SW2.5リプレイ『白に惑う』

神砂わらび

0. 四人の冒険者たち

 ※以下は、PC4名のキャラクター紹介も織り込んだプロローグのようなものです。

本リプレイはキャンペーンセッションの一部として実施された為、各キャラクターの説明を兼ねて小説仕立てに書き起こしました。

リプレイ本編は次話から始まります。


なお本作は、「グループSNE」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『ソード・ワールド2.0/2.5』の、二次創作です。

(C)GroupSNE

(C)KADOKAWA

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 その日、大陸南部のハーヴェス王国には珍しく雪が降っていた。


「これが、雪……」


 はらりはらりと空からとめどなく降って来る、小指の先ほどの小さな白い粒たち。冒険者ギルド支部の建物の中、窓際の椅子から身を乗り出すようにして、熱心にそれを眺めている銀髪の少女がいた。


 少女の名はステラ=ポラリス。

 幼いながら魔動機術マギテックに精通した、優秀な狙撃手である。


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 幼い日に海難事故に遭い両親と死別したステラは、星空が綺麗な無人島で一体の魔動機によって育てられた。両親に捨てられたと思い込み、寿命が近い魔動機と共にずっと相応しい死に場所を求めていたステラだったが、ある日島に漂着した一組の冒険者パーティーと出会った事で、少しずつ変化を始めた。やがて、自身が両親の限りない愛で守られていた事実を知り、育ての親である魔動機を看取ったことで、遂にステラは冒険者たちと共に島を出て、彼らと共に生きていく決意をしたのだ。


 それから丸一年が経過し、未だ彼女の目に映る景色はそのほぼ全てが新しい。未だにどこか達観した雰囲気の少女だが、気を許した仲間の前では年相応な振る舞いを見せる事もある。幼い少女が不釣り合いなほど巨大な銃と魔動機を操って戦う様は一部の層の人々に大受けし、マギテック協会に彼女のファンクラブができるほどだ。

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 窓越しに空を見上げていたステラは、いつしか自分の鼻の感覚がすっかりなくなっているに気付いた。少女は慌ててその小さく丸い顔をペリペリという湿った音と共に窓ガラスから離すと、真っ赤に霜焼けを起こした鼻と頬を両手で押さえ、しかめ面をしながら暖炉の前へと歩いていく。


「……寒い……」


 暖炉の前に置かれた丸テーブルには数人の男女が座って談笑していたが、少女の接近に気付くとすぐに場所を空け、ゆらめく暖かな火に一番近い場所に彼女が居られるようにした。


「フハハハ‼︎鼻柱が真っ赤であるな、ステラ!さぞかし長い間窓にへばり付いていたと見える」


 真っ先に立ち上がってステラに席を譲り、怒鳴るような大声で笑いながら彼女の頭を優しく撫でたのは、屋内にも限らずバケツに似たフルフェイスの鉄兜を被り、見事な意匠の甲冑を身に纏った大男だ。


 彼の名前はゴットリープ=フォン=ヴェリース。天馬を駆る騎手ライダーであり、鉄壁の守りを誇る騎士でもある。


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 ハーヴェス王国に連なる有力貴族ヴェリース家の長男として生まれた彼は、早々に自身の政治的才能の無さを見限った。そしてより優秀な次男へ家督を継がせるべく、自ら冒険者に身分を落として領地を出たのである。その道すがら彼はルーンフォークを一人従者に迎え入れ、大抵の場合はいつも行動を共にしている。(ただ今回は従者と別行動中であり、登場することはない。)


 豪放にして磊落、誇り高く裏表のない善人であるゴットリープは、従者や仲間たちと共に大陸各地を巡り、冒険者として人助けを行っている。そして彼に救われた者たちは皆、彼の事を親しみと尊敬を込めて『サー』と呼ぶ。本当は彼が大貴族の御曹司であることはなるべく知られてはならないのだが、隠し事のできない性格の彼は毎回大声で本名を名乗ってしまう為、もはや公然の秘密となってしまっている。

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「だって、雪は初めて見たから……」

「うむ、よいのだ!さぁ、体が冷えたなら、この《ふかふかの防寒着》を着るがいい。我が従者が、ステラのためにと持たせてくれたのだ」

「あ、ありがとう……サー」


 サーが足元の大きな背負い袋から取り出した小さめのサイズの防寒着を受け取ったステラは、いそいそとそれに袖を通した。防寒着は彼の鎧と同じくらい上等なものであり、暖炉の熱を吸ってすぐに暖かくなった。その心地よさに、ステラは思わず


「ほぅ……」


 と声を漏らした。


 そんな彼女の前に、今度は向かいの席からことんと湯気の立つ紅茶の入ったカップが置かれる。カップを置いたのは、ルビー色の見事な髪を背に流し、鍛え抜かれた肉体を持つ女戦士だ。傷だらけで使い込まれた板金鎧プレートアーマーと近くの壁に立てかけられた大薙刀グレイブが、彼女が歴戦の勇者であることを物語っている。


「ほら、紅茶。私のよりジャムを多めに入れたから、お子様のあんたでも飲めるくらい甘いわよ」


 ニヤニヤと露骨に子供扱いしてからかってくる女性に、ステラはむっとして言い返した。


「……別に、そのままでも飲める」

「無理しなくていいんだってば〜」

「むー……リューラはそうやって、いつも私を子供扱いする」

「良いじゃない。実際、まだ成人もしてないんだし、ステラは子供よ」


 ぷくっと頬を膨らませるステラに肩をすくめて見せた女戦士の名前は、リューラ・ソル。大薙刀を豪快に振り回す戦士ファイターである。


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 女戦士のリューラは、本名をリューラ=フォン=ソリドールと言う。彼女もまた、サーとは異なるハーヴェスの貴族に連なる身であり、れっきとしたお嬢様だ。しかし彼女は少々己を鍛え過ぎてしまった為、平時は辺境軍の旗頭として前線で愛刀を振るっている。彼女は『美食に目がない』という悪癖を持っており、絶品料理の噂を聞きつける度に堂々と軍務を兄弟に擦り付け、偽名で登録した冒険者の身分を使って出奔してしまうのだ。ある時そういった突発的な旅の最中にサーやステラたちと知り合い、興味を惹かれて今は共にパーティーを組んでいるという訳だ。


 リューラの鍛え抜かれた肉体から繰り出される大薙刀グレイブは、一振りで魔物の軍勢を吹き飛ばす事ができる。己の力量に絶大な自信を持っている彼女は常に余裕の表情を崩さないが、正体がバレてしまうと兄弟たちからの追手が掛かり辺境軍へ連れ戻されてしまう為、それだけは戦々恐々としつつ冒険者稼業を続けている。

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 ステラはむくれた表情のまま紅茶に息を吹きかけ、少し冷ましてから口を付けた。すると、ジャムの甘さと紅茶の微かな酸味や苦味が口いっぱいに広がる。……悔しいけど、ジャムを入れた方が美味しい。それでも、いい加減この女戦士に何か言い返してやりたかったステラは、仲間の援護を頼る事にした。


「私は子供じゃない……十分戦えるし、【冒険者ランク】だって皆と同じフランベルジュ級になった。もう立派な大人……サーもそう思うよね?」

「うむ。その点において、ステラはもう一人前の冒険者だと言えるのであるな。後方からの狙撃による援護、毎度頼もしい限りである‼︎」

「……やっぱり」


 尊敬するサーの認定を受けて鼻高々になったステラは、そのまま顔を反対側に向ける。


「……ツバキ。ツバキも、私が大人だって思うよね?」


 ステラに突然話を振られ、皆の視線が集中している事に気付いたのか、彼女の隣の椅子に腰掛け真剣な顔で革表紙の本(内容は冒険活劇だ)を読んでいた黒髪の青年が、本から目を上げた。


「ん?」


 青年はしばし何事かと眉を潜めて仲間たちを見ていたが、やがてステラの着ている防寒着に気付くと得心がいった様に頷いた。


「ああ。似合っていると思うぞ、その防寒着。年相応で可憐な銀の花のように趣がある」

「っ!……ちーがーう!そうじゃなくて‼︎」


 頓珍漢な答えを聞かされたステラが(やや赤面しつつも)益々眉を吊り上げると、青年はゆっくりと瞬きして、それから真剣な顔で彼女に頭を下げた。


「……いや、すまない。話を聞いていなかった」


 彼の名前はツバキ・ディフォレスト。剣士だ。


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 ツバキはこの大陸の出身ではない。遠く海を越えた南にあるテラスティア大陸と呼ばれる場所から来た、渡航者なのだ。彼の風変わりな装束や腰に帯びた不可思議な片刃曲剣カタナ(データは専用フランベルジュ)もまた、テラスティア大陸から持ち込んだ物品である。ツバキがまだ見ぬ世界を求めてテラスティア大陸から乗ってきた船は目的地を前に座礁してしまったが、偶然にもサーたちと同じ島に漂着したことで、彼らやステラと出会うことになった。それからは彼らと共に旅を続けている。


 冒険譚を読むのが趣味なツバキ青年。彼は、実は正体を隠したナイトメアだ。しかし彼は自らの正体や来歴を必要以上に明かすことはせず、仲間たちも未だに彼の種族は人間だと思っている。孤児として、そしてナイトメアとして強く迫害されてきた過去が、彼の口を重くさせている。

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「あっはっは!読書中のツバキに話を振っても無駄よステラ、だって何も耳に入っていないんだから」

「全くその通りであるな‼︎しかし、確かにステラにはその防寒着がとても似合っているのである!我が従者の見立ては完璧であった!」

「本当にすまない。丁度展開が佳境に入った所だったんだ」

「……むぅぅー‼︎」


 手を叩いて笑う二人と再び本に目を落とすツバキを前に、ステラの膨れ面はますます大きくなるのだった。


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[雑談]


 GM:なんでアタッカーアタッカーアタッカー盾なんだよ⁉︎

   サポーターとかヒーラーはどうした‼︎

 リューラ:火力支援。(大真面目)

 ステラ:そう、つまり火力を出すことで支援している。

 GM:大丈夫かなぁ。結構ボス強いんだけど。

 サー:地味に全員ライダーもそれなりのレベルで持っているから、戦力は十分だぞ?

 ステラ:グレートカルキノスに、ティルグリスに……。

 GM:筋金入りの脳筋だったわ!これなら大丈夫か……?


 実際にこのPCたちの脳筋っぷりは尋常ではなく、GMはそれをこの後の戦闘で改めて思い知らされることになります。

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