6-4
「…私は、『秘密』を選ぶ」
エレンが選択したのは、『秘密』だった。
これは意外だ。
てっきり俺は、強気なエレンのことだから、『真実』を選ぶものとばかり思い込んでいたので、ちょっと驚いた。
単純そうに思えても、けっこうエレンの心理は読めないもんだな。
だからこそ、このゲームはなかなか面白いんだ。
そんなことを考えて、つい俺は黙り込んでしまい、次の言葉をいつまでも述べずにいた。
すると、それが彼女の癇に障ったらしい。
「なに、何か文句でもあるの?」
お怒りの言葉をいただいてしまった。
俺は低姿勢を維持したまま、いえ、めっそうもありません、と申し上げ(ゲームの対戦者とはいえ、彼女はなんといっても俺の命運を握る、暗渠マスターの勇者エレンさまなのだ)平に平にと、エレンさまの『秘密』のお答えをうながしたのだった。
そうしてなんとかご機嫌をなおしていただき(やれやれ)やっと彼女は自分の『秘密』を打ち明けはじめた。
「私の『秘密』
実は私ねぇ、目がすっごくいいの。
ほら、こんな暗い場所でも、なんとなく物の形がわかるくらい夜目も利くし、視力もよくってね、っていってもアフリカの人ほどじゃないんだろうけど、すっごく遠くのものだってばっちり見えるんだよ。
メガネなんてかけたこともないんだから。
だけどそれだけじゃなくて、動体視力っていうのかな、高速で動いているものの姿を、一瞬ぴたっと見定めることができるの。
例えばね、宙に投げられたコイン。
それが着地する一瞬に、裏と表、どっち側で停止したのかを、見抜くなんてことも余裕。
だからコイントス、あるいはじゃんけんなんかで、負けたこと一度もないの。
だって最後にどれが選ばれたかが判るから。
それにあわせて答えを言う、あるいは勝つ手を出す。
これで今までずいぶん、私は得してきたと思うな。
余ったお菓子を多めにもらったり、誰かがしなくちゃいけないイヤな仕事をやらなくて済んだりとかね。
でもバレないように、連チャンで勝たないようには気をつけてる。
ねえ、このこと話したの、江蓮がはじめてだよ。
友達にも内緒にしてるんだから、誰にも言わないでよね」
「へえ、すごい」
動体視力か。
確かに、そんな能力があったなら便利だろう。
エレンはそのチート技を使って、あらゆる面で有利に生きてきたってことか。
ざっくり言えばズルだけど。
そんな彼女のチート技に対する俺の素直な感想が、はっきり口にしなくても、言葉のなかに染みだしていたのだろうか。
またまたエレンの不機嫌な声が聞こえてきた。
「なによ、何か言いたいことでもあるの?」
「いいえー、べっつにー」
「なんなのよ、この『秘密』の答えじゃ不満ってわけ?」
苛立たしげな彼女のお言葉に、俺はここぞとばかりに乗っかってみた。
「そんなことはありません。
まあちょっと、このゲームが始まるまえにエレンが言っていたみたいな、いわゆる刺激に欠けるからつまんない、って部分はあるかもしれませんけど、いやあ、不満だなんてそんな。
ていうか、さっきから『真実』か『秘密』かっていうよりも、過去に自分がやった悪さの暴露大会みたいになっちゃってるなー、なんて思ったり思わなかったり…。
もしそうだとしても、はじめに俺が話した、イチゴ牛乳の話のほうが面白かったようなー、なぁーんて…」
へらへらと、おどけるようにこう言って、俺はエレンの反応をうかがってみる。
こうやって煽ったりしたら、彼女はどう出てくるだろう。
ムキになって別の『秘密』を持ち出してくるだろうか、それとも腹を立てて、もうこんなゲームやめる! なんてことを言いだすだろうか?
どちらでも、かまわない。
どんな手でこられても、まだまだ俺の脳内には、ゲーム攻略のためのアイデアがいっぱい用意されているのだから。
それを思うと、むしろ早く試してみたくて、わくわくする。
「わかった」
エレンの言葉は冷めていた。
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