2-3. 究極の選択

【クスク村周辺地図】

 ①②③

 ④⑤⑥

 ⑦⑧⑨


 ①……???

 ②……???

 ③……???

 ④……『水精の滝壺』

 ⑤……『大猪の森』

 ⑥……???(広大な雪原)

 ⑦……『長老小屋』

 ⑧……『クスク村』 ←〈現在地〉

 ⑨……『雪神の祠』


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シルフの力で『大猪の森』から一気に『クスク村』まで戻ってきた冒険者たちとアニウ。午後の日差しの中で各々の仕事をしていた村の住人たちは、どたどたと村長屋敷目掛けて駆けていく彼らのことを怪訝そうな顔で見ていた。


GM:君たちが村長屋敷の門を叩くと、どたどたという足音と共にアイゼンが出てきた。「おお、冒険者の方々!戻られたか‼︎」なんだか顔色が少し悪いし、とても慌てた様子だ。

ステラ:そろそろ気分も良くなってきた頃かな。サーの背中から降りる。「はい。でも今は、あの……山羊を……ど、どうかしたんですか?」

GM:「や、山羊……?どういう事かは分からんが、今はそれどころではないんじゃ!」と、アイゼンは額に浮かぶ大粒の汗を拭い、何度も髭を引っ張ったり離したりしている。アニウもこれはただ事ではないと察して、自分を背負っているツバキに「もう大丈夫、下ろして」と言ってくる。

ツバキ:それを聞いてアニウを背中から下ろそう。「村長、そちらの状況を説明してくれ」

サー:「うむ。何かあったのは分かるが、何があったのか知りたいのである」

GM:ではアイゼンはギュッと目を瞑って言います。「お主達が出発してすぐにアプトが風邪をこじらせて、ずっと高い熱を出しておるんじゃ。もう、かなり危険な状態で……」

リューラ:「何ですって⁉︎」

GM:アニウはそれを聞くと「……おっかぁ‼︎」と叫んで屋敷の中に飛び込んでいった。

ツバキ:後を追おう。「……寄り道をして正解だったな」

ステラ:「あんな無茶をするから……!」私も追いかける。寝かされてるとしたら、多分こないだの寝室かな。

GM:では君たちは全員が村長屋敷の中、アニウたち親子が使っていた寝室へ向かったという事で。


寝室には真っ赤な顔に大量の脂汗を浮かべたアプトが寝かされていた。その傍にはラッセルが座り、甲斐甲斐しく額の濡布巾を替えるなどしていたが、冒険者とアニウが飛び込んできたのに驚いた拍子に水の入った桶を倒してしまった。


GM:「ああ、しまった……‼︎」ラッセルはこぼれた水が敷物の上に広がった大きな染みを見ながら呻く。彼も目の下に隈ができており、長い時間ずっと看病してすっかり疲弊しきっているようだ。水桶を抱えて立ち上がるも、よろめいて背中から柱にぶつかってしまう。

ツバキ:それを支えながら声をかけよう。「ラッセルさん、この村に治療師はいないのか?」

GM:「去年までは居たのですが……今は、私が村で一番薬草や病に詳しいので、その真似事を」ラッセルは荒い息を吐きながら部屋の一か所を見ながら答える。彼の視線の先には、薬草などが入った薬箱のような物が置かれているのが分かるよ。

ステラ:この人、行商人兼医者なのか。いない間は大変そうだな……。

サー:「うーむ、しかしラッセル殿も既に限界と見える。ここは我々に任せ、貴方も休まれよ」肩を貸そう。

GM:「す、すみません……もう丸一日半、この状態、で……」そこまで言うと、行商人ラッセルは疲労のあまり気絶してしまった。

サー:やばいなぁ、これは。……とにかく、ラッセルさんを別の部屋に運んで寝かせましょう。

GM:それに関しては滞りなくできた事にしていいよ。元々アイゼンや君たちが使っていた寝室もこの屋敷にはあるからね。


アニウは母親の側に寄り添っている事しかできず、ずっと「おっかぁ、おっかぁ……どうしよう、どうすれば」と泣きそうな顔で繰り返している。

〔病気知識判定〕の結果、アプトの症状は一般的な風邪が非常に悪化しただけの、一般的な病であると判明した。病気を癒す効果を持つ魔法を使えば、一発で治す事ができるような、ごく単純なものだ。しかし、ここで問題があった。

冒険者達のパーティーには、神官プリーストも、妖精使いフェアリーテイマーもいなかったのだ。


ステラ:やばいな。病気が治せる人がいない。

GM:こまめにHPを回復し続ければ延命はできるけど、根本的に治癒はしない。現在HPが急速に減っていくのと合わせて、最大HPがじわじわ減ってるような感じだね。


サー:そりゃ、普通はパーティーに一人くらいいる……ん?いや待ってください。一人、いや一匹いました!妖精魔法が使える騎獣が!

リューラ:あー!ダックス君‼︎

ツバキ:そうだ、ダックス君がいたな!

※ダックス君:サーの騎獣、《エメラルドラクーン》。ランク6までの4属性の妖精魔法が使える緑のアライグマ(大)。しかし、それでは……。

GM:残念ながら、ダックス君の使える妖精魔法では、病気の完全な治癒まではできないよ。

サー:ああ、そうか!技能レベルが足りない……ぐぉぉ。

ステラ:でも【ナーシング】の魔法は使える。時間は稼げるはず!

【ナーシング】:光属性の妖精魔法の一つ。毒や病気による症状の進行速度

1/3まで低下させる事ができる。言い換えれば、死んだり致命的な状態になるまでの時間を3倍に引き伸ばす事ができる魔法。

サー:「ええい。とりあえず来い、ダックス……!」あ、流石に室内に出すとぎゅうぎゅう詰めになりそうなので、窓の外で巨大化させて前足を突っ込んでアプトに触れさせよう。「【魔法指示】だ!【ナーシング】を使え!」

GM:では、ダックス君は窓の外からにゅーっとそのモフモフな前足を伸ばし、うんしょうんしょと頑張ってアプトの体に触れる。そして光妖精の輝きがアプトを包み込むと、彼女の顔色が少し良くなった。

サー:「よし、これでしばらくは大丈夫の筈である」額の汗を拭います。

ツバキ:「お前はいい子だな、ダックス」功労者におやつか何かをあげよう。

GM:ではナッツか何かをもらってばりぼりしてる。

ステラ:かわいい。これで時間は稼げたかな?

GM:そうだね……ただ、問題がある。ナーシングの効果は最大で1日しか持続せず、《エメラルドラクーン》はその効果時間を延長できる【魔法拡大/時間】の能力を持っていない。毎日サーが命じて魔法をかけさせ続けないとすぐ元通りだ。

リューラ:彼女が死ぬまでの残り時間は分かる?

GM:君の知識と経験、あと直感によれば、放置したらアプトは明日の夜も超えられないだろう。つまり余命一日だね。

リューラ:一日かぁ……マジでシルフの手助けしようとしてなかったらやばかったな。いや、今もやばいけど。


つまり、こういうことだ。

アプトを生き存えさせようとすれば、サーが村を離れられなくなる。そして、例えそうしたとしても、このままではアプトは三日後には死んでしまう。

たった一人の治療師がいなかった事が、冒険者達を苦悶させる。

そして、事態は彼らにその逡巡の時間すらも与えてはくれなかった。


サー:うぬぬぬぬぬぬ。どうしよう。

GM:……申し訳ないけど、これで終わりじゃないんだよね。

ツバキ:今度は何だ?

GM:リューラ、君が持っている鞄の中身は調べなくていいのかな?

リューラ:あ、やっべ。すっかり忘れてた。取り出して部屋の床に置く。

GM:では君たちが色々と試みてる間も必死に母の手を握っていたアニウが、その鞄を見て息を飲む。「おっとぅの鞄!どうしてここに⁉︎」

リューラ:「あー……拾ったのよ。イノシシの巣穴で」と返事しつつ、開けてみようかな。

GM:OK、鞄の中からは『数枚の端がちぎれた羊皮紙』、『折り畳まれた手紙』が出てくる。どちらも何かの血でかなりの部分が赤く染まっているよ。

リューラ:うわぁ……。とりあえず羊皮紙の方を見てみよう。

GM:では、羊皮紙の内容は次の通りだ。


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妖精の取り替え子チェンジリングについて』


妖精の中でも一部は、生まれて間もない、あるいは生まれる前の子供を自分の子供と入れ替え、人族に育てさせるものがいる。

そうして育てられた子供は、ある年齢までは人族となんら変わりないが、ある日突然妖精としての自分を思い出し、妖精の世界へ帰っていくという。


具体的な時期については諸説あるが、概ね10歳〜15歳の間の誕生日が最も多いとされる。

なお、この呪いは、それを掛けた妖精本人が直接その子供に触れて行う儀式でしか解くことができないと言われている。

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ツバキ:「……アニウ。お前はたしか14歳だったな」と、彼女のそばに蹲み込んで問いかける。

GM:「う、うん。三日後には15歳になって、成人の儀をする事になってたけど……」とアニウは答えるよ。

サー:「そうであるか……」これ、本当にどうしましょうか。スカディしか解けないって確定しちゃいましたし。

ステラ:アプトを延命させようとすると、アニウの妖精化に間に合わない。かといってアニウを救おうとこれまで通りスカディの宮殿を目指せば、一日でアプトが死んでしまう……。って事かな。

GM:概ねそんな感じだね。

リューラ:神官も妖精術師もいなかったせいで、究極の二択を迫られるのか……。


いや。実際には、第三の選択肢がある。

冒険者たちは、すぐにそれに気が付いた。


ツバキ:いっその事、アプトも背負っていくか……?

ステラ:それだ!ダックス君に乗っけて行こう!スカディの宮殿まで!


 ────────────────────

[雑談]


ステラ:この鬼!

リューラ:悪魔ー!

サー:人でなしー!!

GM:ふははは何とでも言え!

ツバキ:……まぁ、まだ詰んではいないから大丈夫か。

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