5-4
もともとこのゲームの本質というものは、純粋に、初対面の人間がコミュニケーションをとる際、手助けとするための一種のツールなんだろう。
しかしエレンはこのゲームには勝敗がある、といった言い方を最初にしていた。
俺がゲームに勝ったなら、そのときにこそ帰り道を教えてあげると。
この『真実』と『秘密』というゲームの勝利条件について、あらためて考えてみよう。
このゲームは、答えづらい『真実』か、打ち明けづらい『秘密』の選択を、順番に相手に出しあい、それでどちらも答えられなくなった方の負けとなるわけだから、そのように相手を追い詰めた方の勝ち、となる。
しかし結局のところ、簡単に言ってしまえば、エレンがこのゲームに満足するか、あるいは飽きれば終わりなんだろう。
だが、そこまでの道のりは楽なものではないはずだ。
ちゃんと頭を使ってゲームの攻略方法を考えなければ、さんざんエレンによって恥ずかしい『真実』やら『秘密』やらを根こそぎ吐かされることになり、いつかそれにエレンが飽きてゲームから解放されたとしても、暗渠を出るころにはもう、俺の精神は深刻なダメージを与えられてしまうに違いない。
まずいぞ!
そしたら俺は心に受けた深い傷により、もう社会復帰すら危ぶまれてしまう。
それくらいエレンの精神攻撃は恐ろしいのだ。
そういうわけで、このゲームの攻略の鍵は、いかに、のらりくらりとエレンから提示される『真実』をかわすかが要となる。
逆にこちらが攻撃に転じる際には、エレンが答えることをためらってしまうような、鋭い『真実』をぶつけることを心掛けるべきだろう。
そうすれば、エレンは早めにゲームに対する意欲を失ってくれるはずだ。
よしっ、これだ! この戦法でいくぞ!
「じゃあ江蓮、ゲームをスタートするまえに、ひとつ確認ね」
さっきまで、ずいぶん楽しげに(いささか悪ノリとも言えるくらいに)はしゃぎながらゲームの説明をしていたエレンの声が、やけにしんと、冷たいともいえるくらいに落ち着いたトーンに変わった。
それに気がついて、俺もゲームの攻略方法について思考することをやめ、エレンへ注意をむけた。
「ゲームを楽しむには、まず相手に対して常に誠実でなくてはいけない。
たとえ、どんなに難しい『真実』をぶつけられて、逃げたくなっても、絶対に嘘は言わないこと。
ねえ江蓮、誓える?」
エレンの声はいままでになく真摯だった。
まるで裁判官のような清廉さで、強く、誠実なゲームプレイヤーであることへの宣誓を求めている、ゲームにおいて絶対に嘘を言ってはいけない、と。
彼女はそこまでフェアなゲームを俺に望んでいた。
悪ノリしたり、人をからかったりもするけれど、エレンには、けっこう生真面目な部分もあるんだな。
それは好ましい印象だ。
「もちろん。
俺は、これからのゲームにおいて、嘘は絶対に言わない。
誓います。
俺はルールに従ったうえで、実力でゲームに勝つ」
俺も真面目に、はっきりと宣誓した。
そりゃ暗渠から無事に脱出したいし、エレンの精神攻撃はめちゃくちゃ怖い。
だけど、せっかくやるなら、ゲームを楽しみたいと俺も思っている。
ズルしてゲームに勝ったって、嬉しくないじゃないか。
なんだか変な状況ではあるけれども、暗渠のなかで偶然出会った謎の女の子と、ゲームをして遊ぶっていうのも面白そうだ、そう思えるくらいの心の余裕は、俺にだってある。
俺には時間がたっぷりあるんだ、ルールをしっかりと遵守したうえで、見事なストレート勝ちをして、エレンを驚かせてやりたい。
完璧な勝利ってやつを手に入れてやるのだ。
そして胸を張って堂々と、気持ちよく暗渠を出ていってやる。
俺の宣誓にエレンは満足したようだった。
彼女の声の響きは、またそれまでと同じように、やわらかいものに戻っていった。
もしかすると、エレンはいま、少し笑っているのかもしれない。
「ありがとう。
私も江蓮に誓う、嘘は絶対言わない」
こうして俺たちはたがいに、対戦者への誠意を誓ったのだった。
ゲームをスタートさせるのには、とても清々しいはじまりだ。
楽しげな雰囲気に戻ったエレンは、ぱんぱんと、かるく手を叩いた。
その高い音が、暗渠のなかで明るげに響く。
「ではさっそくゲームを始めましょう。
先攻は私ね。
それでは江蓮、きみの『秘密』を話してちょうだい」
「え?」
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