第8話 死という概念

 この町から逃げるために、まずは情報収集することにした。さっき見たときにいなかったとしてもいまは上位個体がいるかもしれないからだ。


 宿の一階に降りてくると、扉から外の様子を覗いてみた。普通のゴブリンはそこら中にいるが、やはり上位個体はいなかったか。だからといって安心はできないが、いないことには変わりない。


 できればたくさんの魔物を殺していきたかったが、そのせいで、上位個体を呼ばれても面倒なので諦めることにした。


 作戦は至ってシンプル、隠れながら進だ。幸いここは宿屋なので食料はあった。それを詰められるだけ詰めると隣の建物に移動した。そのあとは同じようにばれないように魔物の隙を突いて移動していった。


 途中で何回か建物のなかでゴブリンとあったが、すぐに殺したため仲間を呼ばれたりはしなかった。


 それから2日ほどがたって、やっと門のところまでやってくることができた。常に気を張っていなければいけなかったため、眠ることもできず体力的にも危険だったが、なんとかここまで来ることができた。しかし門の前には上位個体であるゴブリンメイジやゴブリンソードがいた。今まで見ないと思っていたが、まさかこんなところを守っていたなんて。


 他のところは確認していないが、どうせ同じような感じになっているだろう。それに他のところまで行けるほどの体力は残っていない。やるしかないだろう。


 奴らを殺したあとは、その先にある森に逃げ込んで隠れることにしよう。そうと決まればまずは休憩だ。万全の状態でも負ける可能性が高い相手だ。少しでも体力を残した方がいいだろう。そして休憩しながらある物を作ることにした。これがうまく機能してくれれば、格上相手にも戦えるかもしれないからね。


 それから約一日眠ることはできなかったが、だいぶ体力を回復することができた。ついに決戦の時だ。


「‐―‐‐―【ストーンショット】」


 まず、魔法を使って敵を牽制した。急な攻撃に驚いている隙に門に向かって全力で走り出した。メイジは慌てて詠唱しだしたがそんなのはもう遅い。そこは私の射程範囲内だ。


 詠唱ができないように喉に向かってナイフを投げつけた。しかし、横にいたソードにはじかれてしまう。やはり二体は面倒だな。だが仲間意識があるならば、近接戦闘で魔法を打ちづらくしてやる。一気に距離を詰めるとソードに向かって短剣を振りかざした。私な短剣とソードの剣があたり私の方がはじかれてしまった。やはり力では負けている。いや、力以外も負けているだろう。


 このままではまずいので、昨日作っておいた玉を敵の顔面に向かって投げつけた。もちろんガードされるが、その瞬間玉は破裂し、中から粉が出てきた。これは食堂から盗んでいた調味料を混ぜて作った目潰しだ案の定敵は目が使えなくなったのか、その場で暴れ始めてしまった。その上、うまい具合にメイジの方に行き、慌ててるメイジに向けて剣を振るいだしたのだ。


 メイジにそれをよけるすべはなく、傷を負って倒れてしまった。その感触が伝わったのか、私を倒したと思っているソードが雄叫びを上げて喜びだした。馬鹿なやつ。自分の仲間を倒したとは知らず、敵に隙を見せるなんて。そのあとは後ろから近づいて首に一突き。絶命した。


 ランク3の魔物、本来なら戦うことすらしない敵に勝った。灯は確実に大きくなっている。成長している。このまま行けばいつかジェネラルだって


「うっ!?」


 何かに攻撃され壁まで飛ばされてしまった。さっきまでのソードとはレベルが違う。かすむ目で見るとやっぱり、そこにはジェネラルがたっていた。


 なんで気づかれたの。混乱してしまい思考がうまくまとまらない。傷の具合がひどすぎた。意識があるだけで奇跡と言っていいレベルだろう。だが、戦わなければならない。目の前にたっているのは死そのものだ。怖い。恐怖と痛みでうまく立てない。だがやるしかないのだ。ここで諦めるという選択肢は私にはないのだから。だから精一杯の虚勢でこう叫んだ。


「来いよ、おまえを私の灯の糧にしてやる」


「Goooooooooooo!」


 私の宣言と同時にジェネラルは雄叫びをあげた。その声を聞いた瞬間、何かがかみ合う気がした。あぁ、そうか、ソードの最後の雄叫びは勝ちどきじゃなくて仲間を呼んでたのか。それを最後に思考ができなくなっていった。意識が飛ぶ訳ではない。むしろ冴えていた。何も考えられない。ただ一つ、やつを殺すということ以外は。


 先に動き始めたのは私の方だった。


「------【サンドウォール】」


 普通なら壁にするサンドウォールを斜めに作り、道にした。小柄な私とジェネラルでは身長差がありすぎて急所まで短剣が届かないのだ。だがこれで届いた。


「戦技【急所突き】」


 戦技は使用後に隙が生まれてしまうのであまり好きではないが、いまは使うべきだろう。戦技によって強化された技がジェネラルの首に吸い込まれていって、はじかれた。


「えっ」


 そして振り下ろされた大剣で地面にたたきつけられてしまった。


「かはっ!?」


 たくさん血を吐き今度こそ終わってしまった。あの技は今の私にできる最大威力の技だったのだ。目の前にいるはずのジェネラルはやはり死そのものに思えた。そしてまた剣を振りかぶると私に向かって振り下ろしてきた。あ、死んだ。そう思ったがなかなか死なない。なにが起こっているのか見ようにも、目がうまく見えなかった。


「おまえ、なかなかやるな。少し前から見てたが身長差を埋めるために使ったサンドウォールなんてアイディアはよかったぜ。あとは力だが、おまえならそのうちついてくるだろう。まぁあとは俺に任せな!」


 よく分からないが助かったのだろうか。もし助かったのなら、今度こそジェネラルを倒せるくらい強くなりたいな。そう思いながら私の意識は沈んでいった。

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