2-5. 狩人返しの雪原

【クスク村周辺地図】

 ①②③

 ④⑤⑥

 ⑦⑧⑨


 ①……???

 ②……???(スカディの宮殿?)

 ③……???

 ④……『水精の滝壺』

 ⑤……『大猪の森』

 ⑥……『狩人返しの雪原』 ←〈現在地〉

 ⑦……『長老小屋』

 ⑧……『クスク村』

 ⑨……『雪神の祠』


 ────────────────────


冒険者達は、成人の儀の装束を持ったアニウと病床のアプトを伴って再び出発した。目指す先は、地図上の最北端に位置すると目される『雪神の城』──すなわち、古代妖精スカディの氷の宮殿である。


GM:ひとまず、君たちは大量の毛皮でほぼ断熱状態にしたアプトをステラの騎獣、《グレートカルキノス》に括り付けて移動を開始した。

ステラ:よく考えたら揺れないカルキノスの方が適任かなって思った。

サー:その通りですね……。ダックス君には【ナーシング】だけしてもらいましょう。

GM:絶対に落ちないように頑張って括ってる関係で、これ以上カルキノスに人は乗れないし、当然戦闘にも参加できない。それはOK?

ステラ:大丈夫。移動する足場がなくても戦えるのは、イノシシ相手に確認済み。

GM:そういえばそうだった……。

リューラ:あ、忘れず雌の山羊も一頭連れて行くよ。シルフとの約束だし。


冒険者達は村の北の崖でシルフと合流し(シルフはあくびをしながら村の子供達につむじ風で悪戯をしていた)、慎重にアプトを森へと下ろしてもらった。


GM:崖の上と下をさらに二往復させられたシルフは流石に少しくたびれた顔だったが、巣穴で子イノシシ達が山羊の乳房に夢中で吸い付くのを見るとたちまち笑顔になった。「いやぁ、あんたらのお陰で助かったぜ!お礼に何でも教えてやるよ、俺はこの山のあちこちに行ってるからな、どんな場所についても詳しいぜ」

ステラ:おー!これで情報が手に入る‼︎

サー:色々あったのですっかりシルフの事は頭から抜け落ちてたんですが、普通に報酬としては破格ですね。急いでる状況ではありがたい……。


冒険者達が相談の上でシルフに尋ねたのは、次の内容だった。


・『果てのユカラ』(透き通ったきれいな冠)の行方を知らないか

・『狩人返しの雪原』の魔物について

・詳細が判明していない残り3つのエリア(①②③)について


それに対するシルフの回答は次の通りだった。


・綺麗な冠なら、こないだ『雪妖精』のフラウ共が噂話をしていたのを耳にした。何でも少し前に東の雪原で拾った綺麗な冠を、毎日仲間たちに自慢してるフラウがいるらしい。

・東の雪原にいるのは、スカディの加護を受けた白くてでかいネコみたいなやつ。数が結構いるし完璧に雪に紛れるけど、見分けるコツがあるので、それを教える。(後々に奇襲を見破る判定に+2のボーナス修正を得る)

・北西(①)にはスカディ、つまり『雪神の宝物庫』がある。とんでもないお宝が眠ってるらしいが、スカディは誰にも手出しできないようにそこを極めて寒くしている。うっかり迷い込みでもしない限り、近付かない方がいい。北(②)には一年中猛吹雪に包まれている『吹雪の山頂』がある。何でも吹雪を起こしてるのはスカディの眷属の一体らしく、この森からまっすぐ山頂を目指す者は、そいつの引き起こす雪崩によって必ず酷い目に遭う。北東(③)は小さな洞窟が沢山空いてる斜面になっていて、その一つ一つは『雪妖精フラウの棲家』になっている。ヴァンニクもそうだが、奴等は妙な物ばかり集める癖があるから、洞窟の中はそういったガラクタで溢れかえってる。


ツバキ:「助かったぞシルフ。ここまで詳しく分かれば、方針も建てやすい」

GM:「いいって事よ!世の中持ちつ持たれつさ。アンタ等のお陰でおいらももうしばらくこの趣味が続けられるってもんだ」シルフは子イノシシを突いて笑っている。

リューラ:「言っとくけど、ここまでさせといて気まぐれに殺したりしたら……」

GM:「おー怖!しねぇっての!」

サー:「さて……『果てのユカラ』はおそらく『雪妖精の棲家』に暮らすフラウの誰かが持っているに違いあるまい」

ステラ:「だからまず『狩人返しの雪原』を抜けて、それから『雪妖精の棲家』で冠を回収して……」

リューラ:「後は……スカディの所に殴り込みをかける!」ゴールが見えてきたぁ!

ツバキ:「あくまで交渉第一だ。……俺たちではアプトを助けられない」

リューラ:「あー、そうだったわね……」頼むぞー、光の妖精とか居てくれ!

GM:では次の行動は東の『狩人返しの雪原』への移動かな。シルフは去りゆく君たちにいつまでも手を振っている。

ステラ:村の子供を転ばせまくってたのはアレだったけど、それを除いたらすごく良い子だった……。


遺体捜索開始から二日目の夕方、一行はまばらな木々が点在する、広大な雪原へたどり着いた。


GM:足元の雪は腰までの深さがあり、君たちの動きを大きく阻害するだろう。動物の気配はなく、風が木を揺らす音だけがごうごうと響いています。

ツバキ:「油断するな。必ず潜んでいる筈だ」

アニウ:「うう、この雪じゃ満足に走れないし、おっかぁもいるから……どうしよう」

サー:「どうしたものか」腕組みしつつ歩きます。ざぼざぼ。

リューラ:「数がいるのは面倒ね」


そうこうしている間に、いつの間にか冒険者達は何かに取り囲まれていた。


シルフの助言があったものの運に恵まれず〔危険感知判定〕には失敗、冒険者達は真っ白な毛並みを持つヒョウ《フロストパンサー》の群れに挟撃を受けてしまう。


GM:ふふふ、こいつは1体につき3回攻撃できるんだ。(ころころ)右クロー、左クロー、そしてバイト!ツバキの血が雪原に舞い散る。……あれ、なんでまだ立ってるんだ……?

ツバキ:HPが2だけ残った。

リューラ:首の皮……。


しかし、ここでサーが機転を利かせた。


サー:【魔法指示】でダックスに【ハードウォーター】を使わせます。雪も広義で言えば水、埋もれずに行動できるのでは?

GM:いいね!そのアイデアは採用しよう。

ツバキ:……よし、サーのお陰で雪面に射出された。「こちらの番だな」

リューラ:「今日の晩飯はヒョウの丸焼きね!」

ステラ:「肉食動物の肉は美味しくないって聞くけど……」

GM:勝った気になるなよ!戦いはまだこれからなんだぞ‼︎


しかし冒険者の手番が終わった時、そこには完全に戦意を失ったフロストパンサーが1頭残るのみだった。


GM:トドメを刺しにいく?ヒョウの毛皮はそこそこ高く売れるよ。

サー:「失せよ、獣よ!どこへなりとも行くと良い!」サーは見逃します。皆は?

リューラ:「終わりね」放置!

ツバキ:「殺す必要がないなら、それに越したことはない」

ステラ:「……うん」少しだけほっとした表情。

GM:では、残った瀕死のフロストパンサーは足を引き摺って、のたのたと雪原を歩き去った。戦闘終了だ!

ツバキ:その姿を見ながら呟く。「治療してやるべきだったか……?」

GM:まず自分を治しなさい。HPまだ2点だぞ。


戦利品として死んだヒョウ達から皮を剥ぎ取り、雪原の安全を確保した冒険者達は、即席のかまくらを作って『休息』を選択した。その夜のことだ。


GM:夜遅く。アニウがのっそりと起き上がると、ふかふかの毛皮の外套を被り、足音を殺してかまくらの外へ出て行った。PC達はこれに気付いて起きてもいいし、気付かず眠ったままでもいい。ちなみにアプトは眠ったままだ。

ステラ:起きて追いかけよう。

ツバキ:俺も警戒してたし、多分起きるな。でも外には出ず、入り口付近にしゃがんで……つまり盗み聞き。

リューラ:おかんの護衛の為に残る。

サー:気が付いたけど、寝たままで。ステラが行ったし、大丈夫だろうって考えてます。

GM:OK、じゃあ全てを見るのはステラのみだが、ツバキにも音だけは伝わるかな。かまくらの外にでたステラは気付くけど、いつしか外は吹雪になっていたようだ。しかしなぜかかまくらの周りだけ、まるで見えない円筒形の壁でもあるかのように、吹雪が避けて通っているのが分かる。アニウはぼんやりとした顔で洞窟から離れ、雪原の中を歩いて行こうとしている。

ステラ:呼び止めよう。「待って」


吹雪が途切れて見える円形の空には、虹色のオーロラと無数の星々が輝いていた。アニウはステラの声が届いたのか、足を止めてゆっくりと振り返る。しかし、アニウの瞳はこれまでの彼女の物とはまるで異なる透き通る白色に変わっており、ゆったりとした髪の端もまた、氷のかけらのように透き通りつつあった。


ステラ:はっと息を飲む。

GM:「……あ、ステラ」ステラに焦点があった途端、アニウの髪の色も、瞳の色も一瞬で元に戻る。しかし同時にまるでその余波のように、彼女を中心に雪面が凍りつき、大きな雪の結晶のような氷の模様がビシッと広がった。

ステラ:「……うん」言葉を聞いて、いつしか握り込んでいた銃把から手を放す。

GM:また、アニウは直前まで“何の抵抗もなく”雪の上を平然と歩いていたが、それも解けたらしく、ずぼっと雪の中にはまり込んだ。「え?あれ?うち、どうして外に?」

ステラ:「……とりあえず、中に戻ろう。体を冷やすのは、よくないよ」

GM:君たちの頭上に構成されていた吹雪の途切れ目も、次第に崩れ始めた。アニウは両腕で肩をかき抱き、呟く。「うち、怖い。なんか、今、自分がすごく遠くに居たみたいな気がした」

ステラ:「今日は……お母さんの隣で寝ると良いよ。私も、一緒に寝てあげるから」妖精化が始まりつつあるみたいだな……。

GM:アニウは君の言葉に頷くと、鎌倉の中で母親の側に行き、丸くなった。

ツバキ:それを見守ってから、戻ってきたステラに肯いて見せる。自分も聞いていたぞ、と。

ステラ:硬い表情で肯き返してから、毛布に潜り込む。

ツバキ:そろそろ話すべき時だろうな。


やがて夜が明け、冒険者達はかまくらを崩して再び出発した。

アニウの妖精化まで推定あと一日。

最後の一日が始まった。

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