1-7. 母と娘、親と子
不思議な巨大イノシシとの戦いから一夜明けた翌朝。四人の冒険者達は、村長屋敷の一室で目を覚ました。
GM:朝からまた雪が降っている。目が覚めた君たちが眠気覚ましに小屋の外へ出ると、冷たい朝の空気の中で、何人かの村人がそれぞれの家の屋根の雪かきをしている光景が見える。
サー:「朝からご苦労様である!手伝いはご入用か?」手をブンブン振って挨拶します。
GM:他の村人達は君たちと目が合うと、懐疑的な眼差しをむけてくるか、あるいは気まずそうに視線を逸らすだろう。代わりに「おはようございます!」と君達の背後から元気よく挨拶を返したのは、アニウだ。
サー:「ふぅはははは!おはようである、アニウ嬢」
GM:「朝餉の支度が出来たので、呼びに来ました。昨日はちゃんと眠れましたか?」
ステラ:「……おはよう。うん、大丈夫」
リューラ:「ええ、よく眠れたわ。というか、朝ご飯準備してくれたの⁉︎」
ツバキ:「おはよう、アニウ」
GM:「皆さんお元気そうでうちも何よりです」と彼女は笑う。「そういえば、昨日でっかいイノシシを退治したって本当ですか⁉︎朝起きたら家の前の雪に、お肉がいーっぱい埋めてあったし……うち、もうおったまげちゃって」
サー:「うむ、その通りである。存分に活用されよ」
GM:「ありがとうございます、冒険者さま。……おっとうが居なくなってから、新鮮な肉も中々手に入らなくて、おっかぁに栄養も付けさせてあげられなくて……だから、助かります」アニウは深々と君達へ頭を下げる。
ステラ:「いいの、それより……」あ、イノシシの体内から見つかった銃弾の話はいつしよう?
リューラ:ご飯が不味くなると行けないので食後に!
ステラ:了解。「……なんでもない」言いかけた言葉を飲み込む。
GM:アニウは「ん?」と首を傾げていたが、すぐに君達を村長屋敷の囲炉裏の部屋へ案内しようと歩き出した。
朝食の席には既にアイゼン村長と行商人ラッセルが座っていたが、アニウの母アプトの姿はない。彼ら2人とも挨拶を交わした後、冒険者達も敷物の上に腰を下ろす。
GM:敷物の上には、朝食にしては随分とたくさんの料理が用意されている。中でも、昨日君たちが仕留めたばかりのイノシシ肉を使った鍋料理が特に美味しそうな匂いを放っている。ラッセルは「美味しそうでしょう。アニウが『朝からしっかり元気を出して欲しい』と、腕を振るって作ったのです」と鼻高々な様子だ。アニウもそれを聞いて照れ臭そうに「ちょっと張り切り過ぎちゃったかも……まだ朝ですし、多かったら残してください」と頬をかく。
リューラ:「いやいや、全部余さずいただきますとも!」早速手をつけよう。「美味し〜い‼︎」
GM:並んだ料理は基本的に保存の効く乾燥品や、寒い蔵の中で凍らせた冷凍品を溶かした物で出来ている。それでも調味料やちょっとした具材の切り方なんかに工夫が施されていて、見た目もある程度華やかだし味も十分美味しいよ。
サー:「うーむ、美味である‼︎昨夜の夕食も大変美味しかったが、この朝食も素晴らしい出来栄えだ。アニウは良い嫁さんになれるだろうな‼︎」
GM:アイゼンが「はっはっは!……この子ももうじき15歳で成人になるし、何なら冒険者様方のどなたかが貰ってくださっても良いのじゃよ」とノッてきます。ラッセルもうんうんと頷いている。
サー:ちょっと慌てますねこれは。「う、うむ……深い意味はないのだ。気立ての良い娘だと純粋に褒めただけで……」
GM:アニウも顔を真っ赤にして「もう!アイゼン爺やにラッセルおじまで、冒険者さまを困らせるような事言わないでよ!」と木べらで2人の頭をぽかぽか叩いている。
ステラ:「あ、あのねアニウ……」おずおずと手を挙げる。「お母さんの具合はどう……?ここには、来ていないみたいだけど……ご飯食べてるの?」
GM:それを聞くとアニウは顔を曇らせる。「ごめんなさい。おっかぁ、『今は要らない』って……昨日の事も、よく覚えてない、って言うんです。後で持っていけば、食べてくれるかもしれないけど」
ツバキ:「…………お前の母の寝室は何処だ」
サー:「む、ツバキ。お主……」
GM:「え、ええと、部屋を出て右に曲がって……」とアニウは寝室までの道順を教えてくれる。「でも、どうしたんですか?」
ツバキ:「呼んでくる。飯は全員で食うべきだ」立ち上がる。
リューラ:それを見ながら「私は止めるべきかしら、ヴェリース卿?」(小声)
サー:「うむ、ちと様子見だな。あまり無体な真似はせんと思うが……一応ついて行こう」(小声)
ステラ:「……私も行く」
GM:アニウも何やら感じ取ったのか、「じ、じゃあうちも一緒に行きます」と言い出す。
ツバキ:皆がついて来ることには何も言わないよ。
ぞろぞろとアニウの母がいるという寝室へ向かう、冒険者達とアニウ。囲炉裏のある部屋から暖気を取り入れており暖かいものの、薄暗い部屋の中には昨日倒れていた女性が青白い顔で座っていた。
GM:「アニウ……そちらの方は?」と女性は消え入りそうな声でアニウへ呼びかける。アニウが「この人たちは冒険者さまだよ、おっかぁ。おっとぅを探してくれるよう、うちがアイゼン爺や達に頼んだんだ」と答えると、女性はゆるゆるとした速度で君たちへ向けて頭を下げた。
ステラ:「こんにちは」ぺこり。
サー:「こんにちは、である!私はゴットリープ。気軽にサー・ゴットリープと呼んでくれたまえ!」
リューラ:「リューラよ、しばらく世話になるかもしれないわ」
ツバキ:「ツバキだ。奥方、朝食を食べに来られよ」硬い口調で言います。
GM:「そうですか、私はこの子の……いえ、アプトと言います。申し訳ないのですが、今はお腹が空いておりませんので……」とだけ言って、女性はぼんやりと虚空を見つめている。
ステラ:「それでも、何か口に入れた方が良い。……です」
ツバキ:「そこまでやつれた体では。空いている空いていないの話ではないだろう。食べねば生きていられぬという道理の話だ」苛立ちを隠しきれない声で言う。
GM:彼女は虚ろな眼差しを再び君達に向けてから「分かりました……」と、のろのろ立ち上がった。アニウが慌てて「おっかあ、大丈夫?」と支えに行くね。
サー:「む、アプト殿、肩を貸そう」支えるのを手伝います。
GM:では、アプトとアニウ、後サーは寝室を出ていく事になるけど……他の人はこの寝室で何かする?昨日、眠っているアプトを運び込んだ時にこの部屋はほとんど真っ暗だった。けど今は明るいし、〔探索判定〕で調べる事もできるよ。
アニウ達に怪しまれないよう、ステラ、リューラ、ツバキの三人は『所要時間の短縮』ルールを使って素早く寝室を調査した。
ステラ:判定します(ころころ)うっ、失敗。
リューラ:私も振っておくか……(ころころ)あっ、6ゾロ。
GM:やるな。ではリューラは、部屋の壁際に置かれた衣装箪笥の陰に、ひっそりと『使い古された銃の整備道具と、未使用の銃弾や火薬の一揃い』が置かれているのに気付いた。
ステラ:「これは……カニクさんの物かな」
リューラ:「ステラ、昨日見つけた弾丸はこれと同じものかしら?」未使用の弾を一つ摘んでみる。
GM:君たちがイノシシの体内から取り出した銃弾は、ひしゃげて変形してはいるものの、間違いなくここにある銃弾と同一のものだ。
ステラ:「うん。これってもしかして……」
ツバキ:「ああ、カニク氏の遺品の可能性がある。それ以上触らず、今は元に戻しておけ」
リューラ:「はーい」そろそろ戻ろうかな。
そして、アプトを交えて朝食が再開された。
GM:アニウが元気のない母親に、甲斐甲斐しく朝食を食べさせている。「おっかぁ、あーん」って感じ。
ステラ:ああ、何かいいなぁ、って感じで見てる。うちの両親は物心つく前に死んじゃったけど、もしかしたらこの逆みたいに、食べさせて貰ってた事もあるのかなぁって。
サー:「ん?何だ、ステラも真似したいのであるか?ほら、あーんとするのだ……」
リューラ:「まだまだステラもお子様だものね。ほれ、あーん」
ステラ:「ち、違う!違うから……‼︎」ぶんぶんと首を横に振るけど、最後には根負けしてぱくっと行っちゃうかも。
サー:「まったく、ステラは朝から愛らしいのである!」
全員:(肯いている)
GM:ああ、でもアプトはすぐに食べるのを止めてしまうよ。そしてアニウには「もういいよ」、君たちには「ごちそうさまでした」と言ってまたよろよろ席を立とうとする。
ここでツバキから提案があった。『先ほどアプトを呼びに行った時と同様にキャラクターに則った
ツバキ:……よし、では席を立つアプトを呼び止めよう。「もう少し、食べていただけないか?アニウが、貴女にも食べて欲しくて作った料理だと聞いている」
リューラ:「ツバキ〜、そのくらいにしておきなさいって。食べられない日ってのは誰にでもあるでしょ」呆れた顔で肩を竦めながら見てる。
GM:そうだな……では、アプトはツバキの方は見ず、小声で呟いた。「……他所者の癖に」
ツバキ:それには思わず声を荒げて立ち上がる。「他所者だろうと関係ない!貴女はアニウの母親だろう。伴侶を失って辛いのも分かるが、子には母が必要だ‼️」
GM:では、こっちもカチーンと来た顔になる。「あんたに、私の気持ちの何が分かるって言うんですか!何も知らない癖に!」アプトは君を怒りの篭った眼で睨んだ。
サー:そろそろ止めようか。「落ち着くのだ、ツバキ‼︎」そう言ってこちらも立ち上がり、彼の肩に手を置く。
ツバキ:ありがとう、助かる。ではそれで我に返り「……すまなかった、アプト殿。皆もすまない……少し外で頭を冷やしてくる」と言って、外に出ていく。
ステラ:「あ、ツバキ……」ツバキの後を追っていこう。心配なので。
リューラ:いってらっしゃい、と手を振って見送る。いや、任せたわよ、かな?それからアプトに謝ろう。「申し訳なかたわね、うちの若いのが。普段はあんな激情家じゃないんだけど、何か思う所があったみたい」
GM:リューラの謝罪を聞いたアイゼン村長が「よいよい、娘の態度も悪かったのじゃから」と応じ、「ほれ、お前も謝りなさい」とアプトに謝罪を促す。アプトはいつしかまた無気力な表情に戻っており、「……私も言い過ぎました」と残った二人に頭を下げる。そしてアニウに支えられて出て行ったよ。
サー:さて、この場で色々と今後の依頼に関する相談を行うつもりでしたが……予定が狂いましたね。
リューラ:ま、こっちはこっちで村長と話せば良いんじゃないかな。
ここでしばらく、シーンは2つに別れる事になった。そこでGMはまずステラとツバキには少し休憩してもらい、先に村長屋敷の中に残ったサーとリューラのシーンを進める事に決めた。
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[雑談]
ステラ:貴重なツバキのキレるシーン。
GM:確かに、ここまで感情的になるツバキはめちゃくちゃ珍しいね。普段はずっとクールだから……。
ツバキ:ツバキは自分のために怒る事はしないよ。基本的に、他の怒れない人のために怒るって感じ。今回はアニウがそう。
サー:思えばアニウちゃん、初対面の時に雪玉ぶつけられてもやり返してませんでしたもんね。ため込んじゃうタイプなんでしょうか。
GM:アニウの忍耐力はすごいです。14歳で父親が失踪し母親が病んでしまったのに、冒険者への依頼文を考えられるくらい。感情も死んでなくて、生き生きしているし。
リューラ:あれ、アイゼン村長はマジで代筆しかやってないのか。強いな……。
ツバキ:どこかでアニウにも、思い切り気持ちを吐き出せる場所があった方が良いと思う。こっちで話を聞いてやれればいいんだが。
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