1-4. ぎこちない宴

 囲炉裏の前に敷かれた絨毯の上には様々なクスク村の名産料理──塩漬けサケや干し肉、ハーブや僅かな穀類など──が並べられ、冒険者達の手元に配られた陶製のジョッキには、濃い色をした酒が注がれる。宴の始まりだ。


 GM:「冒険者の皆様方。ようこそ、クスクの村へ」厳かな態度でそう言うと、アイゼン村長はジョッキを君たちに向けて乾杯の音頭を取ります。「乾杯!」

 全員:「「「「乾杯!」」」」

 GM:「さぁさぁ、遠慮なく好きなだけ飲み食いしなされ。ここにある物は全てあなた方の為に用意したのじゃ」

 リューラ:「ご馳走になりまーす‼︎美味しい〜〜‼︎」もぐもぐ、むしゃむしゃ、がつがつ、ぐびぐび。

 ステラ:……あ、ステラにまだお酒は早かったかな?

 GM:そんな君には、ラッセルが果物のシロップ漬けを雪で溶いた飲み物を出してくれる。ちょっと冷たいけど甘くて美味しいよ。

 ステラ:わーい!

 サー:「ふむ……もしや、砂糖を使った加工食品はここの特産品の一つなのか?確かハーヴェスでも、ステラに見事な砂糖菓子を渡していたと思ったが」

 GM:「ああ、砂糖を扱った菓子を作っているのはうちの商店だけなんですよ」とラッセルは答える。「ハーヴェスの方まで下って行かないと手に入りませんからね」

 リューラ:「なるほど〜……そのジュース、アタシも貰っていいかしら?味見するだけだから〜」酒が少し回ったのか、赤ら顔でステラに迫るよ。

 ステラ:ジョッキを持ったままサッとツバキの後ろに隠れる。「だ、ダメ……!」

 ツバキ:リューラにこう言う。「絡むな、酔っ払いめ。ここには仕事で来てるんだぞ」

 リューラ:「ちぇー……ま、いいわ。おじ様!お酒おかわり!」

 GM:「よく飲まれますねぇ。ドワーフでもそこまで勢いよく飲む人は滅多にいませんよ」とラッセルは苦笑いしつつ、大きな瓶から柄杓を使って真っ黒に近い色のドロッとした酒を汲み出してリューラのジョッキに注ぐ。

 リューラ:「うぇっへっへ、ありがとう存じますわ、お代官様〜」ジョッキを持ち直してぐびぐび。

 サー:完全にダメな大人だ……。

 ツバキ:ところで、アニウはどうしてる?あんまりこういった雰囲気の場に混ざれる精神状態とは思えないが。

 GM:そうだね、時々遠慮がちに料理を突くだけで、ずっと俯きがちで押し黙ってるね。基本的にさっきと一緒で、眠っている母親に一番近い場所から離れない。

 ツバキ:「……もっと食べてもいいんだぞ」と料理の乗った皿を彼女の前に寄せます。この子は多分、間違いなく被害者だし。

 GM:君がそうして気遣っているのに気付くと、アニウは「ありがとうございます。でも、今はあんまり食欲がなくて……」とぼそぼそ返事をします。そしてラッセルやアイゼン村長の方をじとっと睨んでる。

 ステラ:大変な事になった自分の母親を差し置いて、どんちゃん騒いでるように見えるもんな……。いや実際そうなんだけど。

 GM:アニウは気付いてないみたいだけど、ラッセルやアイゼンがやや無理して陽気に振る舞っている事を君達は見抜けていいよ。客人である君たちの前だから、無理してそうしているって感じ。

 サー:アニウちゃんの機嫌がこれ以上悪くなる前に、話を進めた方が良さそうですね。アイゼン村長の方に向き直って、咳払いをします。「おほん……素晴らしき料理の数々に地酒まで出して歓待していただき、誠に感謝の極みである。しかし、そろそろこの状況について、詳しい話をお聞かせ願えないだろうか?」

 リューラ:「ん……あぁ、そうだったわね」最後にぐいーっとジョッキの酒を飲み干して、『ドン!』と絨毯の上に置く。「ご馳走様でした。さ、聞かせてちょうだい」

 GM:マイペースだなぁ。そして君たちのその様子を見て『ここだ』とばかりに立ち上がったアニウが、口火を切る。


 アニウは烈火の如き勢いでアイゼン村長を責め立てた。自分が冒険者を迎えに行くから家で母の様子を見ていて欲しいと頼んだのに、どうして母を置いて出かけたりしたのか、と。それに対してアイゼン村長がした弁明は、先だって冒険者たちが行商人ラッセルから聞いた通り、『村の北の崖付近に獣の進入した痕跡が見つかったから』というものだった。


 GM:「冒険者様方も依頼書を読んだなら知っておられようが、この村の外には危険な獣も多くうろついているのじゃ」とアイゼンは言う。ラッセルも肯いているよ。

 ステラ:「やっぱり、危険な土地なんだね……」

 GM:「このクスク村を預かる村長として、わしには迅速に動き、多くの村人の命を守る責任があったのじゃよ。……とはいえ、すまなかったのうアニウ。まさかアプトが囲炉裏を消して寒い部屋に閉じこもるとは、わしも思っておらなんだ」アイゼンはアニウを膝の上に抱え上げ、頭をぐしゃぐしゃと下手くそに撫でますが、当のアニウは全く機嫌が直っておらず、むすっーっとしています。

 ツバキ:「それで、調査の方に収穫はあったのか」

 GM:「うむ。巨大なイノシシと思しき足跡や、樹皮を齧った跡を発見した。途中でラッセルが呼びに来て引き返したから、追跡は出来ておらんが……この後、村の食料庫などを見て回るつもりじゃ」

 サー:「なるほど。イノシシであるか……あれは崖を登る事もできるからな」

 リューラ:「ふーむ。村長、アタシ達も手伝おうか?食後の運動がてら、護衛も兼ねてさ」

 GM:「それは有難い申し出じゃが……」と髭を撫で付ける。「ただ、余り大したお礼はできんぞ。わしは村長じゃが、別に裕福という訳ではないのでな」

 リューラ:「別にいいわよ。ただ、そろそろ教えてちょうだい。私達が受けた依頼の、本当の目的ってのをね」仲間たちにも目配せ。

 GM:それを聞いてアイゼンは「ぐむ……」と言葉に詰まります。

 ステラ:やっぱり裏があるのか。

 リューラ:「実は、この村に着いた時から、気になっていたのよね」村長の瞳を真っ直ぐ見つめて続ける。「アタシらを雇う為の依頼料ってさ、この村じゃかなりの大金よね?村長さんである貴方が出したんでしょうけど、どうしてそこまでするのかって不思議で」

 サー:確かに、と腕組みをして肯いています。

 リューラ:「雪山に入ったまま行方不明、死体も見つからない……なんて、多分、こういった場所じゃよくあるんでしょ?このお金を葬儀に当てようとは思わなかったの?」

 GM:それを聴いたアニウが真っ赤な顔で何か反論しようとしたけど、その前にアイゼンがそれを手で制して口を開きます。「……確かに依頼料は大金じゃったし、この村には骸の無い死者を弔う儀式もある。リューラ殿の疑問はもっともじゃ」

 ツバキ:じゃあ俺も喋らせて貰おう。「俺も気になった事がある。どうして依頼人の名義がアニウになってるんだ?」

 GM:アニウが「それは、うちが冒険者様には自分でお願いしたいって言って、爺やに代筆してもらったから……」と答えます。

 ステラ:文字、書けないのね。アニウちゃん。

 GM:「この村で読み書きができるのは父と私と、後もう一人くらいなのです」と、ステラの顔を見たラッセルが横から補足する。

 ツバキ:「だとしても、金も村長が自ら出しているなら、村長である貴方の名前で依頼書を書いた方が信用度は高かった筈だ。何か、貴方の名前を使えない理由でもあったのか?」

 サー:あ、じゃあ私も。「……もしや、先ほど村の子供達が言っていた『裏切り者』という言葉に関連が?」

 GM:アイゼンは益々答えにくそうに「うむむむ……!」と唸り出す。ラッセルも曖昧な表情で黙っている。

 ツバキ:どうする?強気に『真実が聞けないなら俺たちは帰るぞ』とか言ってみる?アニウが可哀想だし、あんまりやりたくないけど。

 サー:そうですね。なんとか穏便に聞き出したいですが……。

 GM:では、アニウが痺れを切らした様に頭上で揺れるアイゼン村長の髭を引っ張る。「爺や、もう良いよ!おっとうがあんな事する訳ないし、冒険者様方に隠し事はしない方が良いってば‼︎」

 ステラ:「……『あんな事』?」首をことんと傾げる。

 GM:君たち全員とアニウの視線を浴びて、彼はついに観念した様に両手を上げた。「分かった分かった、降参じゃ!……全てお話ししようではないか。じゃが、その前に我が娘アプトを寝室まで運んでも良いかの?もう十分に温まったじゃろうて」

 サー:「む……お手伝いするのである」立ち上がります。


 サーとアイゼン村長、行商人ラッセルが三人がかりでアニウの母アプトを屋敷の中の別の部屋(家族の寝室になっており、囲炉裏の部屋から暖気を取り入れる事ができる)に運んでいる間、ツバキはアニウに「俺達は皆、お前の味方だ」と励まし、ステラもアニウが雪玉をぶつけられた時の痣を【ヒーリング・バレット】の魔法で癒す。アニウが二人によって機嫌を直し、微かな笑顔を見せた一方、リューラは残り物の料理をちびちびと突いていた。


 サー:「戻ったのである。きちんと暖かな寝床に寝かせてきたので、大丈夫であろう」二人と一緒に戻ってきます。

 GM:「ゴットリープ殿は体も大きく力持ちですね。助かりました」とラッセルは君に頭を下げる。アイゼン村長も「うむ」と肯くよ。「さて、待たせてすまんの。これからする話は、万が一にもアプトに聞かせたくなかったのでな」

 リューラ:「それって、どういう……?」どういう意味だろう。

 GM:ラッセルはアニウを再び膝の上に座らせ、ぽんぽんと優しく頭を撫でながら続ける。「うむ……改めて紹介するが、この子の母親は、先ほど皆さんが介抱してくれたわしの娘じゃ。名をアプトと言う。村では一番の機織り職人でな、わしやアニウの服も、娘が織った布を使っているんじゃよ」

 ステラ:「……道理で、他の子供に比べて綺麗な布だと思った」

 GM:「ところがじゃ。あの男、カニクが行方不明になってからというもの、娘は日に日に弱り果ててしまってな……飯も満足に食わぬし、機織りも手につかなくなった。しまいには、夫の失踪に関する話を聞くと酷く取り乱すようになってしまったのじゃ。ひどい時には、自分で自分を傷付ける事もあっての」

 ステラ:「……そっか。それであんな事を……」相当精神が参っちゃってるのかな。

 GM:アイゼン村長は「……さて、これからは少し長い話になるやもしれんが、一服してもよいかのう」と、懐から葉巻を取り出す。

 サー:「お構いなく、である。ステラも大丈夫であるな?」と確認します。

 ステラ:「うん。〈マギテック協会〉で煙たさには慣れてる」

 ※マギテック協会:魔動機師マギテックたちの互助組織。ある程度大きな街には大体一つは支部が存在する。

 GM:「ありがとう。では」とアイゼン村長は囲炉裏の炭から葉巻に火を点ける。そして、口に咥え、ゆっくりと吸った。その煙を長い髭の間から静かに吐き出しながら、彼は語り出すよ。「すべては遥か昔、この村の起源となる言い伝えまで遡るのじゃが…………」


 冒険者たちの前で、クスク村の神話が紐解かれる。


 ────────────────────

[雑談]


 ステラ:そっか。アニウちゃん、読み書きできないんだ……。

 GM:ああ、閉鎖的な僻地の村だからね。読み書きできる人の方が少ないくらいが設定的にもちょうど良いかなって。

 リューラ:そういえば読み書きの話をした時、『もう一人』読み書きができる人がいるってラッセルが言ってなかったっけ?

 ツバキ:それ気になってた。

 GM:確かに言った。その人は多分、もう少し後で出てくるよ。シナリオ内時間で翌日か、翌々日くらいになるかな……。


 ちなみに、砂糖菓子や糖水の作り方をラッセルに教えたのは失踪したカニクです。

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