第6話:着替え

「これはまた変わったものを――」

「――わからないのか?」

「だーっ! まだこれから見るところだろ!」

「――早く見ろ」

「ったく。これだからアルクは……」




 口では文句を言いながらも真剣な表情で、指輪を眺めるヴァン。

 そして、宝石の中に書かれた文字を見て、その動きを止めていた。




「おい、これをどこで手に入れた?」




 ヴァンが険しい表情で聞いてくる。

 ただ、それに怯むことなく、毅然とした態度で言い返す。




「――お前には関係ないだろ?」

「確かに違ぇね。しかし、黙って危険に突っ込んでいく友人を放っておくことは出来ねぇよ」

「――友人? お前に友達がいたのか?」

「おめぇのことだよ!? 何驚いてんだ!」

「――違うな。俺とお前はただの客とぼったくり店主だ」

「……はぁ。お前はそういう奴だよな。とにかくこれを買い取ることはできない。聖女がらみのものは教会そのものを敵に回すことになる。そんなことをしたら命がいくつあっても足りねぇよ」

「――俺が人のために動くとでも思ったか?」

「思わねぇよ。でも、お前のことだ。首くらい突っ込んでもおかしくないからな」

「――わかったよ。適当に気をつける」




 既に手遅れだけどな。

 あの聖女が俺の側にいる限り、常に命は狙われるだろう。


 しかし、すでに依頼は受けている。

 金ももらっている以上、俺が約束を違えることはない。




「はぁ……。わかっていなさそうだな。まぁ、ちょっときな臭い動きがありそうだから、俺の方でも少し調べてみる。何かわかったら教えてやるよ」

「――いや、いらない」

「遠慮するな。俺とお前の仲だろう?」

「――どうせ何か頼みたいことでもあるのだろう?」

「わかるか? 実は困った案件を抱えていてだな……」

「――それじゃあ、俺は行く。またな」




 聖女の形見を受け取ると、俺はさっさとその場を去って行く。

 当然ながらヴァンはそれを止めようとするが、気にすることなく俺は自宅へと戻っていった。




◇◇◇




 家の中へ入ると、聖女がなぜか上半身裸で背を向けていた。




「――な、何をしている?」

「えっ? きゃあぁぁぁぁぁぁ……」




 俺の声に反応した聖女は慌てて、その場に蹲り、体を隠していた。

 しかし、俺は気にすることなく椅子に座っていた。




「まさか聖女に露出癖があるとは思わなかったぞ」

「ち、違いますよ!?  ちょっと体を拭こうと思っただけなんですよ」

「そうか……」

「って、なんで平然としてるのですか!?」

「別にお前が人前で全裸になろうが興味はないからな」

「ちょっとは気にして下さい!!」

「――それより服を着なくて良いのか?」

「そ、そうでした。見ないで下さいね!」

「だから俺は興味がない。勝手にしろ」

「はい、勝手にさせてもらいます……」




 俺の後ろからもぞもぞと動く音が聞こえてくる。




「そういえば、聖女ってその服しか持っていないのか?」

「きゃぁぁぁぁ。だからなんで振り向くのですかぁぁぁ!?」




 振り向くとちょうど聖女が服を着ていたタイミングだった。




「だから、聖女の裸には一切興味がない。それよりもその服の方が問題だ」

「私にとっては今の状況の方が問題がありますよ!?」

「そんなことよりどうなんだ? 今の服以外に持っているのか?」

「うぅぅ……、ちょ、ちょっと待って下さい。すぐ着ますから……」




 聖女はもぞもぞと急いで服を着ると、顔を真っ赤にしながら俺の方を向いてくる。




「私、逃げてきたので服はこれしかないんですよ。アルクさんがしばらく出かけるって言ったから、今のうちに体を拭こうと思ったのに……」

「なんだ、俺の事なんて気にせずに続けてくれても良かったんだぞ?」

「そ、そんなことやりません!!」

「それより服はそれだけか……。仕方ない、ちょっと待っていろ」

「――? また出かけられるのですか?」

「あぁ、すぐに戻ってくる。だから、安心して体を拭いてくれ」

「すぐ帰ってくるのなら待っています!」



 頬を膨らませて顔を背ける聖女をよそに、俺は再び家を出ていった。







 戻ってきた俺の手にはボロボロの服が数枚。

 もちろん、これらは全部聖女への服だった。




「えっと、これって……?」

「――服だ」

「そ、それはわかりますけど、私、服は持ってますよ?」

「その服だと目立ちすぎる。また襲われたいのか?」

「うぐっ……。わ、わかりました。では、こちらに着替えますね」




 俺から服を受け取ると、そのまま固まっていた。





「どうした? 着替えないのか?」

「き、着替えます! だからあっち向いててください!」

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