2-2. 大猪の森

【クスク村周辺地図】

 ①②③

 ④⑤⑥

 ⑦⑧⑨


 ①……???

 ②……???

 ③……???

 ④……『水精の滝壺』

 ⑤……『大猪の森』 ←〈現在地〉

 ⑥……???(広大な雪原)

 ⑦……『長老小屋』

 ⑧……『クスク村』

 ⑨……『雪神の祠』


 ────────────────────


 アニウの出生とカニクの失踪に関わる重大な秘密を知った冒険者たち。彼女自身にそれを告げる事はまだできず、遺体捜索開始から二日目の午後、彼らはアニウと共に当初の目的地である『大猪の森』へと到着した。


GM:君たちは鬱蒼と針葉樹が立ち並ぶ森に立ち入った。風が強く、大地から舞い上がった雪のせいで視界も悪い。かつてはあの大猪がここをナワバリにしていたようだが、無論今はいない。

 ステラ:「……」カルキノスを操縦しながら、ずっとアニウの事を気にしている。いつ本当の事を言えば良いのだろう、それとも最後まで黙っていればいいのか、そんな事を考えて頭の中がぐるぐるしてるかな。

 GM:では、アニウがそんな君の肩をとんとん、と叩いて揺さぶる。「ステラ、大丈夫?さっきからこの蟹……えっと、カルキノス?が、同じ所をぐるぐる回ってるけど……」どうやら、君の考えが操縦桿を握る手にも伝わってしまったようだ。

 ステラ:「あ……だ、大丈夫……だよ」慌てて操縦桿を握り直して、カルキノスを真っ直ぐ歩かせる。今は移動に集中……と自分に言い聞かせて。

 GM:そんなステラを見てアニウはちょっと心配そうだ。「もしかしてうちが乗ってると気が散っちゃう?うち、降りようか?」

 ステラ:「大丈夫、大丈夫だから!」くそー、誰のせいだと思ってるんだこのGMめぇ。

 リューラ:それを見ながらサーとツバキにひそひそ話しかけます。「ねぇ、アニウにはいつ教えるつもりなのかしら?」

 サー:「む……。それは……」口ごもる。正直言い辛いです……。

 ツバキ:「逆に聞くがリューラ、齢14の子供が『もう間もなくお前はどこにも居なくなって消えてしまいます』と言われて、それを受け入れ納得できるタイミングがあると思うか?」

 リューラ:「それはそうだけど……最後まで何も言わないままってのは、もっとダメでしょうよ」そう言いつつも、自分でもいつどうやって伝えればいいのかは白紙なんだよね。

 ツバキ:「……分かった。では機会を見て俺から話す」

 リューラ:「……了解よ」少し悔しげな顔で頷く。アニウには見えないようにして、ね。

 サー:「分かったのである」こっちも同じく。……いや、兜で表情は見えないから別にいいか。

 GM:三人が小声で話しているのをカルキノスから見ていたアニウが、ステラの背中にもたれかかる。「ツバキにサーにリューラ、ひそひそ何の話してるんだろうねー、ステラぁ……」

 ステラ:「さ、さぁ……今後の予定を相談しているのかもしれない」誤魔化しながら、周囲に細かく目を配る。この子を助けるための、どんな小さな手がかりも見逃さないように。

 GM:よし、では君たちが森に入ってしばらくした時のことだ。全員〔聞き耳判定〕どうぞ!


 ステラが無事に判定に成功し、微かな動物の鳴き声を聞き取った。声を辿った冒険者達が発見したのは、かつて巨大イノシシの巣穴だったと思しき洞窟だ。


 GM:大きな入り口の洞窟の奥から、『ピィピィ』と掠れた鳴き声が聞こえてくる。中に入ってみれば、生まれて間もないと思しき5匹ほどの子イノシシがすっかり痩せ細った姿で横たわり、か細い声で鳴いていた。

 ステラ:「あ、イノシシの赤ちゃん……死にかけてるの?」恐る恐る近付く。

 サー:「そうか、我々があの巨大イノシシを討伐してからほぼ三日近く……あのイノシシ、さては雌であったか」

 GM:アニウも「ど、どうしよう……このままじゃ死んじゃうよ!何とかして助けられないの⁉︎」とオロオロしている。

 リューラ:「何か、母イノシシの乳の代わりになる物があればいいんだけど……ちょっと探して来るわ」洞窟の外に出よう。

 GM:あ、ではアニウが「うちも村の赤ちゃんが食べられるような野草や木の実を探してくる!」と君と一緒に外に出ようとする。でも、君たち二人とも洞窟から出ようとした瞬間に強い向かい風に煽られ、中に押し戻されてしまった。

 サー:「ど、どうしたのであるか⁉︎」

 ツバキ:「警戒しろ!」咄嗟に抜刀。

 GM:では、君たちの前に黄緑色の半透明な存在が現れる。人型をしており中性的な顔立ちと体格。耳はエルフのように尖っているが、その輪郭は陽炎のように常に揺らいでいて、安定しないように見える。

 ツバキ:「……こいつ、シルフか!」

 GM:その通り!では君たちの前に突如現れた風の妖精シルフだが、その表情は君たちへの疑念と、行き場のない苛立ちの感情が渦巻いているように見える。君たちを指差したシルフは、妖精語で叫んだ。「“そいつらに指一本触れてみろ、ただじゃおかねえぞ!”」

 リューラ:あ、セージ技能で妖精語分かるので通訳しつつ話をします。「“傷つけるつもりはない!私たちの話を聞いてほしい!”」


 以後、セッションをスムーズに進行するべく、GMは、PCたちとシルフの会話は自動的にリューラが通訳する事でスムーズに成立しているものと定めた。


 GM:「……なぁんだ、別にこいつらを取って食おうってんじゃなかったんだな。誤解して悪かったよ」シルフは頭……と言っても非実体だけど、頭のある辺りを手でほわんほわんかき乱して君たちに謝罪する。

 サー:「こちらこそ、何も知らなかったとはいえ誤解を招くような行いをしてすまなかったのである。我が名はゴットリープ=フォン=ヴェリースだ」自己紹介しつつ握手を求めよう「して妖精シルフよ、お主はここで何をしているのだ?」

 GM:「自己紹介どうも、おいらはその通り、シルフさ」とシルフは握手に応じる。手のところだけ、なにか濃い霧を固めたようなものに触ってるような感触がある。「それで何してるかって、このイノシシのガキ共の世話だよ。暇つぶしだけどな……ただ、もう三日もロクな餌が見つからなくてよぉ。ちょっと愛着も湧いてきてたもんで、困っててな」

 ツバキ:「……この子イノシシ達の親がどうなったか、知っているか?」刀は鞘に納めてるけど、一応いつでも抜刀できるように手を柄の高さに曲げている。

 GM:「ああ。スカディの奴の命令で、村の子供を一人攫いに行ったっきりだ。俺が崖の上まで打ち上げてやったが、それっきり戻ってこねえよ」

 ステラ:なるほど。このシルフが風のエレベーターであのイノシシを運んだのか。そして、アニウ狙いだったのも確定か……。「……あなたも、スカディの眷属なの?」

 GM:「いいや、おいらは中立だね。風は気ままに、誰の指図も受けずに吹くのさ」

 リューラ:何だか、助けてあげたら見返りがありそうな感じ。

 サー:明らかに『困ってる人イベント』ですよね。イノシシを倒したのは我々だし、何とか子イノシシ達は助けてあげたいんですが。

 GM:しかし、君たちはこの子イノシシ達が食べられる物を、今現在持っていないようだ。新たに森の中で採取すれば良いかもしれないけど、この森には主の巨大イノシシ以外にも様々な危険がある。どうしても時間がかかってしまい、その間に子イノシシが死んでしまう未来が容易に予測できるだろう。

 ステラ:うーん……あ。GM、『クスク村』(⑧)に牛や山羊、羊はいた?

 GM:そうだね、君たちが見て回った範囲でも、村長屋敷の納屋に雌の山羊が一頭いたのを覚えている。

 ツバキ:なるほど、一度戻れという訳か。シルフとの交渉はステラに任せていいか?

 ステラ:オッケー、任されよ。おずおずとシルフに提案する。「あの……この子たちに飲ませるお乳に、心当たり、あるんだけど……」

 GM:シルフは君に食いつかんばかりの距離まで迫る。「本当か⁉︎それはどこにあるんだ⁉︎」

 ステラ:「ち、近い……!」と両手でシルフの顔をむにーっと押し除けます。「南の崖の上まで私たちを運んでくれれば、山羊を連れてくるから」

 GM:シルフは「合点承知よ!その程度ならお茶の子サイサイだぜ、付いてきな!」と行ってびゅーんと洞窟を飛び出して行きます。

 サー:慌てて追いかけます。「ええい、本当に突風のごとき勢いであるな!」

 GM:シルフは森の南へぐんぐん飛んでいく。アニウも含め、全員付いていくって事でいいかな?

 リューラ:あ、一応子イノシシ達に手持ちの毛布とかをがっつり掛けておく。少しでも死から遠ざかった方がいいだろうし。

 GM:……ふむ。最後に洞窟の中を一瞥したリューラは、その片隅にボロボロになった革製の鞄が転がっている事に気付く。

 ツバキ:そういえば洞窟の中を調べてなかったな。

 リューラ:「おっと、これは……?」とりあえず拾い上げよう。

 GM:どうやらそれはショルダーバッグだったみたいだけど、鞄のベルトは鋭い爪か牙みたいなもので切り裂かれており、肩にかける事は最早できそうにない。大小様々な穴だらけの鞄には所々革の上に赤い染みも滲んでおり、持ち主が負ったであろう怪我の大きさを物語っている。ちなみに、中にも何か入ってるみたいだね。

 リューラ:例の巨大イノシシにやられた感じ?

 GM:んー、そうとも見えるし、そうじゃないようにも見える。今の時点でじっくり調べてる時間的余裕はなさそうだ。

 リューラ:分かった。「これは大きな手掛かりになりそうね」と鞄を引っ掴んで持っていこう。


 数分後、森の南端に到着したシルフは小さな竜巻を起こし、自分ごと冒険者達を空高く舞い上げた。そしてあっと言う間に彼らは崖を飛び越え、『クスク村』の北端にふわりと着陸したのだった。


 GM:「とうちゃーく!快適な空の旅はこのシルフ様にお任せ、ってな」

 サー:「うーむ、凄まじいパワーであった……」

 リューラ:「帰りもよろしく頼むわよ、シルフ君」

 ステラ:「め、目の前がまだぐるぐるする〜〜……」ふらふら。

 GM:アニウも「うぇぇぇぁぁ……」と目をぐるぐる回して呻いている。シルフはそれを見て「あちゃー、お子様にはきつかったか」とか言ってる。

 ツバキ:見かねて二人を両脇に担ぎ上げよう。「急ぐぞ、村長屋敷へ向かう」

 サー:「おっとツバキ、どちらかは私が背負うので寄越してほしい」と駆け寄ります。

 ツバキ:「ではこっちを頼む」とステラを託そう。

 サー:「うむ、任された。ステラ、よくしがみ付いているのだぞ」よっこらせ、とステラの小さな体を背負い直しましょう。

 ステラ:「わ、わかっ……うぇ〜」まだ気持ち悪そうにしてる。

 GM:シルフは崖の上に留まって君たちに手を振って見送るだろう。「おいらはここで待ってるから、急いで戻ってこいよな〜!疾きこと風の如し、ってやつだ!」

 ツバキ:妙に博識な奴だな。

 GM:風の噂ってやつで色々知ってるんです。シルフなので。ちなみにこれで君たちは、行動を消費せずに『大猪の森』と『クスク村』を行き来できるようになった。


 遂に村と森を繋ぐショートカットが開通し、今後の探索に大きく。そして二日ぶりに舞い戻ったクスク村では、新たなイベントが冒険者達を待ち受けていた。


 サー:ところでその鞄は一体……?

 リューラ:イノシシの巣穴で見つけたんだ。後で中身を開けてみようか。


 ────────────────────

[雑談]

 リューラ:しかしライダー技能って本当に何でもできるな……。

 サー:【探索指令】があれば探索もバッチリですしね。

 ステラ:レベル高めのライダーが3人いるから、弱点抜けない以外で困る事ほとんどない。

 GM:3人とも人間だから、変転使えるしね。GMとしては、安定してシナリオを進んで貰えるから助かってるよ。

 ツバキ:俺は……探索では余り役に立ててないな。スカウトはあるんだが。

 ステラ:出目は仕方ない。ツバキだけ変転できないし……。

 ツバキ:いや俺は人間だが?(すっとぼけ)

 全員:(爆笑)

 GM:毎朝しょーもない判定に使っちゃってるんですかね。早起き判定とか。


 ちなみに、冒険者達と出くわす前にイノシシが迷走していたのは、雪に紛れるアニウの匂いを見失っていたからです。そしてアニウと長い間近くにいた冒険者達には彼女の匂いが移っていた為、イノシシは彼らがアニウを隠していると判断し襲いかかりました。結果はぼたん鍋直行でしたが……。

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