4-5


 「ふぅん、まあ私はここに慣れているってのもあるし、もともと夜目が利くほうなんだよね。

 それにしても、よく何も見えないのに、こんなところまでやってきたもんだねぇ。

 せめて懐中電灯くらい持ってくればよかったのに」



 「うう…完全に、その場の思いつきで暗渠に入ってきちゃったから…。

 お願いです、出口まで連れてってください、エレンさん!」



 もはや自分から土下座しかねない勢いで、必死に頭を下げながらお願いする。


 こんな、とんでもなく難易度の高いダンジョンで、探検者レベル1の俺がひとりで闇雲に行動したら、どんなことになるのか、その答えは分かりきっている。


 そう、デッドエンド一択だ!


 なんとしてでも、良いお返事をいただかなくてはならない、これはもう俺の生命にかかわる大問題だ、彼女の返答しだいで俺の生死が決まるといっても過言ではない。


 しかし、勇者エレンさまのお言葉は冷たい。



 「そう、私に出口まで連れて行ってほしいのね」



 「そのとおりでございます、エレンさま!」



 淡々と、俺の切実なる要望をくり返したあとで彼女は、しばし沈黙した。

 なんだろう、この雰囲気…。


 暗渠のなかが、またしても、しんと静寂に沈んでいく。

 まさか、断られたりしないよね?


 もしそうなったら、俺を待ち受けているのは、絶望しかない。

 俺はここで野たれ死ぬことになる。


 ああ、俺の人生、なんもいいことなかったなぁ…。


 悪い想像ばかりが浮かんできて、心臓をドキドキさせながら返答を待っていると、エレンは、こんなことを言い出した。



 「ねえ、江蓮。

 ちょっと私とゲームしない?」



 「え? …ゲーム?」



 予想もしていなかった返事に理解が追いつかず、謝罪会見をしているときの議員ばりに下げていた頭を正面に戻すと、彼女の声がする方向、つまりエレンがいま立っていると思われる場所を、じっと凝視した。


 もちろん何も見えないけれど。


 ゲームしない? ってどういう意味だ?

 暗渠のなかで、いったいどんなゲームをするっていうんだろう。


 カードゲーム? ポータブル機のゲーム?

 エレンはそんなものを用意しているんだろうか。



 「だって、きみ、退屈なんでしょ?

 退屈だから、こんな場所にふらっとやってきたんじゃない、わくわくしたいんでしょう?


 だったら、私とおもしろいゲームをしようよ」



 「退屈してたっていうか…」



 家に帰れなくて、行く場所がなかったから暗渠に入り込んだだけで、特に退屈はしていないんだけど…という言葉は飲みこんだ。


 俺が返答に困って黙っていると、彼女はそれをイエスだととらえたのだろうか、嬉々として話を続けていく。



 「それでこうしよう。

 ゲームをして、江蓮が勝ったら、出口まで連れていってあげる。


 つまり、きみがゲームに勝てなかったら、ずーっとこの暗闇の世界から出られないってわけ。

 どう? スリルがあって面白そうじゃない?」



 「おもしろそう…ですか」



 どうやら特に参加の可否を尋ねられているわけではないようだ。


 きゃっきゃと弾むような笑い声をエレンは上げる。

 これから始まるゲームとやらが、とても楽しみなんだろう。


 つまりもう、そのゲームへの俺の参加は、決定事項となっているみたいだ。


 彼女のはしゃぎぶりからすると、退屈していたのは、エレン自身だというのがよく分かる。

 暗渠は静かで落ち着くから好きだと言ってはいたけれど、エレンは常にひとりでいることを好むというタイプでもないらしい。


 それとも俺がやってくるまでのあいだ、ひとりに飽きてしまうほど、長時間この暗渠のなかにいたんだろうか。


 まあいい、大前提として俺の生殺与奪権は、もはや勇者エレンさまの手のなかにある。


 そして、この暗黒世界を一刻も早く脱出したところで、けっきょく俺には、行く場所なんてものはない。



 「わかりました、それでそれは、どんなゲームなんです?」


 

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