負けたくない人

 体育祭アンチの私にとっては自分が出ない競技はとても長く感じる。退屈。適当にクラスの応援に合わせて声を出す程度で、競技そのものより競技の終わりに得点板を確認することの方が楽しいかった。

 とはいえ、莉緒をはじめとする体育祭アンチ組と勝ったねとか負けたねとか言っていたらだいぶ時間が経ち既に午前の部は後半に入っていた。私が参加する競技は午後に集中しているので午前は動くことがなかったのをいいことに、体育祭とは思えないほどに怠惰な時間を過ごしていたなんて....さすが私!

 自画自賛を心の中で存分にしたところで私はプログラムを確認する。プログラムによれば次は一年の全員参加の団体競技らしい。その次は....午前の最後の種目、部活動対抗リレーだ。部活に入ってない私には当事者としては関係ないのだが、観客として観ていて楽しい競技である。得点にも関係しないし、いわばレクリエーションだ。

「莉緒の部活はなんかやるの?部活対抗。」

隣で私と同じく退屈そうにしていた莉緒は科学部に入っている。とはいっても真面目な部員ではないし、真面目な部活でもないので活動日にふらっと遊びにいったり行かなかったりしている程度なのだが。

「文化部部門でちゃんと出るよー。部長がなんか気合い入ってたから、実験でもするんじゃないかな?」

先ほどよりは明るくそう話した。少しクレイジーなことで知られる科学部が実験なんて...校庭吹き飛ばなきゃいいね。

 うちの学校は運動部部門と文化部部門で別れて走る。運動部部門はガチリレーで走り名誉をかけた戦いが繰り広げられ、そこそこ白熱するのだ。陸上部が一位になりそうなものだが、そうでもないのだ。むしろ陸上部は去年3位だったような気が....。うむ、頑張れ陸上部。応援してるぞ。

「早く閉会式にならないかなー。全員リレーも団体競技もやだよー。」

莉緒が心底嫌そうに言った。わかる、わかるぞその気持ち。

「体育祭ってどうして全員参加なんだろう。代表リレーみたいに代表の人だけ出ればよくない?」

「それなー。あ、代表リレーといえば雛ちゃん出るんでしょ?あの子めっちゃ足速いじゃん!勝てるかなー。」

うちのクラスも精鋭揃いとはいえ、彼女のチームは雛を筆頭に名だたるメンバーが揃っている強敵だ。正面から戦えばどちらが勝つかは正直わからない。ただ、これは体育祭なのだ。勝てる確率は十分にあることを私は知っている。

「勝負は午後の団体競技にかかってるんだよ。それによっては代表リレーで負けても勝てるし、勝てても負ける。」

莉緒は一瞬わからなかったらしいが、すぐに理解したようだ。なかなか頭の回転が早い人である。

「なるほど。配点が少なくて数もまばらな個人競技ではまとまった得点が入りにくいけど、団体競技は一位と最下位の配点のさも大きいからそこで大差がつけられてたら相手が一位になっても失格にならなければ勝てる可能性は十分にあるってことか!」

そういうこと、と頷く。この体育祭は団体競技を制したものが勝つのだ。そして莉緒と話している間に始まった一年の団体競技の決着がもうすぐ着く頃だった。さて、この競技での配点がのちに響いてくる。我が陣、黄色組の結果は....5チーム中2位という好成績だった。

「なかなかいいんじゃない?」

莉緒が2位に喜ぶ。しかし、負けないという点で必要なのは相手の位置である。雛のチーム、赤組は3位。まだ予断は許さない順位だが、上々であろう。

 体育祭で活躍するのは、運動に秀でた人であることは私も納得している。だが、体育祭で勝つためには自分が運動ができる人間である必要はない。必要なのは運だ。クラスに運動が得意な人が集中し、かつそれなりの団結力と戦略を練り、他学年にも恵まれる運こそがこの学校の体育祭で勝つために必須の条件である。

「一対一じゃ絶対負けるけど、そうじゃないのが体育祭だもんね。いやー、ルールに恵まれたよ。雛のチームに負けなきゃいいんだから。勝てる気がしてきたわー。」

「敗北宣言するんだっけ?でも雛ちゃん、相手が悪かったかなー。怜ちゃん相手じゃ難しいって。負けてても屁理屈で言い負かして勝ちにしちゃような人だからなー。」

「今回のは屁理屈じゃない!正々堂々、チームに恵まれたという運で勝とうとしてるんだよ!」

「もっとだめじゃん.....」

莉緒には呆れられたが、敗北宣言をするよりかはずっとマシだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る