第9話:出発

 翌日、早々に俺たちは王都へ向けて出発していた。

 昨日の出来事があったので、俺は周囲を警戒していたが、聖女はまだまだ寝起きなようで、あくびをかみ殺していた。




「ふぁぁぁ……、まだ暗いですよ……」

「出かけるならこのくらいが普通だ」

「私の普通じゃないですよぉ……」




 どうにも緊張感に欠けている。

 自分が逃亡者であることを分かっているのだろうか?


 聖女のその様子に思わずため息が出てしまう。




「そういえば、アルクさん! 一つ言いたいことがあるのですけど」

「――なんだ?」

「私の事をなんて呼んでいますか?」

「――聖女だが?」

「役職で言ったら私が聖女だってバレてしまいますよ! これからは私の事はリーナと呼んでください!」

「――めんどい」




 ただ聖女の言っていることも一理ある。

 堂々と聖女と言い続けていた方が、厄介ごとに巻き込まれて面倒なことになりかねない。

 それを考えると、やはり聖女呼びを続ける理由がない。


 でも、それを他ならぬ聖女自身に言われたことが腹正しかった。




「あっ、ま、待って下さい、アルクさんー」

「ほらっ、早く行くぞ、リーナ」

「っ!? はいっ!!」




 なぜかうれしそうに笑みを浮かべて俺の側にやってくるリーナ。

 ただ名前を呼んだだけなのに大げさなやつだな。

 そういいながらも俺の口元は笑みが浮かんでいた。


 ……? どういうことだ? どうして俺は笑っている?


 リーナは俺とは全く関係ない。

 他人の事なんてどうでも良かったはずなのに……。


 それを不思議に思いながら、王都へ向けてまっすぐ進んでいた。






◆◆◆






「聖女はまだ殺せないのか!!」




 神官の男は怒りを露わにして、近くにいた男を怒鳴り散らしていた。




「も、申し訳ありません。今、刺客を送っておりますので、もうしばらくお待ち下さい」

「ふんっ、どうせ大したことのない奴らなんだろう? 御託はいいから早く倒してこい!」




 部屋から男を追い出すと、荒げていた呼吸を整える。




「全く……、邪神を信仰する聖女なんて、百害あって一利なしということがわからんのか。邪神が世界を救った……なんてことが知られたら、我々は終わりなんだ。教会の威光がなくなってしまうことがわからないのか」



 そんなとき、奥の部屋から小柄な少女が姿を現す。




「邪神がどうかしたのですか?」

「これはこれは聖女様。邪神はこの世に混乱をもたらす悪いやつですから、なんとしても邪神を信仰する奴らは消さないといけないって話していたところですよ」

「邪神は怖い人……?」

「はい、そうです。だから聖女様も邪神の換言なんて聞いてはいけませんよ」

「わかりました」

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