第11話:少年

 がさごそ……。



 木陰が揺れる。

 その瞬間に小さな影がまっすぐ聖女へ向かって飛び出してくる。


 手には鈍く光る銀色のナイフが握られていた。




――やはり追っ手か!?




 俺はリーナを後ろに飛ばす。




「きゃっ!?」




 リーナの悲鳴が聞こえたが、それは無視して少年のナイフを受け止めていた。




「おいっ、なんのつもりだ? まさかお前もリーナを狙っているのか?」



 少年の服はボロボロ。

 まともに風呂も入れていないようで、汚れは付いたまま。

 

 どう見ても貧困街の住人だった。


 神を信じているようなタマではないはずだが?

 いや、そこは金でどうにでもなるか。


 

 ただ、戦い慣れてはいないようで、ナイフは両手で握り、恐怖からかその足は震えていた。




「――聞いているのか? まぁいい。動けなくしてから後の話を聞く」




 俺は意識を集中して、少年を見る。

 その挙動一つ見逃さないように……。


 隙を見せた瞬間に一気に制圧できるように……。


 ただ、その瞬間に予想もしていない攻撃を受ける。




「アルクさん、ダメです!!」




 後ろから、護衛対象であるはずのリーナが俺に対して、飛びかかってくる。


 その予想外の攻撃によって、意識が途切れ、舌打ちをしながらサッとそれを躱していた。




「あっ……」




 その勢いのまま、リーナは地面に顔をぶつけていた。


 ――場に流れる沈黙。


 すると、少年は後ろを向き、逃げ出していた。




「逃がすか!」




 それを追いかけ、ものの数秒で少年を後ろから捕まえていた。




「は、離せ……」




 首根っこを掴まれて、ジタバタともがく少年。

 もちろん襲ってきたのだから逃がす道理はない。




「――何が目的だ?」




 威圧ある声を少年へ向けて発する。

 すると、少年は息を飲み、俯いてしまった。




「そうか、話さないのならもう用はない」




 俺は手に持っていた短剣を少年に突きつける。

 そして、それを突き立てようとした瞬間に再びリーナが俺に向けて突っ込んでくる。



 ただ、一度受けた攻撃なので、意識の片隅にそれを残していた俺は、今度こそ余裕を持ってそれを躱していた。




「いたいですぅ……」




 また顔から地面に激突するリーナ。




「お前はいったい何がしたいんだ!?」

「その子、殺すつもりですか?」

「殺しはしない。でも、追っ手である以上、ある程度痛めつける必要があるだろう?」

「そ、そんなことをしたらダメです! き、きっと、その子にも色々と事情があったはずです」

「あのな……。事情はどうあれ、お前は命を狙われたんだぞ? そんな流暢なことを言っている場合じゃないだろう?」




 思わず俺はため息を吐いていた。

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