1 平穏と退屈のちがい
窓の外、校庭のほうから、歓声がきこえてきた。
体育の授業が、かなり盛り上がっているらしい、高跳びでもやっているんだろうか。
うとうとと、まぶたが閉じてしまいそうになるのを必死にこらえながら、俺はそんなことを考えた。
午後の授業はクソ眠い。
特に、休み時間に弁当を腹いっぱい食べたあと、数学教師の淡々とした声をBGMに、こんなに日差しが暖かな窓際の席にいるときなんかは。
ああ、だめだ、寝てしまう…。
カクッと首が落ちそうになったとき、俺の制服のブレザーのポケットに入れていた、マナーモードのスマホが数回ふるえて、その感覚でハッと一瞬目が覚めた。
またか…と思ったからだ。
授業中なので、もちろん今この場でスマホを取り出して、それが誰からの連絡なのかを確認することはできない。
でも俺には、心当たりがあった。
もう瞬間的に、ああ、また茜さんからだよ…と思って、ため息が出そうになった。
九月の連休も終わって、今はもう十月の終わりだ。
俺と犬彦さんは、それまでと変わらない日常に戻っていった。
それはつまり、犬彦さんは会社に行き、俺は学校に通うという、ごくごく普通の生活が繰り返されていく日々がまた始まったということだ。
朝、犬彦さんと一緒にごはんを食べたら、学校に行き、退屈な授業をこなしながら友達と遊び、うちに帰れば家事をこなして、晩ご飯の用意をしながら犬彦さんの帰りを待つ、そして夜になり、犬彦さんとのんびり過ごせば、あっというまに一日が終わり、もう次の日になる。
これが昨日という日であり、今日という日でもあり、そして明日という日でもある。
それでも、繰り返されるそんな平穏な日常のなかで、あの事件…九月の連休前とちがう部分があるとするなら、それが、茜さんからの定期連絡メールだった。
茜さんには夢があった。
それは、俺と茜さんで探偵事務所を設立する、という野望だった。
一度だって俺は、その茜さんの野望に対して、了解した覚えなんかないのだけれど、もちろんというか、当たり前のように、茜さんは俺の意思なんて気にしていなかった。
いつか東京で会おうとは話していたものの、あの事件の日から、直接はまだ茜さんと顔をあわせてはいない。
でも、あの直後から、頻繁に茜さんからメールがくるようになった。
その内容は…まあ、いつも同じだった。
だいたいこんなカンジだ。
『やあ、江蓮君!
元気にしているかな?
さてさて、来るべき我らの探偵事務所設立にむけて、オレ達には、やらなければならないことが山積している。
まあ、面倒なことは全部オレにまかせてくれていいよ。
君にはもっと大事なことがあるからね。
それはなんだか、もちろん分かっているよね?
それは、君の探偵スキルを上げるということだよ!
前回の事件、あのときの君の推理はお見事だった、しかし、あれは君にとっての初陣、プロの探偵になるというのならば、これから先、どのような難事件に出会ったとしても、完璧な解決力が求められる。
千里の道も一歩から、どんな天才だって陰で努力はしているものさ。
そんなわけで江蓮君、今回はぜひとも、これに目を通してほしい。
期待しているよ!』
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