2-6. 雪妖精の棲家

【クスク村周辺地図】

 ①②③

 ④⑤⑥

 ⑦⑧⑨


 ①……『雪神の宝物庫』

 ②……『吹雪の山頂』

 ③……『雪妖精の棲家』 ←〈現在地〉

 ④……『水精の滝壺』

 ⑤……『大猪の森』

 ⑥……『狩人返しの雪原』

 ⑦……『長老小屋』

 ⑧……『クスク村』

 ⑨……『雪神の祠』


 ────────────────────


『狩人の雪原』で一夜を明かした冒険者達は、アニウとアプトを連れてさらに北上する。ここから先は極めて過酷な極寒の地、『休息』を取ることはできない。……どの道、そんな時間は彼らに残されていなかったが。


 サー:『移動』前に、予めアプトさんに【ナーシング】をかけておきます。

 GM:OK。では君たちがたどり着いた場所は、山のかなり標高が高いところにある無数の洞窟群だ。切り立った絶壁の中腹に、無数の黒い穴が口を開けている。そして、そのほとんどから真っ白な髪を持つ半透明の妖精、《フラウ》が顔を出し、君たちを見下ろしている。

 サー:「うーむ、数えきれない程のフラウであるな」

 GM:アニウは怯えたようにカルキノスの脚をぎゅっと掴み、母親の近くから離れない。

 ツバキ:「心配するな、アニウ……お前達を傷付けさせはしない」と彼女に声をかけつつ後ろから横を通り過ぎて、フラウへ声をかける。「騒がせてすまない、自分達はお前達に危害を加えるつもりはない!降りてきて、話をしてくれないか?」

 リューラ:あー、そうだった。フラウは交易共通語も喋れるんだったっけ。

 GM:妖精フラウは雪山に登る男を誘惑したり、逆に遭難した旅人を助けてくれたりするからね。言語でのコミュニケーションが好きなんだと思う。

 ステラ:じゃあ私も恐る恐る呼びかけてみよう。「あ、あの、私達は探し物をしている……から、情報が欲しい」

 ツバキ:「謝礼も支払おう。余り大した物はないが……」懐をまさぐる。

 GM:では、君たちの呼びかけにぴくりとフラウ達が反応する。しばらくヒソヒソと妖精語のささやきが飛び交った後、二体のフラウがおっかなびっくりと言った様子で君達の方へ飛んできた。「おしゃべりしたら、素敵な物をくれるって本当?」


 近寄ってきた二体のフラウから情報を聞き出そうとする冒険者達を、アニウは少し離れた場所から見ている。挨拶から少し話すと、どうやら彼女達はスカディの従者であり、この洞窟群はスカディが彼女たちの棲家として作ったという事が分かる。


 GM:「私達フラウはスカディ様のしもべの中でも二番目に働き者なの。雪山のあちこちを見回ったり、氷で修繕したり……私達はたくさん居るけど、それでも毎日大忙しってワケ」フラウはドヤ顔でそう言った。

 サー:「ふぅははは、それは日々大変であるな!偉いのである!」

 GM:「そうでしょ、そうでしょ?もっと褒めても良いのよ!」あなた話が分かるじゃない、とフラウ達はサーの周囲をくるくる飛び回っている。

 ステラ:また鎧が凍りつきそう。

 サー:「ふははは、ふは、ぶぇっくしょーーい‼︎」大きなくしゃみをします。

 ツバキ:「ちなみに、『一番働き者なスカディのしもべ』とは誰なんだ?」

 GM:「それはスカディ様のおわす宮殿の門番、最強の神獣クジャタね!毎日毎日飽きもせずにずーっと宮殿を吹雪で覆っているし、不届き者が近付いたら雪崩を起こしてやっつけちゃうのよ」ツバキの顔の前でしゅっしゅっとシャドーボクシングするフラウ。

 リューラ:「へぇ……」目付きが鋭くなる。例の雪崩の奴か。


 遂に明らかになった雪崩の神獣の正体。長老小屋で入手した図鑑の力も借りてステラとサーが〔魔物知識判定〕に成功し、スカディの宮殿を守っているのは12レベルの幻獣、《クジャタ》であると判明した。青い燐光を放つ毛むくじゃらの水牛の姿をしたこの幻獣は、山岳地帯にいる限り、周囲半径10kmという超広範囲の天候を自在に操る事ができる。またクジャタは、土、水・氷、風、光の四属性の妖精魔法を自身と同じ12レベルまで操る魔法戦のスペシャリストでもある。


 サー:光の妖精魔法……!12レベル……‼︎

 ステラ:いたー‼︎【レストアヘルス】使える奴いたー‼︎

 ※【レストアヘルス】:高レベルで習得できる光属性の妖精魔法。あらゆる毒や病気を問答無用で消し去ることができる。

 リューラ:これでアプトを助けられる可能性が出てきたね。

 ステラ:本当に絶妙な所で病気属性の対策がなかったから……。

 ツバキ:クジャタはスカディの配下だから、ますます交渉には失敗できないな。ともあれ、有益な情報には違いない。3点の魔晶石を1個ずつフラウに渡す。

 GM:二体のフラウはそれを受け取って「まぁ、時々地面から生えてるきらきらした石ね!地面から離れてるのは珍しい!」とはしゃいでいます。

 ステラ:「地面から生えてるんだ……」鉱山で採掘してるらしいけど、そういう感じか。


 スカディとの円滑な交渉の為に、やはり〈果てのユカラ〉が必須であると判断した冒険者達は、フラウに本題を切り出した。


 サー:そろそろアニウを呼んで、フラウと〈果てのユカラ〉の話をしてもいいですか?

 ステラ:いいよ!でも流石にアニウちゃんに隠せなくなりそう。

 ツバキ:……この先はスカディの宮殿しか無さそうだし、いずれは話すべき事だしな。

 サー:はーい、では……「さて、実は我々、これからこの子を連れてスカディに会いに行くのだが」と言って、アニウを呼びます。「その為に必要な物が、ここにあるかもしれないと聞いてな。ここへはそれを探しに来たのである」

 GM:ではおっかなびっくりサーの方へやって来たアニウを見て、フラウ達は大きくざわめきます。「『取り替え子』!」「『取り替え子』だわ!」「わざわざスカディ様の所まで連れてきたのね!敬虔な信徒じゃない!」そして、アニウはそれを聞いて首を傾げる。「取り替え子……って、うちのこと?」

 ツバキ:「アニウ。この後すぐに必ず説明する。だから……今は聞かないでくれないか」流石にこの野次馬の前では遠慮したい。

 GM:アニウは困惑しつつも「わ、分かりました」と肯く。「でも、本当にすぐ話してくださいね!それ、うちとおっかぁ、おっとぅに関わる事なんですよね⁉︎」

 ツバキ:「ああ……大丈夫だ」肯き返す。

 リューラ:後ろで首をすくめている。

 サー:それを見て大丈夫そうだと判断して続けます。「それじゃあフラウ達よ。尋ねるが、お前達の中に綺麗な冠を持っている者はいないか?」

 GM:「冠?それってもしかして、スカディ様が仰っていた綺麗で透明な冠かしら?」

 ステラ:「うん、それ」こくりと肯く。

 GM:「うーん、私達はどちらも知らないわね……実は、女王様が『そんな感じの冠を探せ』って私達全員に命じたのよ。それでずっと探しているんだけど……」

 サー:「実は既に見つかっているのではないか?」シルフの話からすると、もう回収されてるっぽいですし。

 リューラ:その場合はスカディの元に冠があるって事になって、ちょっとやばいけどね……。

 GM:「ちょっと待ってて、他の仲間にも聞いてきてあげる」洞窟から覗き込んでいる仲間達の元へ飛んで行ったフラウは、すぐに戻って来る。「んー、まだ知ってる子はいないみたい。でも、もう幾つかこの『きらきらした石』をくれれば、ここを探し回ることを認めてあげるわ!」

 サー:「かたじけない!では私から渡そう……」練技のために魔晶石はいっぱい持ってるから、幾らでも出せますよ。3点を5個くらい渡します。

 GM:「わぁい、こんなにたくさん!じゃあこっちの斜面から登っていいわ」とフラウ達は君たちを自分達の住居へと案内してくれる。


 フラウ達の洞窟で〔探索判定〕を行った冒険者達は、様々ながらくたを発見する。それは大きな発光する鉱石の結晶や氷に閉じ込めたドライフラワー、なんだか良く分からない生き物の骨、ただの変な形の石などが見つかったが、いずれも大した効果がある物ではなかった。しかしフラウ達はそれを『想いが込もった宝物』であるとし、大切にしていた。フラウ達から一旦離れた冒険者達は、今後の方針を相談していた。


 ステラ:「込められた想いが、大切……」フラウの言葉を反芻してる。

 ツバキ:「真の宝物は余人に価値の分からぬ物、ということだな」

 リューラ:「しかし、どうしたものかしら」と腕組み。「ここにあるんじゃないかってシルフは言ってたけど……無かったわね」

 サー:「うーむ、そうであるな」見落としか、あるいは……もう少し探してみます?

 ステラ:そうね。それでダメだったら一度『吹雪の山頂』(②)を通り過ぎて、『雪神の宝物庫』(①)まで行ってそこでも探してみよう。

 GM:では君たちがそんな事を話していると、アニウが雪をかき分けて近付いて来るのが見えます。

 ツバキ:来たか……。覚悟を決めよう。

 リューラ:何かあったらフォローはするから。ツバキ、よろしく。

 GM:「あの、さっきの事……」アニウは君達の前で足を止めると、訊ねてくる。

 ツバキ:「分かった……アニウ、俺は君の強さを信じる」GM、アニウに全てを話そう。何もかもを。


 アプトが子供を産めない体だった事。

 アニウが『妖精の取り替え子チェンジリング』の呪いによって生み出された、スカディの分身である事。

 恐らく15歳の誕生日を迎えた時にアニウは妖精となり、全てを忘れ、また周囲からも忘れられてしまう事。

 スカディは、そんなアニウを自分の宮殿へ迎えに行こうとしている事。

妖精の取り替え子チェンジリング』の呪いはスカディであれば解く事ができる事。

 アニウの父カニクはその事を知り、古い伝説を信じてスカディに請願するべく、〈果てのユカラ〉を持ってスカディの宮殿を目指したのだろうという事。

 この旅の目的はアプトを治す事だけでなく、カニクの遺志を継ぎ、アニウにかけられた呪いをスカディに解いて貰うためのものである事。


 ツバキは慎重に言葉を選び、アニウに説明していった。


 ツバキ:「──これが、君にまつわる秘密だ」締めくくる。

 GM:ツバキの話を聞き終えたアニウは、呆然とした表情で後ずさる。「あはは、いや、そんな……うちはドワーフで、おっとぅとおっかぁの子で……」

 リューラ:「それが変わる訳じゃないわ、ただそれでもあなたは……」

 GM:アニウは君達の言葉を受け入れられず、首を強く左右に振った。「絶対違う!うちはおっとぅとおっかぁの娘だ‼︎」そして、アニウが取り乱すと共に、急激に彼女の体に変化が始まる。

 サー:やばいやばい。「アニウ⁉︎しっかりするのである‼︎」

 GM:アニウの全身が青白く輝き、その瞳と髪が透き通るような白い色へ変わっていく。「ぜっ、たい……はっ、はっ……う、うちは……!」


 アニウのパニック状態が深まると共に、その周囲が過度な凍結現象を起こし始める。降りしきる雪はアニウを避け始め、大地に次々と槍のような氷柱が突き出していく。そしてフラウ達は「羽化だ!」「羽化が近いんだわ!」「おめでとう、後少しで私達の仲間入りよ!」と口々に叫びながら、アニウに近付いて周囲を飛び回り始めた。


 サー:「こ、これは一体……⁉︎」

 ステラ:「昨日の夜もこんな感じになって……多分、妖精になりかけてるんだと思う……!」

 リューラ:「どうするのよ、これ!」

 GM:彼女の周囲は不規則に地面から突き出す氷の氷柱のせいで非常に危険だ。無傷で近付く事は難しいだろう。彼女のパニックが収まれば、変化も止まるかもしれない……と君たちは気付いていいよ。

 ステラ:そんな都合の良い魔法は……ない!

 ツバキ:俺達は【サニティ】すら使えないからな。仕方ない、俺が近付いて宥める。

 ※【サニティ】:1レベルの神聖魔法。対象の乱れた精神状態を正す。1レベルでも神官プリースト技能を持っていれば使える初歩的な魔法なのだが、このパーティーは……そのたった1レベルの神官すらいないのである。

 GM:近付くなら、ツバキは〔生命抵抗力判定〕を行ってもらうよ。本物のスカディよりはまだ目標値が低いけど、アニウが無差別に生み出した『凍てつく槍』による魔法ダメージを受けることになるので。

 ツバキ:先に練技【ストロングブラッド】を使ってから近付こう。(ころころ)判定成功!

 ※【ストロングブラッド】:練技の一つ。一時的に自分が受ける炎、水・氷ダメージの両方を大きく軽減する。とても便利。

 GM:では(ころころ)……色々な軽減を合わせて最終的に7ダメージ!ツバキの体を氷柱が掠め、雪の上に赤い血がわずかに飛び散るだろう。

 リューラ:「ツバキ、あんた大丈夫か⁉︎」こっちに伸びてくる氷柱はガンガン真ん中で斬り落とす。

 ツバキ:「大丈夫だ!……アニウ、こっちを見るんだ」手を伸ばし、アニウの両肩を掴む。

 GM:アニウはどこか物凄い遠くを見ているような虚ろな目をしており、ツバキの方に焦点が結ばれない。フラウ達が飛び回りながら「無駄よ、やめなさい」「もうあなた達の声は聞こえない」「危ないわ、離れた方が良いわ」と口々に言ってくる。

 ステラ:「ううん、まだ……終わってない!」ツバキとアニウのいる場所に【レジスト・ボム】を使う。属性は水・氷で!

 ※【レジスト・ボム】:魔動機術の一つ。特定の属性を指定して使用し、範囲内のキャラクターはその属性のダメージを大きく軽減し、その属性による悪影響を無効化する。必中なので敵味方問わず効果を及ぼせる。

 GM:なるほど……アニウに今起きている変化が『水・氷属性の悪影響』ではないか?と言いたい訳だ。

 ステラ:うん。それにもし違っても、ツバキがこれから氷柱で受けるダメージを減らせるかなって思って。さっき思いついてればツバキが突っ込む前に使ったんだけど……。

 GM:よし、そういう事なら……ステラのマギスフィアから放たれた魔法の爆弾がアニウとツバキの近くで炸裂すると、その周囲だけ雪と氷柱が消滅して円形の空間ができる。そして、アニウの目にちょっとだけ光が戻ってくる。

 ツバキ:グッジョブ!アニウにそのまま声をかけ続ける。「アニウ、自分を見失うな。絶望の中でも再び立ち上がったカニクの娘だ、お前は!」

 ステラ:こちらも呼びかける。「そう。少なくとも私も、ツバキも、皆も、あなたの事を信じている。アニウも、自分を信じて」


 懸命に続いた冒険者達の呼び掛けにより、アニウは少しずつ落ち着いていき、それに伴い周囲やアニウ自身に起きた変化も少しずつ治っていった。しかし完全に元に戻る事はなく、アニウの髪の何房かは白いまま残ってしまった。


 GM:フラウ達が恐る恐る遠巻きに見ている中、アニウはハッと意識を取り戻してツバキを見る。そして氷柱が掠めて出血するツバキの様子を見て、顔をくしゃくしゃに歪めて「ごめんなさい」と泣き出した。

 ツバキ:「気にするな、お前が戻ってきてくれて良かった」アニウの頭を撫でる。

 サー:もう近付けそうなら、慌てて駆け寄ります。「大丈夫であるか、二人とも!」

 リューラ:こっちも駆け寄る。「無茶するわね、ツバキ」

 ステラ:「今治療するから……【ヒーリング・バレット】!」


 ツバキの負傷が治ってから、改めて冒険者達はアニウと向かい合う。


 GM:「ごめんなさい……自分が自分じゃないみたいだった。うち、本当に妖精なんだね……」アニウは泣き腫らした顔で俯いている。

 ツバキ:「いや、こちらこそ今まで黙っていてすまなかった」頭を下げる。「知らないことが幸福だなんて俺も思わない。出来れば伝えてやりたいと思っていたし、決意を持ってお前が聞くなら言ってもいいと思っていた」

 GM:「……」アニウは黙って聞いている。

 ツバキ:「……だけど、知らずにすべてが幸せに終わるなら、それが何よりだと思ったんだ。許してくれ」

 GM:アニウはその言葉を聞いて、また泣き出した。君たちの優しさに。「うち、頑張るから……」

 ステラ:よしよし、と背中を優しく叩いてる。

 サー:釣られて号泣しています。「うぉぉぉ、すまなかったのである……‼︎」

 全員:(笑)

 GM:兜から溢れた涙が凍ってすごい事になりそう。


 アニウは落ち着いたが、フラウ達はすっかり怯えてしまったのか、洞窟の中へ姿を消してしまっていた。しかし、一行が再びこのエリアを探索しようとしていると、先ほどのフラウ達とは異なる一体のフラウが彼らの前におずおずと姿を現した。


 ステラ:「な、何……?この子は妖精に、さ、させないよ」アニウの前に出る。

 GM:「ひぃ、ぶたないでください!」とこのフラウは頭を抱えた。どうやら臆病な性格みたいだね。「あ、あの……さっきの話を聞いてて……その、やっぱり『隠したまま』は良くないと思って……」

 サー:「む……もしや、何か打ち明けたい事でも?」

 GM:「は、はい……」臆病なフラウはおずおずと続ける。「あの、『綺麗な冠』、心当たりがあります……さっきは黙っててごめんなさい」

 リューラ:「何ですって?どこにあるの?」


 臆病なフラウが冒険者達とアニウを案内したのは、崖の一番端にある、一番小さな洞窟だった。どうやら彼女一人で使っているらしい。


 GM:「あ、あの、他の子には絶対秘密にしてくださいね」と言いつつ、フラウは洞窟へ入っていく。でもこの洞窟は、一度君達も調べているね。その時は無人だったけど、目星い物は見つからなかった。

 リューラ:「ここ、確か一度調べたわよね?」フラウを見る。

 GM:フラウは「じ、実はここが……」と洞窟の奥の岩陰に手を伸ばす。すると、何もないように見えた場所がピシッとひび割れ、隠された空間が現れる。どうやら氷を鏡のようにして隠しスペースを作っていたようだ。

 ステラ:「あ、隠し部屋……すごい」さっき〔探索判定〕の達成値を出した時に妙に『惜しいな……』って顔してたのはそれでか!

 GM:出目があと1高ければ、「ステラが〈知性の指輪〉を破壊すれば、何か追加で見つかりそうだ」と教えるつもりだった。


 隠し部屋には氷で作ったショーケースのような物が置かれ、その中には色とりどりの宝石がはめ込まれた、透き通った冠──〈果てのユカラ〉が静かに佇んでいた。リューラが〔宝物鑑定判定〕に成功し、この冠が〈カトレアの花冠〉と同じ効果を持ち、更に水・氷属性の妖精魔法の行使判定に+1のボーナス修正を得られるアイテムであると判明した。売却価格は3万ガメルにも昇る。


 ツバキ:「これが〈果てのユカラ〉か……」

 GM:アニウも見惚れている。「すごい……これが村のお宝……!」

 サー:「ついに見つけたのである。これがあれば!」

 GM:「えへへ……森の中で見つけて、凄く綺麗だったから持って帰ったんです」とフラウは言う。「でも、後からスカディ様がこの冠を探してるって知って、私は……」

 リューラ:「あなた、スカディの従者なんでしょ?なんですぐに持って行かなかったの?」

 GM:「それは……その……実は私、他の子みたいに『想いが込もった物』を一つも持ってなくて……それでいつも仲間外れにされてて……でもこの冠には、色んな人の強い『想い』を感じたから……」

 ツバキ:「それで、ずっと隠していたという訳か」

 GM:臆病なフラウはしょんぼりした顔で頷く。「でも、あなた達の話を聞いて……いつだったか、ここを通った旅人の事を思い出したんです。傷だらけで、今にも死にそうなのに、引き返さずスカディ様の宮殿へ歩いて行って……」アニウがそれを聞いて「おっとぅ!」と拳を握りしめる。

 ステラ:「……その人、どうしたの?」アニウの手を上から握りつつ。

 GM:「わ、分かりません、いつの間にか通り過ぎてたし……でも、あなた達の話を聞いて、もしかしたら私、ひどい事しちゃってるのかなって思って……」フラウはゆるゆると首を振る。

 サー:「そうであったか……それでは、我々にこの冠を譲っていただけないだろうか?我々にはこの冠が必要なのである」

 GM:「それは、い、良いですけど……まず、他の子とスカディ様に絶対秘密にしてほしいのと……」

 リューラ:「……それと?」

 GM:「あと、これを何か他の『想いが込もった物』と交換してくれるなら、あげます」フラウは切羽詰まった表情だ。


 冒険者達は臆病なフラウに様々な品物を見せるが、中々フラウの眼鏡に叶う物は見つからなかった。


 GM:最終的にフラウが「これと交換なら……」と指差した物は、『サーの櫛』『ステラのペンダント』そして『アニウの成人の儀の装束』だ。

 サー:「この櫛は我が従者に初めて贈られた物。確かに想いは込められているであろうな。だが……」流石にちょっと渋い顔をします。

 ツバキ:「ステラのペンダントも、育ての親の形見だ」魔動機の破片を加工して付けてるんだったか。

 ステラ:うん。でもしばらく悩んでから、ペンダントを外す。「ううん、いいよ。アニウが助かるなら」

 GM:それを聞いたアニウが慌てて「いや、この装束にして!うちはいいから‼︎」と蒼い装束をフラウに差し出す。

 リューラ:どうする?倒して奪っちゃう?

 サー:うーん……いや、やっぱり私の櫛と交換してもらいましょう。「ステラ、それにアニウ。お前たちの宝物は、二度とは無い思い出や願いが詰まった物。私のこの櫛も確かにそれに匹敵する大切な物であるが……何、また貰えば良いのである。我が従者は元気であるからな!フハハハ‼︎」

 ステラ:「ごめんなさい、サー……でも、ありがとう」どこかホッとした顔をしている。

 GM:アニウも何か言いたそうな顔だが、サーの決断を否定する事はできないようだ。装束をぎゅっと握りしめて、ステラと同様に少しだけ安堵の表情を浮かべている。

 サー:フラウに櫛を差し出します。「良いか、これは本当に大切な物であるから、決して乱暴に扱う事のないように頼む」

 GM:フラウは「い、いただきます……」と恭しくその櫛を受け取ると、氷のショーケースを開けて中身を入れ替えた。そして取り出された冠をサーの手にそっと載せた。「ありがとう、でも絶対秘密にしてね……」

 サー:「うむ……」ではそのままアニウに被せます。「これはアニウが持っておくのがよいだろう」

 GM:冠……〈果てのユカラ〉はアニウの頭にすっぽりとはまった。被せた瞬間、サイズが勝手に調整されてぴったりな大きさへ変わったようにも見える。アニウは「わ……すごい、ぴったり」と驚いている。「でも、あの、サー……皆が持っていた方が良いんじゃ……」

 ステラ:「ううん、アニウが持っていた方がいい。願うのは、あなたであるべきだと、私も思う」

 サー:「その通りである。アニウの手で、決着をつけるのである」肯き。

 ツバキ:それを見て微笑んでから、サーに頭を下げる。「……すまない、サー。俺にも思い入れのある物があれば良かったんだが」

 サー:「良いのである!ツバキはきっと、これからそういったモノが増えていくのであろうな」笑います。

 リューラ:「アタシのこのフォークとかスプーンもかなり思い入れがある物なんだけどね……数千皿は共に戦ってきた戦友なのに……」

 GM:フラウはその食器を見て言う。「あ、それはなんかギトギトな感じがするから要りません」

 全員:(爆笑)

 リューラ:「失敬な!使うたびにきちんと洗ってるわよ‼︎」(笑いながら)


 かくして、冒険者達とアニウは遂に秘宝〈果てのユカラ〉を手にし、臆病なフラウに見送られて『雪妖精の棲家』を後にした。


 そして彼らは『吹雪の宮殿』へと歩みを進める。

 雪神スカディと対峙する時が迫っていた。

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