1-6. 神獣イノシシ狩り

 まさしく猪突猛進。小さな竜ほどの巨体を純白の鎧で覆った大イノシシが、雪をかき分けて一直線に冒険者たちへ突っ込んでくる。戦闘処理の前に、まずはイノシシの奇襲攻撃だ。


 GM:距離にして20m以上もの不安定な雪面を一気に駆け抜け、巨大イノシシはその硬い牙と前足の蹄で君たちを蹂躙しようと迫る。

ツバキ:【トランプル】は不味いな。俺たちのパーティーは大ダメージから立て直すのが難しいし、後衛まで抜けられると流石に面倒だ。

サー:何とか突進を止められないかな?こう、私ががっつり受け止めるとかして。

GM:ふむ……もし、君たちの誰か一人が回避を捨て、身を挺して最前線でイノシシを受け止めるならば、この恐るべき爆走の攻撃対象はその一人だけになってもいい。

 サー:よし。「……私の後ろに!」前に出て盾を構えます。

 リューラ:「お手並み拝見ね」その斜め後ろでグレイブを抜刀。

 ステラ:「サー、無理しないで!」狙撃ポジションへ移動すべく、こっちも後方へ雪をかき分けて移動する。

 GM:ではサー、君は大盾タワーシールドを装備してる左半身を前に出して、両足と右手のメイスを思い切り地面に突き刺した。君の高い筋力によって足先とメイスの先端は杭のように大地に埋まり、君の体を力強く固定する。

サー:「この程度の力比べ、何度も経験済みである!来い!」

GM:すぐにイノシシの凄まじい突進力がサーに激突して、自動車同士の衝突事故みたいな金属音が響く……(ころころ)……ダメージは24点。

 サー:「ぬぅ!!」がっちりと受け止めるけど、鎧や盾の防護点で相殺しきれない!ちょっとダメージを受けます。


 もうもうと立ち込めた雪煙が晴れた頃、サーは5mほど後退した地点で、その大盾タワーシールドによってイノシシの突進を受け止めていた。しかし、イノシシの白鎧から放たれる冷気がサーに更なるダメージを与え、苦しめる。


 サー:「くっ……!触れた側から一瞬で凍てつくとは、なんと面妖な‼︎」

 GM:ここで、木陰からひょこっと顔を覗かせたアイゼン村長がイノシシを指差して叫びます。「あ、あれはこの崖下の森の主、大イノシシに間違いない!わしも何度か見たことがあるわい!あんな鎧は見た事がないが……」

 ツバキ:「理由はわからないが……本来のテリトリーの外に出てきたということだな?」抜刀。

 GM:「しかし、どうやって……⁉︎この先の崖をあんな巨体で登って来るのは、絶対に不可能じゃ!」

 リューラ:「きな臭いことになってきたわね。あの白い鎧とも無関係じゃないでしょう」ゆらぁ、と大薙刀を回転させてから構える。

 ステラ:「……とにかく!」じゃこっ。(折り畳んだ銃身を展開している)

 サー:「迎え撃つしかあるまい!」イノシシと押し合ってる。

 GM:それでは戦闘開始だ!今回は『基本戦闘ルール』でいくよ。


 戦闘開始後すぐ、まずサーが賦術や練技で自らを強化しつつ【ガーディアンⅡ】の使用を宣言、仲間全体を強固に守る姿勢に入った。

 ※【ガーディアンⅡ】:戦闘特技の一つ。仲間を庇って代わりに攻撃を受けることができる特技の中でも、最上級のもの。これがある限り、敵の行うほとんど全ての物理攻撃を、頑丈な鎧に身を包んだサーが受け持つ事ができる。


 サー:「背中は私に任せよ!遠慮なく皆の全力を叩き込むのである‼︎」


 また、ステラとサーの魔物知識判定が成功し、この巨大なイノシシは山岳地帯や森林に生息する《ギガントボア》という魔物である事が判明した。森の主というアイゼンの言葉に嘘はないらしく、〈剣のかけら〉と〈トレジャードロップ〉による強化が最大限施されている強力な個体である事も分かる。しかし、イノシシが身に纏っている白い鎧については、実際に戦ってみるまで詳細不明ということだった。


 ステラ:レベルだけ見たら、私たちとそう変わらないし、数も1体だけ……でも。

 ツバキ:鎧が不確定要素だ。それにこうも向こうに有利な状況で戦う以上、油断はできないぞ。


 そう、今回の戦闘は、冒険者達にとって不利な要素が多い。まず時間が夜であるため、ツバキが持っていたランタンの範囲外に出た冒険者は、暗闇の中で戦うことによるペナルティ修正を受ける事になる。そして、足元一面の分厚い新雪だ。これにより、全員が足場の悪い事によるペナルティ修正を重ねて受ける。それに対して敵のギガントボアは白い鎧の効果なのか、足元の雪をものともせずに動き回っているようだ。

 しかし……。


 ステラ:ペナルティ修正込みで〔先制判定〕……(ころころ)やった、成功。【ファストアクション】が起動する。

 ※〔先制判定〕:戦闘を、敵味方どちらのターンから始めるか決定する為の判定。SW2.5においては、この判定の結果がパーティーの生存を分ける事も多々ある。

 ※【ファストアクション】:スカウト技能で習得できる戦闘特技の一つ。自分が振った先制判定のお陰で先手が取れた場合、最初の手番だけ2回行動できる。

 ツバキ:こちらも判定成功で【ファストアクション】だ。畳み掛けさせてもらう。

 GM:な、何ィ……⁉︎


 まず大地を蹴ったのは、サー・ゴットリープ。【ガーディアンⅡ】を維持しつつ、後に続く仲間を支援するべく【パラライズ・ミスト】の賦術でギガントボアの動きを鈍らせる。そして、騎獣エメラルドラクーンダックスと共に突撃し、その脳天に目掛けてメイスを振り下ろした。


 GM:サーのメイスとダックスの腕はギガントボアの真っ白な鎧に弾かれ、『ギィン……』と、ドライアイスの上をスプーンで撫でた時のような耳障りな音を立てる。わずかに鎧は凹んだが、中身へのダメージは殆どないようだ。

 サー:「ぬッ、ただ冷たいだけでなく、非常に強固であるな!」

 ステラ:この威力で、このHPの減り具合……この白い鎧、防護点+5もある!

 リューラ:よし、次はこっちが行く。


 ギガントボアの注意がサーへ向いた隙を逃さず、乱戦に飛び込んできたリューラが大薙刀グレイブをぶち当てる。無論、それまでの一瞬に無数の強化(全てが攻撃系だ)を自らに施しているため、凄まじい攻撃力だ。


 リューラ:「飛べ、デカブツ!」横一文字に一閃。

 GM:ぐわっ、その威力は中身にもダメージが通る。ギガントボアの巨体が、リューラの剛力で振り回されたグレイブによって僅かに浮き上がる。頭部を守る真っ白な額当てに一直線のヒビが入り、半分ほど砕け飛んだ。「ピギィィ‼︎」とこれには堪らずイノシシも悲鳴をあげる。

 ステラ:なんて筋力してんだ。こっちも負けてられないな。


 発砲音とともに、体勢を崩したギガントボアへステラが1発、2発と銃弾を撃ち込む。普段の彼女であれば得意技の【狙撃】を使う所だが、今回は命中率に不安があるため、攻撃回数を優先したのだ。

 ※【狙撃】:戦闘特技の一つ。行動1回分を使って狙いを定める事で射撃のダメージを2倍にできるが、余裕を持って命中させなければ失敗するという玄人好みの特技。


 ステラ:1発目は普通だったけど、2発目がクリティカル!

 GM:ギガントボアはふらつき始めた。確実に負傷は蓄積しているようだ。

 ステラ:まぁ、まだ終わりじゃないんだよね。補助動作で《騎獣縮小の札》を解放する。……《ティルグリス》、君に決めた!

 GM:ゲーッ⁉︎

《騎獣縮小の札》:ライダーが乗騎である騎獣をどこにでも持ち歩くための魔法のアイテムの一種。騎獣を一時的に掌サイズまで小さくして、彫像のように固める事ができる。この札は使い捨てだが、ぺりっと剥がすだけで即座に元のサイズに戻す事ができるため、即応性に優れている。

《ティルグリス》:10mにも及ぶ長い尻尾を持つ、大柄の虎に似た幻獣。2回攻撃できる爪や、雷と氷のブレス、遠くまで届く尻尾などの多彩な攻撃手段を持つ。しかしやっぱり、そのモフモフな毛並みに魅了されて契約する冒険者が多い。

 ステラ:「行って、ティルグリス。サーが守ってくれるから遠慮はいらない……思い切り暴れてくるといい」【遠隔指示】に【獅子奮迅】を使う。


 爪、爪、尻尾。ステラの指示によって繰り出されるティルグリスの怒涛の猛攻は、しかしギガントボアに全て躱されてしまった。


 ステラ:出目が振るわない!終わり!

 GM:危なかったぜ……。何とかもう一回こっちも攻撃ができそうだ。

サー:それはどうでしょうね?

 ツバキ:では最後に動くぞ。まず【全力攻撃Ⅱ】、その後2回目は普通に斬る。


 退路を確保して再度突進を行おうと暴れるギガントボアに対し、ツバキもまたリューラのように自己強化を重ねつつ雪面を駆けた。イノシシの頭部を間合に捉えた瞬間、ツバキの手元が一瞬だけ高速でブレて……そして戦闘は終わった。


 ツバキ:2発とも命中、1発目は41ダメージ、2発目は30ダメージ。「すまないな。お前が止まらないなら、止むを得ない」既に鞘に刃を収めている。

 サー:回ってないのにこの火力……追加ダメージの鬼だ……。

 GM:それは流石に死ぬ。最期に自分の身に何が起こったのかすら理解できないまま、イノシシは『ズシン』と音を立てて雪の上に沈んだ。

 ステラ:あまり活躍できなかったティルグリスが不満げにがうがう唸ってるけど、別のお札を貼って小さくしておく。

 サー:ティルグリス君の出番はまだありますよ、多分……。

 GM:では、しばらくすると恐る恐る木陰を出てきたアイゼンが、再び君たちと合流するよ。「いや、本当にたまげたわい……あんな怪物をあっという間に倒してしまうとは」

 ツバキ:「別に、大した事じゃない」

 GM:「いやいや、大した事じゃわい」いやほんと。10秒ですよ


 ギガントボアの死体を調べると、イノシシが身に纏っていた白い鎧は雪を固めて作った物であると分かる。冒険者達はその鎧から魔法のエネルギーを感じ取るが、雪の鎧は次第にその硬度を失い、やがて他の雪に溶けてしまった。


リューラ:「雪の鎧、か。そうじゃないかと思ってたけど」腕組みしてる。

ステラ:「『雪神様』が差し向けてきたのかな。……でも、どうして?私達が邪魔だった?」

ツバキ:「『果てのユカラ』を失くした事がバレて、村人に罰を与えに来たのかもな」

サー:「もしそうだとすると、村の中を随分と迷走してた割に被害者が見つからなかったのが気になるであるな……。案外イノシシも宝冠を探していて、余所者である我々が盗んだと判断して襲いかかってきたのやもしれん」

ステラ:「だとしたら……悪い事、しちゃったかな」イノシシの死骸に手を合わせる。

ツバキ:「先に手を出して来たのはあっちだ。気にすることはない」


それから、冒険者達はその場でギガントボアから戦利品を剥ぎ取った。手に入ったのは《上質な毛皮》が2枚にトレジャーポイント4点、〈剣のかけら〉が9個に大量の新鮮な猪肉、そして……。


 GM:あ、トレジャーポイントは一旦保留でお願い。とある場所で、それまで獲得した分をまとめて精算する予定だから。ところでステラ、イノシシの解体を手伝っていた君は、その肉の中から幾つか小さな金属の塊を見つける。

 ステラ:金属の塊……?

 GM:ガンから発射された弾丸です。着弾の衝撃でひしゃげてるけどね。

 ステラ:ああ!なるほど。

 GM:ただ、イノシシの体内からは全部で3発の銃弾が見つかる。君が撃った数より1発多いね。

 サー:ふむ。誰かが過去にこの猪を撃った事があった、って事ですか?

 GM:うん。そして三発目の弾は、ステラが使っている銃よりもっと古式な、古い単発式の猟銃用の弾だ。

 ステラ:皆を呼んで、その弾を見せよう。「ね、ねぇ……これって、もしかして」

 リューラ:「もしかして、行方不明のカニクが撃った弾かしら?」

 GM:アイゼン村長も肯きます。「それは……恐らくそうじゃな。という事はつまり、奴はこの崖下の森に入って、この大猪と戦ったに違いない!これはカニクの行方を追う手がかりになるじゃろう……」と、彼は安堵のため息を吐くでしょう。

 ツバキ:幾ら心では信じても、少しは疑ってしまうものか……。

GM:そうだね。順当に考えても、彼がユカラを盗んでいないなら、他に犯人がいるって事になるし。


 何にせよこれ以上この場所に止まる必要はない、と判断した冒険者達は、イノシシの戦利品を背負い、アイゼン村長を連れて再び村長屋敷へと戻る。四人は村長屋敷の空いていた部屋をそれぞれ男女一部屋ずつ当てがわれ、遺体捜索は明朝から始める事として、ひとまず眠りに就いたのだった。


 ────────────────────

[雑談]


 GM:うわーん!イノシシにトレジャードロップ入れた意味が‼︎

 ステラ:涙拭けよ。

 ツバキ:次があるよ。

 GM:正直脳筋を舐めてた。念の為奇襲の演出だけでも入れておいて良かったぁ、攻撃手段も分からないまま倒れてたら本当に謎だったもの。

 リューラ:なるほど、それで〔危険感知判定〕もなしに襲われたのか。

 GM:絶対に1回は敵に攻撃させておきたくてね……。実は防護点+5と氷の追撃の他に、打撃点+3も入っていました。

ステラ:うちのティルグリスにも装備させたい。

 サー:1ラウンドで倒してしまったので、【ガーディアンⅡ】もほとんど意味をなしませんでしたね。

 GM:そっちは間違いなく後で出番来るから!

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