第8話:神官

「そんな悲しいことを言わないでください……」

「いや、それが人の本性だ。他人のことなんてどうでもいい。信じられるのは自分だけだ」

「そんなことないですよ。少なくとも、私は信じていますよ。教会の皆さんのことも。もちろんアルクさんのことも」

「――裏切られたのにか?」

「きっと、何か事情があったのですよ」




 おめでたい頭の持ち主だったようだ。

 いや、聖女なんてこんなものかも知れない。


 まぁ、依頼だけ終えたらもう会うこともないだろうし、適当に話を合わせておくか。




「そうか。まぁ、王都に行けばわかるんだよな?」

「きっと話したらわかってくれると思いますから……」

「なら、今日は早く寝るぞ。俺はまた少し出る。先に寝ておけ。聖女の部屋にあるベッドと違って、固く使いにくいかも知れないけどな」

「えっ、ベッドを使ってもよろしいのですか?」

「床で寝る方が好きならそうしても構わないぞ?」

「い、いえ、ありがたく使わせていただきます」



 聖女がペコペコ頭を下げているのを見た後、俺は家を出ていった。

 その理由はこの家の中を窺う気配を感じたからだった――。







 外に出ると、なにやら少し騒がしかった。

 俺は近くにいた奴に状況を聞いてみる。




「何があったんだ?」

「アルクか……。いや、金も払わない不届き者がいたのでな。ちょっと教育を施してたところだ。しかも、タダでな」

「――そうか。優しいんだな」




 男の側には殴られた形跡のある神官服の男が倒れていた。

 息を荒げて、なにやら呟いていた。




「わ、私にこんなことをして、神のバチが当たっても知らないぞ……」

「ほう。つまり、お前に教育をすると神が現れてくれるのか。それなら好都合だ。色々と神には聞きたいことがあるからな」

「ひ、ひぃぃぃ……。わ、私はただ神官長に依頼を受けただけで……」

「わざわざ人にものを頼んだくせに払うものを払わなかったんだろう? それならば仕方ないはずだ」

「払う。払うからもう許してくれ……」

「いや、神に会わせてくれるんだろう? それなら止めるわけにはいかないし、対価はそれで構わないぞ?」




 ははっ、無茶を言ってるな。

 どうせ神がこの世にいるはず無いことくらいわかっているはずなのに。


 祈れば皆平等に幸福を与えてくれる神。

 そんなものがいるなら、貧困街なんてあるはずがない。


 それとも俺たちは救うべき人間ではない……ということだろうか?


 とにかく、そういう事情を持っている彼ら、貧困街の人たちからしたらただ神に祈れば良いと言ってくる神官は敵でしかなかった。




 そして、神官がわざわざこんな場所へ来た理由。

 もちろん聖女を探して……だろうな。

 つまり、ここももう安全ではない……と言うことに他ならなかった。




 これは明日の朝一にでも出発した方が良さそうだな。

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