孤児な少女の生活記録
香島アメ
第一章 強くなる理由
第1話 初めての選択
「さっさとどっか行っちまえ」
そんな暴言を吐かれながら私は路地裏に向かって歩いていた。私は親の顔を知らない所謂孤児というやつだ。今は孤児院にいるがお世辞にも環境がいいとは言えない。でもそれも仕方がないと思っている。誰も好き好んで親無し子の世話なんかしたくないだろう。今の院長も町からの援助金目当てでやっているだけだ。
私はもう自分の人生に絶望していた。この孤児院では職業訓練なんてものは無く12歳を過ぎれば追い出される。たまに里親に出される奴もいるがそんなやつは大抵顔が良い奴なので私では期待できない。
そんなことを思っていたら孤児院に着いてしまった。孤児院は路地裏にあるこのボロボロの家だ。そんな孤児院からちゃんとした食べ物が出るわけが無い。そしてそんな少ない食べ物ですらほとんどを上の子に取られてしまう。なので私みたいな子は露店の廃棄物を探しに行かなければいけないのだ。でも今日は何にもなかった。
「おなかすいたな」
自然とそんな言葉が口から漏れてしまっていた。いつものことだとわりきっていたとしてもすいてしまった物はどうしようもない。
「おいリア、おまえどこに行っていたんだ。今日の掃除当番はおまえだろさっさとやれ」
そんなことをいってくるのはこの孤児院の院長だ。自分は何もしないくせに私たちばかりにやらせる、でもそれももうどうでもいい私はこの日のために1ヶ月準備してきたのだから。
1ヶ月前私は院長室の掃除をしている最中に院長が隠していたお金を見つけた。そのときは心の底から歓喜した。やっとこんな生活から逃げ出すことができると。逃げたとしてもいい生活ができるとは限らないけど今が変わるならそれでいいと私は逃げ出すことに決めた。
逃げるとはいってもどこに行けばいいのかさえわからなかったからまずは計画を練ることにした。まずお金を盗んだ後は路地裏にある雑貨店で食料を買う。この店はお金さえあれば誰に対しても物を売ってくれるのでここで買うことに決めた。その後下水道を通って一気に町の外まででて隣の町までいくというものだ。幸いこの辺りはあまり魔物が出ないのできっとうまくいくだろう。そして1ヶ月また私の掃除当番が来るのを待っていた。
「確かここの板の下にあったはず」
板の下には前と同じように、いや前以上にお金が貯まっていた。それを隠し持っていた袋に詰めると水を入れておく用の桶に入れてばれないように孤児院から出た。
「もう掃除は終わったのか」
その瞬間院長から話しかけられてしまった。
「み、水をくんでくるところです」
冷や汗をかきながらそう答えた。もしばれてしまったらどうしようと、緊張から手が震え始めてしまった。
「まだそんなことも終わってなかったのか。そんなでは日が暮れてしまう、さっさとくんでこい」
「は、はい!」
なんとか疑われずにすんだようだ。でもまだ安心はできない次は雑貨屋に行かなければいけないんだから。そう思いながら汗を拭くと雑貨屋の方に向かって走り出した。
「ついた」
孤児院を出たところで院長とあったせいでここまで来る道のりは生きた心地がしなかった。でもここまでこれたなら計画も半分は完了したといってもいいだろう。そんなことを思いながら建物の中に入っていった。中には愛想のないおばあさんが一人いるだけだ。冷やかしと思われたのか鋭い目つきでこっちをにらんでくる。正直怖いが気にしないようにして食べ物を選んでいく。
隣の町までは大人の足でも一週間はかかるらしい。子供の私だとその倍くらいだろうか。とりあえずそのくらいの食料とナイフを1本選んでおばあさんの元に持っていく。
「これください」
「金貨1枚と銀貨3枚だね」
私でもわかる、ぼったくりだ。だからといってほかに当てがあるわけではないのでここで買うしかない。孤児院から盗んできたお金は全部で金貨7枚と銀貨4枚だったので足りる。お金は10枚で一つ上のものと同じになる。つまり鉄貨10枚で銅貨1枚、銅貨10枚で銀貨1枚という感じだ。
「どうぞ」
「用事が終わったならさっさとどっかにいっちまいな」
急いで袋に食べ物を詰めると急いで店を出た。この後は下水道に入って町を出るという計画だ。下水道の入り口は町の外れにありあまり人目につかない。それにモンスターがわかないようにと定期的に冒険者の人が掃除をしているらしい。
下見で一回行ってみたときは特に見張りもいなくて入るのは簡単だった。道も一番大きな通路を通っていけば町の外に出られるらしい。
「ハァ、ハァ、ハァ」
肩で息をしながら中を覗いてみたが前来たときよりも怖かった。理由はわからないが急に恐怖が襲ってきたのだ。でもいかないという選択肢はなかった。もうあの生活には戻りたくなかったし、何よりもうお金を使ってしまったのだ。このまま元の場所に戻したとしても減っていることに気づいた院長に使ったことがばれてしまうかもしれない。
「もう後戻りはできない」
声に出して自分を鼓舞すると暗い下水道の中に入っていった。
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