第1話

穏やかな春の、よく晴れた昼下がり、いかにも「社長」という感じの椅子に腰掛けて、机に足をのせながら駄菓子を齧る男が一人


カリ...カリカリ...カリ


〈ピーンポーン〉

どうやら来客のようだ



カリカリ...カリカリカリ



〈ピーンポーン〉

「あの、ご依頼があって参りました」


カリカリカリ…カリ




「瑞生さん!ご来客ですよ!!」

どこからか現れた男が駄菓子を食べている男に声をかける


「うおあっ、まじか!春樹、お茶を頼む!!」

瑞生と呼ばれた男は気がついていなかったようで、慌てて出迎えに走っていく。


「おまたせして申し訳ありませんでした!沢野祓魔相談所の沢野瑞生です!どうぞ、中へお入りください!」

「は、はい…」

来客(依頼人)は、いきなり飛び出してきた瑞生に驚き、上ずった声で返した。




……………………………………



依頼人は長い黒髪を後ろで束ね、大きな丸メガネをかけた背は低めの女性だった。

瑞生は依頼人を相談スペースのソファに座らせ、話を始めた。


「改めまして、沢野祓魔相談所の沢野瑞生です」


沢野瑞生と名乗った男は、170cm後半の身長に黒いスーツを纏わせている。

軽めの金髪を後ろに流し、切れ目気味の目には詐欺師のような胡散臭いメガネをかけることで、真面目な印象と胡散臭い印象を絶妙なバランスで併せ持っていた。



「矢島と申します。古桐さんの紹介で参りました」


古桐、古桐美奈は瑞生の高校の同級生だ。

魔物に取り憑かれやすい体質の彼女は、瑞生に格安で祓ってもらう代わりに、こうして依頼人を集めている。


「美奈の紹介…。どういったご関係ですか?」


「職場の先輩、後輩です。」


「ああ、なるほど。わかりました。ご依頼内容は?」


「最近引っ越した部屋の話なんですが、部屋に居るとへんな寒気に襲われたり、誰かの気配を感じたり、スマホを触ってても急に電源が落ちたりノイズが走ったりして。怖くなって友達に相談して部屋に来てもらったんですけど、部屋に入った途端に『怖い』って言ってすぐ帰っちゃって。

で、頼りになる先輩である古桐さんに相談したら、部屋に来てくれて、『しばらく私の家に泊めてあげるから、ここに相談しに行け』ってここの住所と電話番号を貰ったんです。」


「なるほど、実は美奈から話は聞いてt…「お茶が入りましたよ」……ありがとう」


キッチンの方から湯気のたった紅茶とクッキーの入った箱を持って、春樹が歩いてきた。





「すいません、話を遮ってしまったみたいで」


「いえいえ、全然」


「紹介しておきますね。こいつは助手の春樹です」


“春樹”と紹介された男は180cmほどの身長のすらっとした体型で、黒いジーパンと灰色のパーカーを着ていた。

若干タレ目の目元にはうっすらとくまができている。



「春樹です。ここの管理、経理を全部任されてます」


「は、はあ」


「余計なことは言わなくて良いんだよ。

あ、お茶どうぞ。安物ですが美味しいですよ。このクッキーも春樹が焼いたんです」


箱に詰められたクッキーは百貨店で売られているほどに美しい仕上がりだ。



矢野は小腹が空いていたのか、一番大きなクッキーに迷いなく手をのばした。


サクッ

「美味ひいれす!!すごい!!レモンの香りがします!!」


「気づいて貰えて嬉しいです!普段食べてる人達は美味いか不味いかの判断しかできないほどのバカ舌で…」


春樹は心底恨めしそうに瑞生を見ている。


「誰がバカ舌だ、この野郎」



続いて紅茶に口をつける。

「紅茶も美味しいです!クッキーとよく合ってて!!私、ストレートではあんまり飲まないんですけど、飲みやすくてすごく美味しい!」


「春樹の入れる紅茶は本当に美味しいんですよ」


「バカ舌達でもわかるくらいですから」


「だから、誰がバカ舌だ!美奈にもチクってやるからな」




それからしばらくの間三人は、春樹がクッキーと紅茶について矢野から質問責めにされ、なぜか瑞生がそれに答えて、春樹に訂正される、ということを繰り返していた。

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祓魔師の(非)日常! @kiritake

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