第2話 次の町へ

 下水道の中は想像以上に暗かった。その暗さが不安を大きくするが無視して進む。どのくらい歩いたのだろうか。暗くて何も見えないため確認のしようがなかった。


「キュー!」


「っ!?」


 ここは普段から冒険者によって魔物が出ないように掃除がされているがそれでも魔物は出てきてしまうらしい。そのため定期的な見回りもされているのだが、今回は運悪くその間をついてしまったらしい。こんなところにいる魔物なのだから夜目はきくだろう。


 私は動くこともできずできるだけ見つかりにくいように身をかがめるくらいしかできなかった。恐怖で体が震える。さっきまでの漠然とした恐怖じゃない、もっとしっかりした恐怖だ。死が見える気がした。体の震えが止まらない。


「ここで死んじゃうのかな」


 黙ってなきゃいけないとは思っていたが不意にそんな言葉が漏れてしまった。幸いそれにつられて魔物が来ることはなかった。


 どれくらい縮こまっていたのだろうか。あれっきり魔物の声が聞こえることはなかったが、うまくたつことができずそのままじっとしていることにしていた。やっと立てるようになったので袋の中から雑貨屋で買ったナイフを取り出すと、それを構えながらまた歩き始めた。


 さっきの魔物がなんだったのかは私にはわからない。ただ言えるのは出会ったら死ぬということだけだろう。認識が甘かったのかもしれない。危険があることは分かっていたはずなのに心のどこかで大丈夫だと思ってしまっていたのかもしれない。認識を改めないといけない。私はまだ死にたくないから。


 その後しばらく歩いているとやっと光が見えてきた。きっと出口だろう。私は生まれてからの10年間ずっとこの町で過ごしてきた。親の顔は知らない。死んだのか、そうでないのか知らないし知りたいとも思わない。私を捨てた人のことなんてどうでもいい。この町ではいい思い出なんて何一つなかった。だから逃げた。孤児院から。町から。私は自由になった。この後のことなんて今は考えられなかった。自由になった。その事実がうれしすぎたから。


 その光は予想通り出口だった。下水自体はまだ先まで流れていくが私はすぐに近くにあった森に入ることにした。森の中は危険かもしれないがこんなところで子供が一人でいるのを見られる方が危険だろう。隣の町までは道に沿って歩けばいいのだが子供の私が一人で歩いていると怪しまれるのでできるだけ見つかりにくいように森の中を移動することにした。


 なれない森の中の移動だったけど思ったよりも順調に進むことができた。途中で人を見かけたがそのときは気づかれないように息を潜めて隠れることにした。


 途中までは順調だったのだがここで問題が発生した。


「食糧が足りない」


 はじめは二週間位でつくと考えていたのに、いざやってみると二週間では半分くらいまでしか来ることができなかった。残りの食料はあと2日分くらいだろうか。


「どうしよう」


 また言葉が漏れてしまった。不安になるとつい言ってしまう癖は直した方がいいだろう。言葉にするだけでは何も解決しないのだから。そんなことよりも今は解決策を考えなければいけない。


 私が強ければ魔物を倒して食べると言う選択肢もあっただろうが、私は魔物を倒せるほど強くはないのでこれはできないだろう。そうなると方法は限られてくるが私は一芝居打つことにした。


 まず辺りの土で体を汚すと残りの食料を袋からだし、人が来るのを待った。それから数時間後一組の集団が通りかかった。男が三人と女が二人の五人組だ。格好からして冒険者だろう。覚悟を決めてから私はその人たちの前に出ていった。


「うわっ!なんだおまえ」


 突然飛び出した私に対して彼らは驚き武器を構えだした。


「あ、あの私、ば、馬車が襲われてそれでお父さんたちが」


 絞り出すかのような声でそう答えると彼らはそれだけで事情を察してくれたようだった。


「魔物か山賊にでも襲われたのか」


「ねぇ、この子どうするの?さすがにこのままって訳にもいかないでしょ」


「そうだな、とりあえず次の町までつれてってやるか」


「俺たちはここから少しいったところにある町まで行くんだけど君もついて行くかい?」


 どうやらあたりを引いたらしい。これでもし悪いこともやっている人だったら私はここで終わっていただろう。そう思いながら小さくうなずいておいた。


 彼らの名前はまずリーダーのジョン、ハンス、ラルフ、エミー、カタリアと言うらしい。数日間一緒に行動するのだから覚えておいた方がいいだろう。彼らは私を気遣ったのかあまり話しかけてこなかった。それでも私の聞いたことには普通に答えてくれた。特に冒険者ギルドのこととステータスのことは知ることができてよかった。


 冒険者ギルドは冒険者たちが所属している集まりのことだ。ギルドにはランクというものがありそのランクに応じたクエストを受けることができるらしい。はじめはランク1から始まりランク2、ランク3と徐々に上がっていくらしい。ランク3になればギルドでも中堅生活もかなり安定していくらしい。ちなみに彼らのランクはまだ2らしい。


 ステータスとは個人の能力値のことをいうらしい。筋力、魔力、俊敏、耐久、器用これのほかにスキルを含めたものを言うらしい。ステータスを知るには鑑定の魔道具かスキルが必要らしい。魔道具は一個銀貨5枚と割と高めだが一つで何回か使うことができるらしい。町に着いたら確認してみようと思った。


 それから数日後ついに町に到着した。

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