1-1. 遺体探しの依頼
物語の舞台は、冬のハーヴェス王国だ。
大陸最南端に近い場所に位置する比較的温暖なこの国も、その日は珍しく降雪に見舞われていた。子供たちが雪玉を手に笑いながら駆け回る大通りの様子を窓越しに眺めながら、四人の冒険者が暖炉の近くに設置された丸いテーブルを囲んで座り、談笑している。彼らは今日も、ギルド支部のクエストボードに貼り出された依頼から、自分たちに相応しい内容の物を探しに来ているのだ。
魔動機師の少女、ステラ。
放蕩の甲冑騎士、サー。
大薙刀の女戦士、リューラ。
異郷剣士の青年、ツバキ。
この四人が、物語の主人公である。
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彼らの耳が、ギィ、と冒険者ギルド支部のドアが開く音を聞き付けた。
外から冷たい風がピュウと吹き込み、彼らにとっては初めての降雪にはしゃいで通りを走り回る子供達の笑い声が一瞬聞こえたあと、バタン!と再び扉が閉まる音がギルド支部の中に響いた。ギルドの受付の方に、随分と分厚い防寒具を身にまとったドワーフの男性が一人、肩の雪を落としてからのそのそと歩いていく。
男性は懐から筒状に丸めて帯で留めた羊皮紙を取り出すと、それを受付のカウンターにいたギルド職員に渡し、何事か話していたが、やがて四人の一番近くにある暖炉の側までやってくるとふかふかの毛皮のグローブを外し、赤くなった手をストーブに当てて息を吐いた。
GM:えーと、今ストーブの一番近くにいるのはステラさんかな?寒そうにしていたし。
ステラ:そうだね!
GM:では、ステラさんに話しかけてきます。そのドワーフが。
GM:「いやはや、冷えますな」
ステラ:「!」びっくりして硬直する。人見知りだから。
「え、あ……えっと」と、視線を左右に彷徨わせてしどろもどろ。
GM:「この街でこれほど冷えるのも珍しい……おや。驚かせてしまいましたか?」
ステラ:「そ、そう……ですね?」
GM:ふむ……とステラを見つめていたドワーフはごそごそと懐をまさぐって、
「お嬢さん、これをあげましょう」
と、キラキラした宝石のような物を取り出します。
ステラ:「え、あ」あたふたしてる。
GM:「何、怪しいものではありません。砂糖菓子ですよ」
ゆったりした髭をたくわえたドワーフは、透明で透き通った氷のような飴玉を差し出します。
ステラ:「し、知らない人から物を貰うのは……」人見知りなのでこういう所で躊躇しちゃう。
ツバキ:なら助け舟を出そうか。「ステラ。大丈夫だ、頂いておけ」
サー:そうね。「うむ。遠慮なく貰っておくと良いだろう」
ステラ:「え、あ、うん……じゃあ、頂きます」恐る恐る手を出そう。
GM:ではドワーフは「怖がらせてしまったなら、すみません」とステラに謝りつつ、小さな砂糖菓子を渡します。雪の結晶を模して作られた真っ白なお菓子です。
ステラ:「ううん……えっと、こちらこそ、ごめんなさい」
ぺこりと頭を下げて、飴玉を受け取る。
そのままドワーフの男性と自己紹介しつつ、暖炉前で歓談する四人。どうやら彼はラッセルという名前で、ハーヴェスの北東にあるディガッド山脈の麓にあるという『クスク村』から遥々やってきた行商人であると言います。
リューラ:むむ?ディガッド山脈って、確か結構危ない場所じゃなかった?
GM:ルールブックによれば、【あちこちに土地が浮遊した後の窪みがあり、そこに巨獣や蛮族が住み着いて山脈全体が危険な土地になっている】とあるね。
ツバキ:「よくそんな危険な場所に村を拓けたな。強力な〈守りの剣〉でもあるのか?」
※〈守りの剣〉……穢れを持つ存在を遠ざける力を持った魔剣の総称。
GM:「いえ、〈守りの剣〉は私どもの村にはありません。ただ、代わりにもっと強力な存在が守ってくださっているんですよ」
ステラ:「もっと、強力な存在……?」
GM:「『雪神様』です」ラッセルは、何かに祈るように手を合わせて頷く。
リューラ:GM、これについて私達が知ってる可能性はある?
GM:現時点では難しいね。ちょっと聞き覚えがない。
サー:「ほう、『雪神様』……して、『雪神様』とは何なのだ?」
GM:「我らを守ってくださる神様ですよ」これくらいしか答えてくれない。
サー:聞き出せないかー。後に回そう。
それからラッセルは、四人と他愛のない世間話を始めた。やれ、今日は本当に冷えますね、とか、どの建物にも雪がたくさん屋根に積もっていて、しかし構造が脆そうなので崩れてしまったら危険ですね、とか。しばらくそんな話をしていると、やがて羊皮紙を持ったギルド職員がカウンターから出てくるのが見える。
GM:「やぁ、ようやく手続きが終わったようだ」と、ラッセルはそれを見てほっと胸を撫で下ろす。
ステラ:「……依頼?」
GM:「ええ。これであの子の気も、少しは晴れるといいのですが」
GM:ギルド職員は、そのまま君たちの近くのクエストボードにその羊皮紙──すなわち、新しい依頼書を貼り出す。それを見届けたラッセルは、作業を行った職員に向けて深々と一礼する。とても礼儀正しい人物のようだ。
サー:依頼書を見てみます。
ステラ:高さが届かないので、下の方から首をめっちゃ上に向けて見てる。
サー:見やすいように持ち上げてあげようか。「ステラ、これでどうか?」
ステラ:「ん。ありがとう」空中で足をぷらぷらさせてる。首の後ろを摘まれた子猫みたいに。
他全員:かわいい。
サー:「ステラは可愛いであるな‼︎」(大声)
全員:(爆笑)
ステラ:「ちょ、声、大きい……」赤面してる。
ツバキ:サーは思った事ズバズバ言うよな、しかも大声で。
リューラ:初対面の時に私の本名を叫んだ時は、流石に肝が冷えたわ。
サー:リューラとは貴族時代に何度か顔を合わせているからね。もしや、貴女はリューラ=フォン=ソリドール嬢ではないか⁉︎(大声)
リューラ:やめんか!(笑)
GM:さて、依頼書には次のように書かれている。
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『父の遺体を探してください』依頼人:クスク村のアニウ
猟師の父が山に入って帰ってこなくなってから、半月が経ちました。村からハーヴェスまでは遠いので、この依頼書が貼り出される頃には、きっと一ヶ月程になっていると思います。
父の生存については、もう諦めています。ただ、母も私も、せめて父の死に顔だけでも見て、きちんと弔ってやりたいのです。
これ以上雪が深くなれば、きっと永遠に見つけられなくなるでしょう。その前に、腕の立つ冒険者の方々にご依頼したく思います。
目的:雪山で遭難したアニウの父カニクの遺体の捜索、及び回収。
報酬:一人4000ガメル。
場所:ブルライト地方北方、ディガッド山脈南端に位置する山間の村、クスク。
現地までは、アニウの伯父ラッセルの行商馬車に乗っていく、あるいはそれを道案内として騎獣などで追従して移動されたし。道中の食料や水などは、ラッセルが全て無償で提供する。
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ツバキ:「……遺体回収か……」
サー:「それも、父親のものを……」わなわな。
ステラ:「……」無言で俯く。
リューラ:「珍しい……依頼?になるのかしら?」
ツバキ:「どうだろうな、専門としている奴らもいるらしいから」
GM:リューラとツバキは冷静だね。
しばし沈黙し、依頼内容に目を通す一同。特に両親と死別しているステラは、痛ましげな表情を浮かべて文字を追っていた。しばらくして、サーが口を開いた。
サー:「ふむ、この依頼……構わぬか?」皆に確認を取ります。
ステラ:「私は……受けてあげたいと、思う」
リューラ:「ここには茶飲みに来たわけじゃないわ。依頼があるなら受けましょう」
ツバキ:「俺も構わない」
サー:では皆の返事に頷いて、ラッセルの方へ向き直ります。「……うむ、ラッセル殿。この依頼、私たちが受けてもかまわぬか?」
GM:それを聞いて、ラッセルは顔をほころばせる。
GM:「おお、本当ですか!この時期の雪山には、我々では歯が立たぬ凶暴な動物も多く……私とあの子だけでは、とても捜索は無理だと諦めておったのです。もう数日、あるいは数週間はこの街に滞在し、依頼を受けてくれる冒険者の方をお待ちするつもりでしたが……お優しい方々に出会えた幸運を『雪神様』に感謝いたしましょう」
GM:ラッセルは再び何かに祈る仕草をしてから、君たちにも何度も頭を下げてくる。
サー:「なーに、あなたには大きな恩があるのでな!」
GM:「はて、恩……ですか?」なんだろうって顔。
サー:「うむ、さっき砂糖菓子を頂いただろう?」兜の下でにっこり微笑む。
ステラ:「あ!……き、期待にこたえられるように、頑張る。頑張ります」
GM:「な、なんと……」そんな君たちを見てちょっと涙ぐんでる。「砂糖菓子はまだまだありますから、皆様も道中遠慮せずお食べください!」
ステラ:一つで十分です!
冒険者ギルドを介して正式に依頼を受注した四人の冒険者は、まずギルドのサービスである報酬の前借り制度を利用し、防寒具や《サーマルマント》、くさびやフックに予備のロープといった雪山で必要そうなアイテムを購入した。
そしてラッセルの馬車に乗り、あるいは自らの騎獣に乗って、ハーヴェス王国を後にしたのだった。
城壁を出た頃にステラが北東の空を見ると、遠くに見えるディガッド山脈は、どこか不吉な雰囲気を漂わせる白い雲に覆われていた。
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[雑談]
GM:でも、いくら微笑んでも君のその笑顔は見えないんだよな、常に被ってるバケツ兜のせいで。
サー:うむ!顔を隠さねば貴族だとバレてしまうのでな、仕方あるまい。
ツバキ:ところで覆面の騎士様、貴方の名前をお伺いしても?
サー:我が名はゴットリープ!フォン!ヴェリィィス‼︎(大声)
リューラ:何もかもダメじゃん……。
ステラ:しかし食事とかどうやってんだろ。隙間から流し込んでる?
GM:それは流石に汚いので、兜の口周りだけガコッと上にスライドできる構造になってるとか、そういう感じでお願い……。
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