5-3
「こんな薄暗い場所でバク転したって、はっきり見えないから面白くないし」
心底残念そうな、エレンの口ぶり。
あれ? 俺が思っていたのと、話の流れが違うぞ?
なんだか話の雲行きがあやしくなってくる。
「そもそも『挑戦』の内容ってさ、もうちょっと刺激的な…そう、タバスコ一気飲みとか、マックに行って「スマイル1ダースください」って言ってくるとか、もう少しスケールの大きめのものが理想的なんだけど」
おいおい、もっとヤバイこと言いだしちゃったよ、この人。
「なんていったって、ここは暗渠だからさ、『挑戦』として出来ることが限られちゃうんだよね、残念ながら」
そしてエレンはその言葉どおりに、本当に無念で仕方がないといった、深いため息をついた。
一方の俺は、冷や汗をかきながら思う。
エレンに出会った場所が、この暗渠のなかであったことは不幸中の幸いだったのかもしれない、と。
いやもう何を不幸と呼び、不幸の状態がどこから始まったもので、今の状況のどこらへんが幸いなのかという問題に関してはごちゃごちゃに入り組んでいて、もうわけがわからないのだけれども。
「だからね、このゲームの内容をすこし改造しようと思うわけ」
「改造?」
嫌な予感がすると思いながらも、その不審な言葉をくり返す。
「ここではダイナミックな行動ができない、したがって『挑戦』の面白みが薄れてしまう。
だから、『真実』はそのままにして、『挑戦』を『秘密』ってカテゴリーにチェンジする」
「秘密って?」
エレンの言う『挑戦』と『秘密』、このゲームにおける、ふたつの違いとは、なんなのだろうか。
ルールが変わるといっても、どうせ、ろくでもないものに決まっているんだ。
説明をくわしく聞く前から、そんな絶対的確信が俺にはある。
ルールの変更によって、現在の状況が(つまりエレンの無茶ぶりが)好転するとは、なぜか思えなかった。
これから俺の身に迫りくるであろう困難を想像すると(きっとそうに違いない)恐ろしくて背筋がぞくぞくする。
「うん、基本はほとんどいっしょね。
『真実』か『秘密』のどちらかを答える、ルールはそのまま。
じゃあさっそくいってみようか、ではまず『真実』から。
江蓮、最近読んだエロ本の題名はなに?」
「そのネタ、ほんと好きですね…」
「イヤなら言わなくていいの。
その代わり、江蓮。
きみの『秘密』を教えて」
「秘密、ですか」
そんなこといわれても、曖昧すぎてよくわからない。
「そう、秘密。
だれも知らない、江蓮だけの秘密。
なんでもいいから、それを教えて。
もちろん、数学のテストが0点でそれを誰にもばれないようにこっそり捨てたとか、そんなショボいものはダメだよ」
「だれが数学で0点ですって?
まあ俺、数学は苦手だけど…」
「つまり『真実』を回避するための見返りとして、ふさわしいと思えるほどのレベルの『秘密』を披露してほしいってこと。
これだったら、この暗渠のなかでも楽しめるゲームになるでしょう?
もちろん、ルールの下に人は皆平等、私も『真実』を避けたいときは、ちゃんと『秘密』を答えるから。
どう、何か質問は?」
「特には」
理解した。
とにかくこのゲームは、自身の暴露大会みたいなものなんだ。
相手の提示する恥ずかしい質問に答えるか、相手を納得させることが出来るレベルの秘密を自分から晒さなければならない、そういうゲームだ。
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