1-5. 『果てのユカラ』

 クスク村は、遥かな昔から不思議な『何か』によって外界の蛮族や魔獣から守られており、村の周囲の一定範囲内に危険な生物が侵入する事は滅多にないという。その『何か』と村の起源にまつわる言い伝えが、クスク村には残されているのだ。


 アイゼンが重々しい口調で語ったその言い伝えは、次の通りである。


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 ──むかし、昔のお話だ。


 あるところに、一柱の神がいた。


 神は、気まぐれに登った雪山の頂上で、ふと思った。

 この山に自らの国を築き、民を住まわせようと。

 神はその力で雪山の永遠の氷を溶かし、吹雪を和らげ、人やその他の生き物たちが住める快適な場所を作り上げた。


 そしてその地に訪れた最初の旅人にこう言った。

『お前がこの地に留まり、私と共に歩むならば、お前をこの国の王にしてやろう』

 旅人はそれを受け入れ、神は旅人に永遠に溶けない氷の宝冠を授けた。

 そしてそれから先、旅人はその地を訪れる人々にとっての王となり、国は次第に豊かになり、栄えた。


 ……しかし。

 それは永遠には続かなかった。

 旅人は、ある日突然己の使命を思い出し、そしてその山を去ってしまったのだ。

 雪の上に記した別れの言葉と、宝冠を残して。


 神は嘆き悲しんだが、もう新たな王を選ぶ気は起きなかった。


 僅かな土地を残して、山は再び吹雪に包まれた厳しい場所となった。

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 GM:「……そして、その残された僅かな土地というのが、このクスク村の周辺であると伝えられているのじゃ」そこまで話し終えると、アイゼン村長は葉巻の灰を囲炉裏にポトリと落とした。

 ツバキ:「それが『雪神様』というわけか」

 GM:「何じゃ、ラッセルから聞いておったのか?」と、アイゼン村長は眉を片方だけ持ち上げる。「その通りじゃとも。この村にはこの神、すなわち『雪神様』を信仰する伝統がある」

 リューラ:「で、その伝説と今回の依頼に何の関係が?」

 GM:「うむ……わし等はこの言い伝えが真実であると考えておる。その根拠となる物がクスク村には代々伝わっていたからじゃ」

 サー:「言い伝えの根拠となる物……もしや、『宝冠』であるか?」

 GM:「その通り……ラッセル、あれを持って来るのじゃ」とアイゼン村長が言うと、ラッセルは無言で肯いてから立ち上がって部屋を出た。すぐに彼は、ひと抱え程の大きさの木箱を持って戻ってくる。

 ステラ:「それは……?」と、興味深げに覗き込む。

 GM:「これは、クスク村の村長屋敷に代々伝わる宝冠……その名も『果てのユカラ』が収められていた箱じゃよ。ほれ、蓋を見るのじゃ。美しかろう」アイゼンが指差した先、木箱の蓋に当たる部分には、木彫り細工でとても美しい冠の意匠が施されている。

 リューラ:「へえ、たしかに綺麗な冠……でも『収められていた』って事は、今は何も入っていないのよね?」

 GM:アイゼンがラッセルに肯いて見せると、ラッセルが木箱の蓋をかぱっと外した。中にはきらびやかな布で出来たクッションが入っていたが、肝心の宝冠は確かにどこにも見当たらないね。

 サー:「空っぽ、であるな」ふーむ、と顎に手を当てて見ています。

 ツバキ:「……よし、大体分かった。つまり、この中身が消え失せたのは最近で、アニウの父親の失踪と前後するんだな?」

 リューラ:「ああ……なるほど」それで『裏切り者』か。

 GM:「そうじゃ……今では村人の多くが、アニウの父親であるカニクが『果てのユカラ』を盗んで逃げたのだと思っておる。元々カニクは余所者として、一部の村人達とは折り合いも悪かったからのう」


 アニウの父は二十年ほど前に村の外からやってきた人間で、ドワーフが多く閉鎖的なクスク村で最初はひどく目立ったという。(ここでGMは村人たちの種族に関する描写を忘れていた事を思い出し、「そう言えばこの村に入ってから君たちが出会った村人たちは、皆ドワーフでした」と言った。)アイゼン村長は彼が村に馴染めるよう尽力し、彼に『カニク』という村の流儀に則った名前も与えた。そしてカニク自身も大いに努力し、年寄りを中心に彼を余所者として拒む者達こそいたものの、狩りや山歩きの高い能力を持っていた事もあって次第に村人達に受け入れられていったようだ。


 GM:「やがてカニクはわしの娘と恋仲になり、しばらくは難儀したものの、数年後にはこんな可愛い孫も授かった。このまま円満に暮らしてくれれば、と思っていたのじゃが……」アイゼンはアニウのつむじを見下ろし、頭を何度も撫でながらそう言った。「アニウのこの髪の色は、父親譲りなんじゃよ……」

 サー:「それは……なんとも、無念であるな……」悔しそうに呟きます。

 GM:顔を上げたアニウが、君達の方を見てきっぱりと言う。「おっとぅは、絶対にそんな事をする人じゃないんだ!うちの事も、おっかぁの事も大好きだーってずっと言ってたし、うちとおっかぁが困るような事は絶対しないって知ってるもん‼︎」

 ツバキ:「それは分かっているさ。お前は両親に愛されて育った子供だと、一目で分かるからな」さっきみたいに、アニウに微笑みかけよう。

 ステラ:「ツバキ……」そういえば、私の時に『お前は両親に愛されていた』って教えてくれたのもツバキだったよね。それを思い出して、何だか嬉しくなってこっちも微笑んじゃう。

 リューラ:はー、尊い。酒が進むわぁ。

 サー:まだ飲んでるんですか⁉︎……あ、私も「ふぅははは‼︎そうであるな、こんな善い子のアニウの父上殿が、悪人であろう筈もない‼︎」と言います。

 GM:アニウは涙ぐんで、君たちに「ありがとうございます」と頭を下げる。アイゼンやラッセルもちょっとうるっと来て目元をゴシゴシ擦ってる。


 ここで話が最初の方に戻ってくる。つまり、アニウ達は猟師カニクの遺体を見つけ、彼が宝冠『果てのユカラ』を盗み出していないという事を証明することで、彼の名誉を取り戻したいのだ。(無論、遺体をきちんと弔ってやりたいというのもある。)しかしアイゼンはクスク村の村長である以上、村内の揉め事に対しては表向き中立な立場を取らざるを得なかった。養い手の居なくなったアニウ達を屋敷に引き取ることはできたもの、自分が金を出して冒険者を雇ったとなれば非難は避けられない。そこで苦肉の策としてアイゼンがラッセルと二人で考えたのが『アニウがカニクの残した財産を使って、自分で依頼を出した。アイゼンはその依頼書の代筆を行っただけである』というものだった、という訳である。


 リューラ:でも正直な話、まだカニクが宝冠を盗んでないとは断定できないよね。最初から村長の家にある宝冠が目当てで村にやってきた可能性もあるし。

 ステラ:それはそう。でも、その為だけに二十年も嘘を吐き通せるものかな?

 GM:少なくともこれまで君たちが話をした感じだと、アイゼンとラッセルの二人は嘘を吐いておらず、根っからの善人だと分かる。〔真偽判定〕も不要だよ。

 ※〔真偽判定〕:ダイスを振って行う判定の一つ。相手が嘘を言っていないか、何か隠し事をしていないかを見破ろうとする時にGMの指示で実行できる。

 ツバキ:母親のアプトは?何か隠し事とかありそう?

 GM:それはまだ会話もしてないから分からない。ただ、ラッセルによれば「おそらく、明日の朝には目覚めるでしょう」とのことだ。

 ツバキ:了解。彼女から話を聞くのは明日以降だな。

 GM:さて、アイゼン村長は一通り説明を終えると、アニウを横に置いて両手を敷物の上につき、君たちに向けてガバッと頭を下げます。土下座の姿勢です。「冒険者様方!どうかカニクを、この子の父親を探してはくれんか!」それを真似してアニウも同じポーズをとります。「どうか、うちからもお願いします‼︎」

 ツバキ:「ドゲザか。アルフレイム大陸にも伝わっているとはな……」なんか感慨深い。

 サー:慌てて駆け寄ります。「アイゼン殿、それにアニウも、どうか顔を上げてほしいのである!どうか我々に任せて欲しい!」

 ステラ:「うん……お父さんの事、探してあげるね。アニウ」アニウちゃんに手を貸して、座り直して貰おう。もうこの子とはすっかり友達って顔してる。

 リューラ:「まぁ、依頼内容に変更はなさそうだし、私も大丈夫よ。……もうちょっと後ろ暗い話でもあるのかと疑っちゃったけど、この位で良かったわ」

 ツバキ:「俺も異論はない」ステラとアニウを微笑ましげに見てる。

 サー:それを聞いて、『ゴン』と鎧の胸を叩いて声高に宣言します。「……うむ!では改めて、我々のパーティーがこの依頼を請け負う事を約束するのである‼︎」

 GM:それを聞いたアニウが感極まったのか、ステラにガバッと抱きついて泣き出してしまう。「う、うぅ……うわぁぁぁん‼︎や、やったよぅおっかぁ、おっとぅ……‼︎‼︎」

 ステラ:「あ、え、あ……ど、どうしよう、皆……」おろおろ。

 サー:「うむ!アニウもステラも大変愛らしいであるな‼︎(大声)」

 リューラ:あっ、遂に我慢できなくなったな。

 全員:(笑い)

 ステラ:「そ、そうじゃなくてぇぇ……」こっちも泣きそうだよ、もう。


 その後、泣き疲れて眠ってしまったアニウをアプトと同じ寝室に寝かせ、二人の世話を行商人ラッセルに任せた冒険者達は、約束通りアイゼンと共に村の食料庫を見回りに出かけた。ランタンの灯りを頼りに白い谷のような道を歩く途中、冒険者たちは道の途中で雪の壁が大きく崩れており、進めなくなっている事に気付く。サーの騎獣、《エメラルドラクーン》(名前はダックス)による〔探索判定〕が冴え渡り、これは巨大イノシシの通った跡だと断定された。

 ※《エメラルドラクーン》:その名の通り、エメラルド色の毛並みをした体長2mほどのアライグマ。妖精語とリカント語を解し、妖精魔法が使えるが、むしろその美しくふかふかな毛並みに魅了されて騎獣契約を結ぶ冒険者が後を絶たない。


 アイゼン村長を守るように挟んで隊列を組み、道を外れて追跡を開始した四人は、やがて村の北側にあるという崖の近くで、遂に凄まじい巨躯を誇るイノシシと相対する事になる。


 GM:身の丈5m、いや6mはあろうかという巨大なイノシシが、いきなり君たちへ向けて突進してくる。【トランプル】攻撃だ!

 ※【トランプル】:この巨大イノシシの必殺技。一直線に突進し、経路上の全員をランダムに攻撃したり、攻撃しなかったりする。

 ツバキ:デカいってレベルじゃねーぞ!こんな奴がどうやって崖登ってきたんだ!

 GM:しかもこのイノシシ、全身に真っ白な甲冑みたいなものを纏っているよ。それは君たちの騎獣が装備している《騎獣用防具》に近いものだが、強い冷気を放っている。イノシシ自身は平気みたいだけどね。

 ステラ:なんですと⁉︎

 リューラ:何でもいいや、ぶった斬り甲斐がありそうだし。掛かってきな!

 サー:あっ、アイゼン村長は大丈夫でしょうか。一般人なら、攻撃に巻き込まれると割とやばそうなんですけど……。

 GM:彼はもうとっくに横っ飛びに逃げて木陰に隠れています。

 ツバキ:プロの村長だな。


 辺りは夜。雪の足場は、一歩間違えば腰まで沈み込んでしまうほど不安定。

 そんな戦場で、冒険者たちのイノシシ狩りが始まった。


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[雑談]

 リューラ:よし、じゃあ私も〔探索判定〕を……(ころころ)あ。

 GM:1ゾロかぁ。自動失敗です、50点の経験点をどうぞ。

 リューラ:し、将軍は斥候スカウトの真似事なぞせんのです(苦しい言い訳)

 ステラ:サーがすごい達成値で成功してたし、自動失敗はお得。

 サー:我が愛馬……いや愛アライグマ、ダックスの鼻はよく利くのである!

 GM:もしかしてダックス君が唯一の回復要員ですかね?

 ツバキ:そうなるな。ステラは攻撃支援担当だし。

 サー(ダックス):「えっ、俺それ(回復)だけっすか……?」※妖精語


 エメラルドラクーンが使える妖精魔法には仲間を回復できる物もあります。そして【ヒーリング・バレット】が使えるステラは基本的に攻撃に回った方が強い為、この後の戦闘でも回復は主にこのダックス君が担当する……筈……だったの……ですが……。

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