6 『真実』と『秘密』

 俺の初めての攻撃ターン。


 エレンに突きつける『真実』は、一体どんなものがいいだろうか?

 最初の一発目、ここは慎重にチョイスしなければならないぞ。


 たずねられたエレンが返答に困り、すぐさま『秘密』を選択したくなるような『真実』を、ズバッとお見舞いしてやるのだ。


 エレンはもう笑うのをやめて、おとなしく俺からの問いかけを待っている。

 俺はしばらく考え込んでから、口を開いた。


 よし、これでいこう!



 「では、いきます。


 『真実』

 自分の体のパーツのなかで、いちばんキライな部分を教えてください!」



 暗闇のなか、エレンが立っているであろうと思われる場所にむかって、高らかに俺は『真実』をつきつけた。

 どうだ、この『真実』は!


 女の子ってのは、やたらと自分の外見を気にするからな。

 やれ、足が太い、腕が太い、顔がでかい、目が細いだの、体重がどうとかって、外野から見ているこっちからしたら、まったく何とも思わないようなつまらないことで、常に一喜一憂している。


 天音もそうだ。

 ちいさな頃から天音は、自分の左手の小指の爪の形が、ちんまりしすぎていると言って、ことあるごとに、ぶうぶうと文句をたれる。


 もっとバランスのいい、それこそプラスチックで出来た付け爪のように、縦長で立体感のある、しっかりとした爪だったらいいのにと、不満げに自分の左手に目をやり、そして他人の目につきにくいよう、そっと、それを隠してしまう。


 俺が幼稚園のころから、今日に至るまで、それこそ繰り返し、そんなの気にすることないと言っても、本人の耳には届かない。


 俺は、100均なんかで売っているような、無機質にどこまでも均一に整っている付け爪なんかの形より、まるで桜貝のように、そっと慎ましげにそこにある、天音の小指の爪の形のほうが、ずっといいと思うんだけれど。


 自分の体のパーツで、いちばんキライな部分。


 自分の(本人だけがそう思いこんでいる)欠点を、自ら口にするのは、女の子にとって相当恥ずかしいことに違いない。


 (天音だって、他の友人たちには、そんな自分のコンプレックスについて自分から話すことはまずない。

 ただ、あいつは、俺には自分に関することで何を話してもいいのだと、遠慮なしに思っているだけだ。

 たとえばその関係は、昔から自分の部屋にある、使い込まれた古いクッションのようなもので、天音は遠慮なく、それに好きなように寄りかかったり、ぶん投げたり、尻の下に敷くことができる、それが俺という存在だ。

 俺たちの距離はよくも悪くもそれだけ近いし、そして俺もまた、長い年月のあいだに多くの弱みを天音に握られている)


 キライな部分を言葉にした時点で、自分はそこをコンプレックスに感じていることを認めることになってしまうし、それを聞いた人間は確認のために、まちがいなくその部分を注視する。

 (まあ、ここは暗いから、言われたところで実際に見て確認することは不可能だけれども)


 他人から隠したいはずの欠点に、自分から注目を集める行動をとらざるを得ないというわけだ。


 ふふふ、女の子ならば誰もがみんな、答えるのをためらうはず。

 これならエレンも『秘密』を選ぶに違いない。


 さて、エレンはどんな『秘密』を打ち明けるかな。

 

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