第12話 龍と獣
翌日。メビウスの首では、二人の男女が戦っていた。
しかし、それはお世辞にも互角と言えるような戦いでは無く、男の方が防戦一方となり、ボコボコにされている状態だった。
「ほらっ!しっかり避けてよ!修行にならないでしょ!」
「いやいやいや!いくら一発一発は避けやすいとは言え、そんな連続でやられたら避けられるわけない!」
豪は、迷宮に来た少女と模擬戦をやらされていた。豪は最初は少女の事を甘く見ていたが、いざ戦ってみると、手も足も出ず一方的にやられていた。
マーナガルムから反撃も禁止されているため、やり返す事も出来なかった。
しかし、模擬戦を初めてから数時間、豪は既に感覚を掴み始めていた。
(拳を躱す時は、体を上半身だけ、後ろか横に引く。日本での喧嘩と同じだな。それを早くやれと言われたら問題だらけだけど、だんだん目も慣れてきたし、そろそろ本気でやってみるか。)
少女の拳が迫る。顔を狙った真っ直ぐの攻撃だ。
(これは顔を横かな。)
狙い通り、少女の拳は豪の顔の横を掠めていった。
そこから感覚を掴んだ豪は、少女の攻撃を、安定して八割は躱せるようになっていった。
そして豪が少女の攻撃を完全に見切り始める様になる頃には、空はもう暗くなっていた。
「なあ。」
そう豪が声をかけると、少女の攻撃が止まった。
「なに?ちょっと休む?」
「ああ、それもあるけど、一つ聞きたい事があるんだよ。」
「そう。じゃあ休憩がてら教えてあげる。」
そう言うと、二人は木のない場所に腰を下ろす。
そして一息ついた後、豪が少女に話しかける。
「この世界の夜ってどういう原理で暗くなってんの?というか、普段はなんで明るいの?」
そう聞くと、少女は驚いた顔でこちらを見る。少女と会ってから何度も見た覚えのある呆れのこもった表情だ。
(呆れた顔も可愛いの凄いよな…一生眺めてられるわ。)
「えぇ・・・あの臨点から教えて貰ってないの?」
「いやぁ、聞かなかったから。」
「はぁ・・・もうあんたがどれだけ無知でも驚かない。」
「そんな事は良いから。教えてよ。」
「まぁ、良いよ。」
そして、少女は空を見上げながら語り出す。
「普段空が明るいのは、世界龍っていう臨点が世界を照らしているからよ。」
「世界龍?」
「世界式の核を媒介とし、この世界に顕現する不変かつ不滅の存在。その力は未来を見通し、望む事象を望んだように起こす事が出来るわ。」
「・・・ん?」
「あの存在には殆どの干渉が出来ない。それ故に攻撃を加える、目視する、等の事が一切出来ないわ。」
「・・・はぁ?」
「たまにその力で自身を顕現させ、気まぐれで色々な事をして去っていくわ。まあ、私は見た事無いけどね。」
「はぁ・・・」
「少しだけど、見た目に関する情報もあってね。全身は常に浮遊し、胴体は視界に収められないほど長く、その胴体には金色に輝く鱗があり、顔には立派な角が二本生えているらしいわ。」
豪は頭がパンクしそうになっていた。凄まじく桁外れの存在だ。おそらくこの世界で言う所の「神」だろう。
豪が少々混乱している中、少女は気にせず語る。
「世界を照らしている理由は分からない。世界から暴嵐を見つけやすくする為かも知れないけど、真相はね。そして夜がくる理由は、世界龍に仇なす獣、"乖離"を世界龍が退治して世界を回っているからね。」
「乖離?」
「世界龍は私達の様な知性のある存在を好むわ。乖離はそんな私達を食う。そして力を蓄え、世界龍を殺そうとしている。無理なのにね。」
「なんでそんな馬鹿な事を?」
「"獣"だからよ。奴らは本能で動いてる。しかも今この瞬間にも一万匹ずつ増え、その数は何億何兆と居るわ。これでも、世界龍が退治してくれているから、相当少なくなってるんだけどね。」
スケールのデカすぎる話に、豪はもう着いて行けなくなっていた。そして集中力も限界に来た所で、少女が話を切る。
「まあ、そんな所よ。じゃあ、修行を再開しましょう・・・」
しかし、その言葉の途中で、少女が言葉を切る。
豪は疑問に思い追いかけようとするが、豪も少女の異変の理由に気付いた。
「・・・居るね。なんだろう。」
凄まじい殺気を感じる。素人の豪でもハッキリと感じるような、明確な殺意。しかし、辺りを見回すが、何も居ない。
「空よ!」
言われて見上げると、居た。
目測で全長50mだろうか。それ位大きい。
見た目は鷹だ。しかし、羽の一つ一つが金属の様な光沢を放っている。しかも、羽ばたいて居ないのに空を飛んでいる。
体は銀色を放ち、目は血走ったように赤い。
豪は先程の少女の話思い出す。そして、あの鷹の正体に思い当たる。
「なあ。まさか、あれって・・・」
「そう。世界龍に仇なす存在。そして、知性ある存在を嫌悪する存在。」
「"乖離"よ。」
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