写真を撮りたい人
本日の晴天は私に味方したのかそうでないのか。いつもより憂鬱な目覚めをかました体育祭当日の朝である。行事というのは厄介で集合時刻も普段の登校時間とは異なり憂鬱な目覚めを引きずってしまう。学校へ着けばこの晴天の中、走って跳んで応援しなきゃならないのか...お腹痛くなってきた。やっぱり今日行くのやめようかな?
ぶつくさと文句を垂れながらも家を出て電車に乗って、学校に着いてしまうのだから私は偉い。読者諸君は学校に着いたくらいで自惚れるなと思っただろうが、誰も褒めてくれないのだから自分で褒めるのだ。たかが登校でも私にとっては強大な敵なのである、何が悪い!...さて、少し早く着いてしまった校舎にはちらほらと人が集まっている程度はいたが、会場である体育祭仕様となった校庭にはほとんど人の姿は見えない。いつもの校庭と似ているようでその性質は違うというのはなかなかに面白い景色である。もう少ししたらこの校庭から今の静けさが嘘のように人々の熱気で包まれる。負けられない戦いでもない勝負が始まるのだ。
時間はあっという間に流れ、あれほどのんびりしていた朝が幻だったように、集合時間になり、開会式も問題なく終わっていた。生徒は観覧席に戻り、第一種目の参加生徒たちが急いで動き始めている。というよりは、係の生徒に動かされていた。係といえば、雛の姿を見ていない。クラスも違うから当然といえばそうなのではあるが、どこにいるのだろうか。雛のクラス席を見てみたが、姿は見当たらなかった。
「怜ちゃん誰か探してんの?」
同じクラスで話の合う友達、前田莉緒が話しかける。私にもちゃんと友達がいるのだ。しかも彼女は私と同じく体育祭アンチ組であり、本日の心強い味方である。
「いや、大したことじゃないし大した人でもないからいいや。」
「ちょっと!大したことあるから!今日の主役だから!」
いつの間にか自陣に(雛から見れば敵陣だが)、私の後ろにいた。今日の装いは団共通のTシャツはもちろん、髪もしっかりポニーテールでまとめているが編み込みが見えるあたり、機能性よりおしゃれを意識したポニーテールである。さては普段はできない格好を行事だから気合い入れてしてると見せかけてるな。
「いたんだ。敵陣になんのようだね、袋叩きにされにきたの?」
「違うってば。写真撮りにきたのー。汗かいてない状態で撮りたいから競技始まる前にきてあげたのー!」
私写真そんなに好きじゃないんだけどな。嫌悪を示す私を気にせずに雛が携帯で自撮りの体勢に入る。
「ほらほら、写ってよー。せっかくなんだからー。」
「ちょ、寄らないでよ。私という被写体がそう簡単には写らな...あ、やべ」
「私の勝ちー。」
不覚にも写ってしまったじゃないか。初戦・写真見切れ対決は私の負けというわけか。
「後で送るね。んじゃ、また後で!負けないからねー!敗北宣言させるからねー!」
そういって雛は自陣へ戻っていった。嵐のように去っていきやがったな。まあ、係で忙しいにも関わらずわざわざ写真を撮りにきたのだ、写真の一枚くらい大目にみてやろうじゃないか。しかし、ここからは正真正銘の敵同士である。本気で潰しにいくのが筋というものだろう。
雛が観覧席に戻ってほどなくすると、第一競技に参加する選手たちが入場を始めた。体育祭の開幕である。
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