第13話 成長
豪と少女は、乖離と対峙していた。
乖離は此方を睨みつけ、今にも襲いかかってこようとしている。
「なあ。あれはどう倒したら良いの?」
「人間や魔人と変わらないわ。攻撃して、殺す。」
(良かった。シンプルだ。特別な道具がいる訳じゃ無いんだな。)
そう考えていると、乖離が突進してくる。
「守ろうと考えないで!私とやってたようにちゃんと避けてね!」
「分かってる!」
二人は同時に後ろに飛び退く。すると、鷹の乖離は、豪達が立っていた地面に頭から突っ込み、頭が少し埋まってしまう。
「あんたは待ってて!私がやるわ!」
「え?わ、分かった。」
(女の子に化け物討伐任せるとか、情けないと思わないのかよ、俺。)
「『魔の強化 腕力強化【大】』」
少女は鷹の乖離に突っ込みながら魔の強化を使い、強化した拳で攻撃をする。
「『攻武 衝撃波』」
そして、攻撃を食らわせると同時に攻武を発動させると、その攻武の効果で鷹の乖離を10数m程吹き飛ばした。
(わー・・・エイオンのプレイヤーと同じような戦法じゃん・・・やっぱり戦い方も伝わってるんだな。)
少女の使った攻撃方法は、エイオンでの人間等の種族がよく使っていた攻撃方法だった。自分を狙ったプレイヤーが散々使ってきた戦法だったため、予備動作の時点でどんな動きをするかが豪には分かっていた。
(敵を吹き飛ばす方法が少なかったから重宝されてたんだよなぁ・・・)
そんな事を考えている間にも、少女は鷹の乖離に攻撃をくわえていく。
「『魔の強化 脚力強化【中】』」
強化した脚力で、鷹の乖離に凄まじい速度で突っ込み、そのままの勢いで鷹の乖離を下から蹴り上げる。蹴り上げた瞬間、鷹の乖離の体が蹴られた個所を中心に折れ曲がる。
(えげつない上に容赦ねぇな…本気出したらあんなに強いのか。)
「『攻武 衝撃波』」
蹴り上げると同時に衝撃波を発動させ、鷹の乖離を上へ吹き飛ばす。蹴り上げられた地点から数百メートル吹き飛んだ乖離は、既に死んでいる様に見えた。
「『補助の魔 瞬間移動』」
すると少女は、即座に瞬間移動を使い鷹の乖離の吹き飛んだ先に移動する。
そして、強化したままの足を頭よりも上に上げ、鷹の乖離に踵落としを食らわせる。
「『攻武 衝撃波』」
すると、鷹の乖離は地面に叩きつけられ、地面にはクレーターが出来上がった。
(どっかの武闘漫画かな?)
そんな感想を抱いてしまう程のスピード感と迫力だった。
クレーターの中心の鷹の乖離は目に見えてぐったりしていた。
銀の体もボロボロで、少女のヤバさが改めて理解出来た気がした。
「大丈夫だった?ああ、聞くまでも無さそうだけど。」
「こんな雑魚、今まで何体も倒してるわ。どうって事無いわよ。」
「だよね。で、これどうするの?」
"これ"とは鷹の乖離の事だ。埋めるのかと考えていると、鷹の乖離に少女が何度か衝撃波を食らわせていた。すると、鷹の乖離が液状に溶けだした。
(えっ!?何これ!?)
「乖離や人間みたいな、魂魄術式を持っている生物は、死ぬと液状化するのよ。だから処理する必要は無いわ。」
「へぇ、便利だね。」
豪が不思議に思っていると、少女が豪に話しかける。
「さ、修行の続き、するわよ。」
「ああ、休まないんだね・・・はいはい。」
それから豪は何日もの間、少女と模擬戦を続けていた。鷹の乖離を倒した日から一週間経った日には、豪は少女の攻撃を安定して全て躱せるようになっていた。
時折休憩しつつ、少女と話していくうち、豪は少女に対して、慶介に向けるような親近感を覚えるようになっていった。
そして、豪が修行を初めてから、早くも半年が経とうとしていた。
「『轟雷』!」
「そこで撃つか!『魔の強化 腕力強化【小】』!」
「ほらほらー、まだまだ行くよー!『烈火』!『烈火』!『烈火』!」
豪が少女の動きに慣れ、マーナガルムに頼んで技も使えるようにしてもらってからは、二人は半分遊ぶ様に戦っていた。
「攻魔撃ちすぎて体がら空きだぞ!『魔の強化 腕力強化【中】』」
「わざとだよ〜。『補助の武 回避』」
(あっ、やべっ。)
「『魔の強化 握力強化【大】』」
攻撃をして体ががら空きになった豪の頭を、少女は強化した握力で掴み、地面に叩きつけた。
少女は嬉しそうに、勝利の声をあげる。
「やった!これで私の勝ち越し!」
「クソっ!詰めが甘かった!」
「いつも言ってんでしょ?引く事も覚えなきゃ足元救われるって。せっかく互角だったのに、これでまた私の勝ち越しだよ!」
ある日、普通に模擬戦をやっていても飽きると考えた二人は、豪の修行が終了するまでに、どちらが多く勝てるかを競っていた。
最初は、能力値の差の事もあり全然勝てなかった豪だが、慣れて行くうちにどんどん勝てるようになっていった。
豪は、昔の事を思い出しながら、久々に楽しんで勝負をしていた。
(こいつと一緒なら、慶介探しも楽しくなりそうだな。)
「なにボーッとしてるの?次やらないの?私の勝ちで良い?」
少女が豪の顔を覗きこんでそう話しかける。
「何言ってんだ!次は勝つ!」
「へぇ?詰め甘い癖にぃ?」
「う、うるさいやい!」
二人で模擬戦をしていると、マーナガルムが現れる。二人はそれに気付き、戦いを辞め、マーナガルムに近寄っていく。
「もう、あと少しでこいつが罠にハマるところだったのに。なんか用があるんでしょ?」
「えっ?罠なんて何処に?えっ?」
マーナガルムが二人の前に現れるのは極偶なので、現れるという事は自分達に用があるんだと二人は察していた。
「王よ、修行は順調か?」
「いつもそれ聞くね。まあ、この子と互角程度には戦えるようになったよ。」
マーナガルムは現れる度に同じ事を聞いてくるので、豪は少しウザったくなっていた。
「詰め甘いけどね。」
「うっせ。」
「仲良くなったな貴様ら・・・ま、良い。そろそろ半年が経つからな。修行ももう少しで終わりだ。」
(一日の時間が桁違いだから実際は二年近く経ってるんだよなぁ・・・)
「で、だ。試験と言う奴をやろう。」
(試験?)
「こっから出るために、みたいな?」
「そうだな。この半年でどれだけ強くなったか試験し、我が良いと思えば出してやる。試験とはそういう物だろ?」
「なるほど。その試験って?」
「そうだな・・・ああ、良い物がある。」
すると、マーナガルムは少女をに目を向ける。
「その少女と戦って、殺せ。」
「・・・は?」
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