1-10. 吹雪の戦乙女

【クスク村周辺地図】

 ①②③

 ④⑤⑥

 ⑦⑧⑨


 ①……???

 ②……???

 ③……???

 ④……『水精の滝壺』 ←〈現在地〉

 ⑤……『大猪の森』

 ⑥……???(広大な雪原)

 ⑦……『長老小屋』

 ⑧……『クスク村』

 ⑨……『雪神の祠』


 ────────────────────


『長老小屋』でカニクの足跡を辿る手掛かりを得たPC達は、そのまま小屋の裏手に流れる凍りついた川に沿って北上していく。


 GM:では『移動』を選んだって事で。……君たちが滝壺に辿り着いた頃、既に日は完全に沈みきっており、夜の闇が君たちを包み込むだろう。

 ステラ:ち、ちょっと待って……。さっき『スカディ』って言った?あのスカディ?

 GM:えー?どのスカディかなー?(すっとぼけ)

 リューラ:スカディに対して〔魔物知識判定〕はできる?

 GM:いいよ。ただし知名度は高い上に、君たちが今持ってる動物図鑑の効果は得られないけど。

 ツバキ:何言ってるんだGM、俺たちは全員人間だ。【剣の加護/運命変転】がある。

 ※【剣の加護/運命変転】:人間の種族特徴、通称は変転。ゲーム内で1日に1回だけ、自分が振ったダイスの目をひっくり返せる。1は6に、5は2に……。こういった何日も日を跨ぐシナリオにおいては何度も使える為、無類の強さを誇る。

 GM:ツバキはナイトメアだろうが!

 ツバキ:だから俺だけは『変転を使ったフリ』になるな。

 リューラ:ちょっと待って計算する……あ、出目が低い時に変転を使って、《知力の指輪》も消費すると仮定すれば、サーとステラは絶対に失敗しない!どうせセージじゃないから弱点値まで超える必要はないし。

 GM:おぉ……さすが人間。まぁ今までも数多の窮地を変転で切り抜けてきたものね。でも良いのかな?この直後に蛮族の奇襲を受けて戦闘になるかもしれないのに⁉︎

 サー:GMが必死ですね(笑)


 ともあれ、〔魔物知識判定〕の結果はステラとサーの出目が非常に高く、変転を使うまでもなく成功だった。


 GM:ではステラとサー、君たちは旅の中で古い古い妖精にまつわる文献を読んだ事があるのを思い出した。その文献によれば、氷の宮殿に住まい、吹雪と氷でできた鎧を身に纏った古代種の上位妖精、『吹雪の戦乙女』ことスカディという存在がいるらしい。強く勇ましい男が好みで、気に入った男には自らを呼び出す宝石を与える事もあるという。そして男が死ねば遺体を持ち去り、氷漬けにして自らの宮殿に保管するという説もある。

 ステラ:イノシシの鎧を見た時からうっすらそうじゃないかと思ってたけど、やっぱりスカディか……。

 サー:(スカディの魔物データを見ながら)15レベル……我々全員で念入りに準備して、なんとか土俵に立てるかどうかという強さですね。

 リューラ:こいつ防護点がヤバいんだけど!そりゃ、あのイノシシも硬くなるよね……こんな鎧を貸し出されてたらさ。

 GM:いやぁ、今朝食べたスカディの部下の肉は美味しかったですね!(笑顔)

 ステラ:こいつめ……今のうちに謝り文句を考えておくか(笑い)

 サー:GMの鬼ぃ!自分でぼたん鍋の演出したくせに!


 確かに、15レベルの上位妖精による加護がかかっていると考えれば、クスク村の周辺だけ危険な魔物が寄り付かないのも分かる……と、冒険者達は自分たちを納得させた。できるだけスカディと敵対せずに行きたいと考える四人だったが、スカディの習性上、カニクの遺体は彼女の宮殿にある可能性が極めて高そうだ。どうやって穏便に遺体を返却してもらうかを考える必要が出てきたが、GMは「それは追々考えてもらって」と、セッションを進めることにした。


 GM:では改めて……君たちが移動をほぼ終えた頃には、既にすっかり夜になっている。

 ツバキ:予め日没前に各自ランタンに火を入れた事にしていいか?サーが素早く着火できるアイテムを持っていた筈だ。

 サー:《迅速の火縄壺》ですね。昨日に引き続き活躍してもらいましょう。

 GM:OK!処理の簡略化のために、どのタイミングで火を着けて消したとしても、油は1日に6時間分ずつ消費していく事にするよ。

 ステラ:私はカルキノスにアニウと一緒に載ってる。ガションガション。

 GM:アニウは昼間に遊んでくたくたになってしまった様だ。ランタンを鋏に引っ掛けて雪上を進むカルキノス、その操縦桿を握る君にもたれかかるようにして、小さな寝息を立てている。

 ステラ:「……私も、ちょっと疲れたかも……ふぁぁ」こっちも大分疲れてて、カルキノスを半分くらい自動操縦モードにしながらうつらうつら。

 GM:足場の悪さによるペナルティを無視できるなら、上手く歩かせれば鞍上の揺れもほとんど消せそうだしね。そりゃ眠くもなるか……。

 リューラ:こっちは先頭でサーと並んで警戒中かな。後ろを振り返って小さく笑う。「あの二人可愛い。でも、やっぱりまだまだ子供ね」

 サー:「ふぅはは……どの道、この闇の中で凍った滝を降りるのは危険過ぎる。滝まで辿り着いたら野営し、滝への挑戦は明日の朝にいたそう」

 ツバキ:では俺は隊列の最後尾だな。魔物の奇襲などに気を配りつつ、ランタンを揺らして歩いている。「……妖精の支配下となると……」こう、複雑そうな顔。最悪というわけでもないが、面倒くさいことに直結してるな〜これ、みたいな。


 水面に張った分厚い氷の下で水が流れる微かな音と、ランタンの油がゆっくりと燃える音、そして自分達が雪を踏む湿った足音。それ以外は静寂が満ちている。

 やがて、冒険者達の前に巨大な崖と、それに沿って流れ落ちる水が途中で凍りついて作られた荘厳な氷の滝が姿を現した。


 GM:思わずはっと息を飲むような美しい自然の芸術が、君たちのランタンの明かりに照らされて浮かび上がる。と言っても君たちは滝の上にいるから、下を覗き込む形になるんだけど。

 ツバキ:「美しいな。趣深いものがある」目を細めて見ている。

 サー:「あんまり魅入られて命綱なしで落ちたりしないようにするのである」おねむな二人の為にも、手早く滝から少し離れた地面の上にテントを設営します。

 リューラ:あ、手伝う手伝う。


 冒険者達とアニウは、次の時間は『休息』を取ることにした。早々に眠ってしまったアニウとステラをテントに寝かせ、ランタンの炎で雪を湯に沸かしたサーが、彼の従者がいつも振る舞っている紅茶と同じ銘柄のものをカップに淹れて、外にいる二人へと持って行った。


 GM:君たち3人は手近な倒木の雪を払い、毛布を敷いて椅子替わりに並んで腰掛けた。ぞっとするほど空気は冷え切っていたが、熱々の紅茶を喉に流せば、体の芯から温まる気がした。

 サー:「いつもの茶葉を使ったが、淹れたのが私ゆえな。味は同じとは言い難い」

 ツバキ:「いや、美味しいぞ。確かに少しだけ味は変わったが、問題ない範囲だ」

 リューラ「ヴェリース卿も何だかんだ貴族ですからね、紅茶くらいは嗜みますわよ」


 リューラはサーの事を『サー』と呼ぶ事はない。また、彼に対しては(慇懃無礼ながらも)丁寧な態度で接する。それは彼女の方がサーより爵位が下の家の出身というのもあるが、いつか旅が終わり領地に連れ戻されたとしても、貴族としての己を失わないために行っていることでもある。


 サー:ステラは眠っちゃってるけど、ここでアニウの前でできなかった情報共有をしておこうか。

 ステラ:Zzz……。

 GM:アニウも隣ですやすや眠っているよ。

 サー:居住まいを正そう。「さて……ツバキよ。ラッセル殿とアイゼン殿から聞いた話の中で、実はお主とステラにはまだ話していなかった事がある。ここで語っても構わぬか?」

 ツバキ:「……ああ、聞かせてくれ。十中八九アニウに関する話だな?」

 サー:「うむ……」では、ツバキにアプトさんの秘密について共有します。

 リューラ:今のツバキなら、どんな反応するかな……。

 ツバキ:しばらく無言だけど、やがて口を開く。「……そうか。それで色々と腑に落ちた」

 サー:「ふむ、では聞こう。お主は、今回の依頼についてどう思う?」

 ツバキ:「……恐らくだが、カニクの失踪は計画的なものではない。そして、何らかの『期限』が迫っている」

 リューラ:「期限?それはスカディがブチ切れてクスク村を滅ぼすとか、そういう意味かしら?」宝冠はどこじゃ!見つからないなら村ごと氷漬けじゃ!的な。

 ツバキ:「その可能性もある。そうじゃない可能性もあるが。……まず、必死に努力してまで村に溶け込もうとしていたカニクが、銃で人を脅してまで情報を集め、そして『果てのユカラ』と同時に失踪した。もし念入りに計画していたなら、ヒイラギ長老の小屋に押し入らずとも、情報を得る手段は幾らでもあった筈だ」多分な。

 サー:「確かに……カニク殿に慌てる理由があったという事か。そして、それが『期限』という訳であるな」ぽんと手を叩きます。

 リューラ:「村人たちからの信頼を大きく裏切れば、家族が辛い目に遭う事も分かってたでしょうに……家族想いだったカニクさんの行動とは思えませんわね」

 ツバキ:「ああ、俺もそう考える。そして、家族想いの男がそうまでして事を起こすというのは、つまり……」

 サー:「なるほど。それも『家族のため』だった、ということか!」

 ツバキ:「そうだ。何らかの方法で『家族に重大な危機が迫っている』と知り、解決の為に動いたのだとすれば、カニクの行動はある程度説明がつく」

 GM:なんかすごいズバズバ推理されてる……。

 リューラ:ツバキは状況の分析力がすごいから、いつも頼りにしてる。


 結局、冒険者達にその場で全てを解き明かす事はできなかった。まだ情報が少なすぎるため、更なる情報……特に『雪神』ことスカディに関するものと、カニク本人の動向、そして破り取られた本のページを探しつつ、スカディの宮殿(推定場所:②)を目指す事を改めて決意し、冒険者達は眠りに就いたのだった。


 ────────────────────

[雑談]

 GM:ツバキのPLがいる時に推理モノのシナリオは絶対回したくないな……。

 ステラ:分かる。序盤で犯人にバックスタブ決められそう。

 ツバキ:いや空気は読むから、そういう時は推理パートまで大人しくしてるぞ。

 サー:状況分析もですけど、シナリオ後にやってくれるPCやNPCの心理分析が本当に細かく的確なのがすごいですよね。

 GM:しょっちゅう「あ、そうかこいつこんな事考えてたんだ」って逆に自分が気付かされるくらいだもの。シナリオ改良にめっちゃ繋がってる。

 リューラ:ホントね。いつも助かってます。


 PLの全員には、ここで改めてお礼を申し上げます。

 皆、いつも楽しいセッションをありがとう!

 素敵なRP、円滑な進行のアシスト、そして時にはシナリオに対する少し厳しい意見も含めて、皆のお陰でこの『白に惑う』リプレイはあります。

 また、このシナリオを改良していく過程のセッションに参加してくれた他PLの皆様方にも、感謝の念が堪えません。

 本当にありがとうございます。


 引き続き、彼らとアニウの冒険の足跡をお楽しみください。

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