2-4. 託された物
【クスク村周辺地図】
①②③
④⑤⑥
⑦⑧⑨
①……???
②……???
③……???
④……『水精の滝壺』
⑤……『大猪の森』
⑥……???(広大な雪原)
⑦……『長老小屋』
⑧……『クスク村』 ←〈現在地〉
⑨……『雪神の祠』
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アニウの母、アプトが高熱を出し、生死の境を彷徨っている寝室。そこで冒険者達は、リューラがイノシシの巣穴で見つけたという鞄の中身を検分している。
中に入っていたのは、『
GM:さて、残ったのは同じく血で汚れた一通の手紙だ。表紙には「妻アプトと娘アニウへ」と書かれている。
ツバキ:「……カニクの遺書、か」アニウを見よう。
ステラ:できればアニウに真っ先に読んで欲しいけど……。
GM:そうだね……アニウは、とてもじゃないけどこれを読めそうな状態じゃない。誰かが代わりに読み上げる必要がありそうだ。
ツバキ:「では、俺が読む。いいな、アニウ」
GM:アニウはまぶたをぎゅっと閉じ、返事をする代わりにゆっくりと震えながら頷いた。
サー:「……ツバキ、頼んだのである」あ、ダックス君は彫像化して窓は閉めておきます。
手紙の文章は、全て血で書かれていた。
手紙を読み上げるツバキの声が、それほど広くない寝室に響いた。
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我が妻アプト、そして最愛の娘アニウへ。
まず、月並みな言葉を選ぶことを許してほしい。
この手紙を君たちが読んでいる時、おそらく私は既にこの世を去っているだろう。
心から君達を愛している。
アプト。
もし、例え君と出会う前に君の何もかもを知っていたとしても、きっと私は君と恋に落ちただろう。
初めて君と出会ったあの小春日和の日、旅人の私に微笑んでくれた君。
婚姻の儀で盃を交わし合った日の、ぞっとする程美しい化粧をした君。
アニウを授かり雪神様の奇跡だと喜びあった日の、母となる決意をした顔の君。
いつまでも忘れる事はない。いつまでも君を愛している。
アニウ。
君がたとえどんな存在であったとしても、どんなに私達の事を忘れ、他からも忘れ去られてしまうとしても、君は絶対に、私とアプトの娘だ。
君が初めてこの世界の空気を吸い込んで、それから産声を挙げてくれた日。
君が言葉を覚え始め、私とアプトの名前を初めて呼んでくれた日。
君が私と一緒に山へ入るようになり、私を尊敬していると言ってくれた日。
いつまでも忘れる事はない。いつまでも君を見守っているよ。
私はこれからこの山の北端、最も高い山の頂上にある雪神様の城へ赴く。
義祖父様には、村の秘宝を無断で持ち出し、そして紛失してしまった事を、私が深く謝っていたと伝えてほしい。森から北上しようとしたが神獣の起こす雪崩に阻まれ、私は仕方なく『狩人返しの雪原』を北に抜けようとした。その時に雪原の魔物に襲われ、『果てのユカラ』を失くしてしまったのだ。何とか森まで逃げ戻ったが、もう私に雪神様へ願いでる資格は無くなってしまった。
それでも、私はもう一度雪神様の城を目指すつもりだ。
一度だけ、祠であの御方の心に触れた事がある。
その一抹の感触に、私は命を投げ出そう。
もう使い道がないこの鞄は、森に置いていく。
一度目にこの森を抜ける時、怯えた私は意味もなく主の大イノシシを撃ってしまった。
その謝罪の意味も込めて、この鞄を僅かばかりの食糧と共に、彼らの巣穴の前に置いていくつもりだ。
上手くいけば、降り積もる雪から逃れ、誰かに見つけられるまでこの鞄が残る確率が上がる。
嗚呼、その誰かよ。もしこの手紙に記された誰の事も知らないのであれば、もう全ては終わった後なのだろう。その時はどうか、これを雪神様の祠へ供えてほしい。そうすれば、妻と娘に届くと信じる。
二人とも、先立つ私を許してほしい。
アニウの成人の儀の装束、一目見てみたかった。
君たちを愛している。心から。
クスク村の猟師 カニク
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ツバキ:「……これで全てだ」
ステラ:無言で俯いてる。自分の両親も、これくらい愛してくれていた事を知ってるから。
サー:黙祷してます。
GM:アニウは、静かに涙を流してツバキの読み上げる声を聞いていた。君が手紙の全てを読み終えると、震える声で「ありがとう、ございます」と礼を述べる。
ツバキ:「礼は要らない。……カニクは素晴らしい父親だ、アニウ」そっと近寄って、もう一度折りたたんだ手紙をアニウに渡す。
GM:ではアニウはそれを受け取るんだけど……その後ろから、ガッと手が伸びてツバキの肩を掴む。いつの間にか目を覚ましていたアプトが、アニウの背中越しに君を掴み、熱に浮かされた焦点の合わない瞳にかすれる声で、何かを訴えている。
ツバキ:「何だ?アプト殿、何を……」
リューラ:こっちも駆け寄ろう。「どうしたの?何をしてほしいの⁉︎」
GM:アプトは、震える手で寝室の中のある場所を指し示した。それはカニクの遺品、つまり銃の整備道具が置かれている場所だ。
リューラ:「これがどうかしたのかしら……?」改めて調べてみるか。
前回はほんの一瞬しか調べる時間がなかったが、今回はそうでもない。冒険者達はすぐ、銃の整備道具の入った箱の下にぴったり重なるようにして、もう一つ布の包みがある事に気付いた。
GM:包みを紐解いてみれば、中からぞっとする程美しい蒼色の衣が出てくる。アニウ達が身に纏っている服と似た模様が全面に描かれているが、金糸の刺繍や天然石のビーズをふんだんに装飾として使用してあり、明らかに服としての格が違うのが分かる。
ステラ:「これ……待って、もしかして」サイズを見てみる。
GM:少し小柄なドワーフにぴったりくらいの大きさだ。ちょうどアニウくらいの……。
サー:「成人の儀の装束、であろうな」
GM:アプトはサーの言葉にふるふると肯いた。そして微かな声で「アニウ、これを、父さんにも……」とだけ言うと、また意識を手放した。
ツバキ:「アニウ、やるべき事は分かるか」と問いかけよう。「今、父から娘へ、母から娘へと託された物が何か。分かるか」
GM:アニウはツバキの言葉を聞いて、それから蒼い装束へ手を伸ばし、手繰り寄せた。手紙と共にその装束を抱きしめる。
ステラ:「アニウ。私たちは貴方の味方だよ」
サー:「ふぅははは!その通りである、助力は惜しまんぞ‼︎」拳を握ってガッツポーズ。
リューラ:「ええ、ここまで来たなら最後まで見届けさせてもらうわよ」にやり。
GM:君たちの言葉を聞いて最後の一筋の涙を頬に伝わせた後、顔を拭ったアニウは、再び凛とした光を放つ瞳を君たちへと向ける。「お願い、皆。うちとおっかぁを、雪神様の御城へ……おっとぅの所へ連れて行って」
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