1-2

 そう言って、茜さんは、なんとかという有名な探偵がでてくる、このミステリー小説を読めだとか、あの推理ドラマを見なさいとか、定期的にメールで指定してくるようになったのだ。


 それらを読んだり見たりすることで、俺に探偵としてのノウハウを勉強して欲しいらしい。


 そんな、ミステリー小説を読んだり、推理ドラマを見ることで、本当に探偵としての勉強になんかなるのかよ...なんて思いながらも、せっかく勧めてもらったのだからと、やる気はないながら、俺はとりあえず本屋に行って、指定された小説を手にとってみた。


 そして、そのミステリー小説(想像以上にページ数があったので、その段階でちょっと引いたのだが)を開いて、どこかのページをながめた俺は、5秒で本を閉じた。


 字が多すぎる。

 そしてなんか難しいことが書いてあった。


 うん、ムリ。

 一気にやる気がゼロになって、俺はそのまま本屋を立ち去った。


 読書好きの犬彦さんじゃあるまいし、俺は字がいっぱい書いてある本が苦手なのだ。

 (ちなみに犬彦さんは、読書好きだけれど、ミステリーは読まないみたいだ。

 海外文学ばかり読んでいるらしい。)


 せめて小説じゃなくて、マンガで勧めてくれればいいのに…。


 そう思いながら、後日メールで本の感想をきかれた俺は、アマゾンのネタバレレビューを参考に、てきとうに茜さんに返答をするのだった。


 そして本と一緒に勧められている、探偵ドラマの方はというと…これもやはり俺は見ていない。


 一応、近所のTSUTAYAに行って、そのドラマを探してみたのだけど、DVDが全12巻とかあって、やっぱりやる気が削がれてしまい、すごすごと帰ってきてしまった。


 そんなに見なくちゃいけないのか…と思うと、面倒くさくなってしまった。

 それに探偵ドラマを見るとなると、ひとつ大きな問題があったのである。


 うちにはテレビが1台しかない。

 そして、そのテレビはリビングに置いてある。


 基本的に、犬彦さんは自分からテレビを見ることがない。

 (テレビには興味がないらしい、時間があれば本を読んでいる。)


 だから、いつも俺が見たいときに見たいものを見るためにあるテレビなのだけれど、それでもリビングに置いてあるのだから、どんなものが映っているかくらいは犬彦さんの目にも入る。


 それでもし、俺がそのテレビで、延々と探偵ドラマを見ていることに犬彦さんが気付いたとしたら、どんなふうに思われるだろうか?


 江蓮のやつ、また探偵ごっこを始める気だな…なんて思われるんじゃないだろうか?


 そんなのはイヤだった。

 ここではっきり言わせてもらうけれど、俺はもう探偵の真似事をするつもりはない。


 特に犬彦さんには、あの出来事をきっかけに俺が茜さんのように、推理をするという行為に面白さを感じているんじゃないかとか、そんなふうに思われたくなかった。


 もう犬彦さんに、どんな心配もかけたくない。


 だから、探偵とか、推理からは、卒業する。


 でも、茜さんという、これまでの俺の交友関係のなかには存在しないタイプの友人(と言っていいのだろうか?)ができたことは、素直にうれしかった。


 自分勝手でめちゃくちゃな人だけど、茜さんからは学ぶことがたくさんあったし、一緒にいて(迷惑なこともいっぱいあったけど)楽しかった。


 そんなわけで、茜さんのこともがっかりさせたくない俺は、ため息をつきながら、探偵ドラマの感想もまた、アマゾンのネタバレレビューを参考にとつとつと書いて、茜さんに返答したのだった。


 本当にアマゾンのレビューは偉大だ。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る