第7話 スタンピート

 王都に向けて出発してから1週間がたった。この旅は王都に着くまでにいくつもの町を経由していくのだが、時間の関係でおいしいものを食べる時間もなくすぐに馬車に乗らなければならなかった。


 基本は野宿で、たまに町に泊まることもあるが、お金の節約のためにいい宿屋には泊まることができなかった。こんな生活を1週間も続けていたら不満もたまってしまう。


 まして、あと3週間もあると考えたら今すぐ王都に行くのをやめたくなってしまうほどだ。もちろんやめたりなんかしない。だが暇すぎてやばいのも事実だ。


 今日はもう暗くなっているのでこのあたりで野宿だろうか。そう思っていると御者が馬車を止めて野宿にすると言い出した。文句が口から出ないようにしながら野宿の準備を終わらせると、まずい保存食を食べてその日は眠った。


 それからさらに数日後についた町ではなんだか他の町と雰囲気が違っていた。他よりも人々が慌てている感じだ。どうせ私には関係ないだろうと馬車乗り場に行くと馬車を出すことができないと言われてしまった。どうやら町の近くの森でスタンピートの兆しがあったそうだ。


 これは困ったことになってしまった。スタンピートというと、魔物の大量発生のことだ。大量発生する理由は様々だが今回は魔物の上位個体が発生したことが原因らしい。


 しかもその森というのは、ランク2を基本にランク3なども出るというローハルの町にあった森よりもランクが高いようだ。これでは何の役にも立たないだろうからおとなしくしていよう。


 スタンピートは早くて数日中にも起きるらしく冒険者や町の騎士団はピリピリしていた。その雰囲気に当てられ一様準備だけでもしておこうと武器の手入れを念入りにやっておいた。


 そして、3日後ついにスタンピートが起こってしまった。攻めてきたのはゴブリンを中心にその上位個体のゴブリンメイジやゴブリンソード、そしてゴブリンジェネラルだ。ゴブリンジェネラルの上にもゴブリンキングと呼ばれる個体がいるらしいが今回はいないらしい。


 ゴブリンは一体一体は弱いのだが繁殖力が非常に高く集団行動をすることからランクは2に設定されている。その上位個体のゴブリンメイジやゴブリンソードはランク3、そしてゴブリンジェネラルはランク4に設定されている。現在この町にはランク4の冒険者が二人いるらしくジェネラルはその人たちに任せるらしい。


 私は一目見てびびってしまった。フェシャの時も恐怖は感じていたがそんなものとは比べられないほどの恐怖。


「あれがランク4」


 しかし感じたのは恐怖だけではない。私は高揚感も感じていた。あのときフェシャを殺したあのときに私の中でかすかに芽生えた気持ち。それととても似ていた。


 あれと戦いたい。自分を次のステージに進めてくれるであろうあれと戦いたい。自分よりも強いものを殺すことで私は次のステージに進めるだろう。


 だがそれは今ではない。この気持ちは閉じ込めておかなければならない。もし今飛び出していけば一瞬で殺されてしまうだろう。だからいまじゃない。着実にそして確実に強くなればいつかあそこに手が届くようになるだろう。それまでの我慢だ。


 大丈夫、圧倒的強者を見たことで灯はともった。まだ小さな小さな灯だがともったのだ。これを絶やさなければいい。定期的に薪を足していけばいい。殺して殺して殺して殺して殺し続けることでこの灯はともり続ける。この灯がともっている限り私は強くなれるのだから。


 気がつくと次の日になっていた。魔物はどうなっただろうか。なんとかなったのだろうか。そん思いながら窓を開けると、阿鼻叫喚とした景色が広がっていた。たくさんの人が死んでいて、魔物たちが我が物顔で町を歩き回っていた。


 負けたのか。そう理解するには十分すぎる景色が広がっていた。私のところまではまだ来ていないようだがそれも時間の問題だろう。こんな状況でよく眠っていたと自分を褒めてやりたかったがそれは後回しにして、この状況をどう切り抜けるかを考えることにした。


 絶望的だかまだ可能性はあるだろう。さっき見た限りでは普通のゴブリンしかいなかった。上位個体は死んだか。それとも他の場所にいるだけか。どっちでもよかったがとりあえず最悪を想定してジェネラルも生きていると考えよう。


 でもここにいないのは事実だ。なら今のうちに行動してしまった方がいいだろう。そうと決まれすぐに移動しようと思い荷物をまとめていると一階の方から声がしてきた。ゴブリンが来たのだろう。殺すか。


 すぐに思考を切り替えてゴブリンを殺すことにした。扉の横に隠れはいってくるのを待った。足音や声の感じからして三匹だろうか。いや、何匹でも関係ないかだって全部殺すだけだから。


 ついに私のいる部屋まではいってくると一匹目はその瞬間に首に短剣をさして殺し、騒がれる前に二匹目を殺した。三匹目はそのまま逃げ出したので、短剣を投げて足を止めると後ろから飛びつき馬乗りになってひたすら顔を殴り続けた。しばらくすると動きが止まり絶命した。血だらけの手で短剣を拾うと、高揚感から上がってしまう口角を必死に下げながら脱出までの道筋を考え出した。

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