではない、よく考えろ、相手の言葉に惑わされたまま混乱を引きずっていたら、ゲームには勝てないぞ!


 そういってオレの理性が、混乱する俺の感情をひっぱたいた。

 こうして俺はひとまず冷静さを取り戻し、我に返ったのだった。


 そうだよ、俺とエレンはゲームをしているんだ。

 その大前提を忘れてはいけない。


 こうして俺を動揺させることが、もしかしたらエレンの作戦なのかもしれないじゃないか。

 冷静に自分がとるべき戦略を考えなければ…!


 そうだ、まずは、このまま沈黙を長引かせているのはよくない、場の空気の主導権をエレンにもっていかれてしまう。


 ひとまずそう考えた俺は、いままで通りの自然な雰囲気と、ややおどけた調子で気軽に彼女へと話しかけた。


 『ひとを殺した』なんていうのは、別にたいしたことじゃない、日常生活のなかでよくあることなんですよ、とでも言うように。



 「ひとを殺した、っていうのは、具体的にどんな話なんです?


 ちゃんと説明してもらえないと、『真実』としても『秘密』としても現実性に欠けるような気がするんですが。


 それともこの話も、『それ以上でもそれ以下でもない』っていう言葉で終わらせてしまうつもりですか」



 俺の問いかけに、エレンは敏感に反応した。



 「なぁに? 私が嘘をついているって言いたいわけ?」



 「いいえ、そういうわけじゃ…。

 でもただ単に『ひとを殺した』って言われても、話のスケールがでかすぎて、何もかもがピンとこない。

 なんかうまく飲み込めないんですよね。


 『真実』と『秘密』というゲームは結局、対戦者がその答えに納得するかどうかだと思うんです。

 納得さえさせることができれば、実質、その人が語る話の内容が『本当』か『嘘』かという事実は問題にならない、俺はこのゲームを、そんなふうに捉えているんですけど…違います?」


 

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