第5話 再び森へ
街に入った豪は興奮していた。
遠くで見た時ヨーロッパ風の街並みかと思っていた。しかしいざ町に入ってみると、周りに並ぶ家の所々に現代風の装飾がなされている箇所があるので、豪は何とも言えない不思議な感覚に陥っていた。
門を入ったところで立ち止まって周りをきょろきょろしていると、後ろから声がかけられる。
「おいてめぇ!この町は初めてか?」
声をかけてきた男は、青い髪の毛で、ゲームの村人のように質素な服を着ていた。
「え?…確かに初めてですけど、なんで分かったんですか?」
この町には人が多く居る。恐らく町へ出入りする人達も相当な数居るはずである。その人たちを全て把握しなければ、この街に入った自分がこの町に初めて来たかどうかは分からないはずである。
「は?きょろきょろしてるくせに分からないとでも思ったのか?」
確かに豪は物珍しさにきょろきょろしていた。それを見れば初めて来たことを察することは出来るので、その言葉に納得し言葉を返す。
「なるほど、確かにそうですね。ところで、手っ取り早くお金を稼げる方法ってありますか?」
この町に入ってからやるべきことは分かっていた。それは、お金を稼ぐことである。
今の自分は一文無しである。エイオンで使っていたお金はあるが、それがこの世界で使えるわけがない。そのため、一からお金を稼ぐ必要がある。
自分の今の体が食べ物を必要としているのかは分からない。だが、お金を稼いでおいて損はないと考えていた
「唐突すぎねぇかおい。手っ取り早く?じゃあ冒険者にでもなっとけよ。」
概ね予想通りの答えが返ってきた。それ以外のお金の稼ぎ方がわからない豪はその言葉に従い、冒険者になることにした。
青髪君にお礼を言って別れてから、教えてもらった道を通って一つの立派な建物に着いた。
おそらくここが冒険者ギルドであろう。周りの建物も立派だが、目の前のこの建物はその周りの建物よりも立派で、異質な存在感を放っている。
豪は覚悟をして、建物の中に入る。建物の中には、控えめに言って自分よりもかなり強そうな人が数十人いた。建物の中は、天井もすごく高く、建物の外装に負けず立派だった。
そして建物の中を見渡すと、受付のようなものがあった。そこに行けば冒険者になれると思い、受付に行って、人を呼ぶ。
「あのー、誰かいますかー?」
すると、受付の奥からきれいな女の人が出てきた。
「はいはい!すいませんすいません!対応いたします!」
奥から慌てて出てきた女の人は、自分の姿を見ると慌てて駆け寄ってきて、話しかけてくる。
「新規登録ですね!まず能力をはかります!そこにある手形に手をはめて下さい!」
「あ、はい、わかりました。」
そして言われたとおりに手形に手をはめると、目の前に、浮かぶガラスが現れる。
それには何も書いてないが、受付の人からは見えているようで、そのガラスのようなものを眺めている。
「ふむふむ…えっと…冒険者は基本的に自己責任ですが、この能力だと簡単に死んでしまいますよ?」
ん?まさか?と思い聞き返す。
「え…まさか、能力が雑魚かったりします?」
「ええ…わかりやすく言うと、一般人の平均能力値の十分の一以下です…」
それを聞いて、予想が当たっていたという喜びと、これじゃ生き抜けないんじゃないかという不安がこみあげてくる。
「あ、でも冒険者としては活動できますよ!掃除とか警備とかです!」
それを聞いて、何んとか生きていけそうでホッとする。
「でも他には何もおかしくないですね…ん?」
そして受付の人の目があるところに止まる。
「あの、どうしました?ほかにも変な部分有りましたか?」
そして、受付の人の顔から一切の感情が抜け落ち、自分を強くにらむ。
「はあ…バレないとでも思いましたか?」
その言葉に疑問を覚える前に、ギルドの中に重く響く音が響き渡る。
その音が鳴ったと思ったら、自分の周りを複数人の冒険者たちが取り囲む。
「えっ?えっ?い、一体何事?」
豪はかなり慌てていたが、周りの人達は気にも止めない。
「へぇ…こいつが魔人か…割と雑魚そうだな。」
「ばか!この魔人はおそらく下級よ!私は上級の魔人を見たことがあるけど、リーダーと渡り合えるくらい強いわよ!」
「じゃあ…こいつは…下っ端…かな…?情報とか…聞き出せるかも…?」
「どう考えてもまともな情報持ってないだろ…こいつはおそらくばれる前提で送り込まれた魔人だ。狙いとかは分からないが、殺しておいた方がいいだろう。」
豪には冒険者たちが何を話しているのか分からなかった。殺すだの上級だの下級だの、いったい何の話をしているのか分からなかった。
「えーっと…なんか御用でしょうか…?」
「なんかも何もねぇだろ?お前、まさか魔人族と他の種族が戦争してるの、知らねぇのか?」
「はっ???」
冒険者の一人の言葉を、豪は一瞬理解できなかった。
「その様子だとほんとに知らねぇんだな…ま、教えてから殺しても構わねぇか。」
冒険者が教えてくれた話を要約するとこうだ。
・魔人族と他の種族は百五十年間戦争している。
・今は冷戦状態にあるが、お互いに敵同士なことには変わらない。
・そして、魔人族は一匹でもいると人類の脅威となるので、冒険者ギルド総本山から、見たら殺すことが推奨されている。
それらを聞いて、自分の今の体が人間ではなく、魔人だったことを思い出す。
「あっ…見逃してくれませんかね?」
「『あっ』ってお前…多分だけど田舎もんだな?少し可哀そうだが、冒険者一同全力で殺させてもらうぞ。」
その言葉を聞いて、自分の今の状況をようやく理解した豪は、逃げる方法を考える。
(おそらく、この人たちには誰一人として勝てない…なら逃げるしかないが…無理くね?)
「よっしゃ!早い者勝ちだぜ!『烈火』!」
すると、冒険者の一人が、エイオンで使われていた魔技の一つを放ってくる。
(なに!?あれは…エイオンの魔技!なんでこの世界の人達が使えるんだ!?)
エイオンでは『烈火』はよく使われていた魔技なので、さばき方は知っている。右手に「魔の強化」を施し、烈火に対して拳を突き出す。
すると、冒険者が放った『烈火』がかき消された。
「なっ!?なんで下級魔人が俺の魔技を相殺できる!」
エイオンでは使える技に『序列』があった。その順番を強さ順に表すと、
極技>剣技>武の強化>攻武>魔の強化>攻魔>素手
である。序列に記されている技は、それより序列が上の技に当たるとかき消されてしまうという性質を持っている。
今、豪が使った攻撃方法は素手で、普通であればそのままダメージを受けてしまうが、攻魔よりも序列が上である『魔の強化』を使ったため、素手でも攻魔を打ち消せたのである。
そして、それを見た冒険者達は、技の序列を知らないのか、豪が魔法を打ち消す姿を見て、驚愕する。
「気を付けろ!この魔人、ただの下級じゃないぞ!」
「ちょっと舐めてたわ…変な技を使うのね。」
それを見た冒険者たちを見て、ジェラールは疑問を覚える。
(エイオンの魔法を使い、俺よりもはるかに強いのに、技の序列を知らない…?なんでかは分からないが、これを利用すれば逃げられるぞ!)
ジェラールはギルドの扉に向かって走り始める。それを見た冒険者は慌てたように声を上げる。
「そいつを逃がすな!下級を逃がせば、冒険者の恥だぞ!」
ジェラールを大勢の冒険者が追いかける。走る速度は、当然冒険者の方が上なので、ジェラールは今度は足に魔の強化を宿す。さっきの強化は攻撃力強化【小】であった。今度は脚力強化【大】である。そして、エイオンでの魔人は攻魔が使えない代わりに、魔の強化や、武の強化の強化倍率が異常だった。
どれくらい異常かというと、レベル一の魔人がどれか一部位のみに強化【大】を施すだけで、レベル百の人間と、その一部のステータスだけ渡り合えるようになるほどである。(最も、複数の部位に施すと上昇する能力値は格段に落ちるし、一部位だけに施しても他のステータスはレベル一のままなので勝ち目は一切ない。)
そして、強化倍率にも強さの順番が存在し、その順番は小<中<大<超絶<究極という順番だった。
当時は「チートすぎるだろ!」と騒がれたが、人間のみに使える『強化消去』という、魔の強化と武の強化をリセットする武術の存在が明らかになったので、その騒ぎは収まった。
そして、脚力強化をしたジェラールは扉の前に着き、ギルドの外に出る事が出来た。
そして門に向かおうとしたが、目の前に自分の二倍はあるぐらいの身長の男が立つ。
「逃がさんぞ。貴様にはここで死んでもらう!」
この男は何者かと思い、話しかける。
「あなたは誰ですか?」
「俺は冒険者からリーダーと呼ばれている者だ!魔人なんかに名乗る名は無い!」
(リーダー…さっきの会話に出てきた人か。相当強いっぽいな…やべぇ…)
すると、自分にかけていた魔の強化が解ける。
(まずい!強化消去か!おそらくこいつがやったんだな。)
魔の強化や武の強化にはクールタイムが存在する。強化消去を使われてしまえば、さっきまで使っていた強化技の倍率は1時間の間は使えなくなってしまう。
「貴様はさっきまで魔の強化を使っていたな?今それを解かせてもらった。もう何も出来ないだろう。」
これで勝ったつもりなのだろうが、甘い。
(残念。建物から出た時点で俺の勝ちは決まってるんだよなあ!)
そして豪は瞬間移動を発動し、狼モドキが現れた森に戻った。
「あっぶねええええええええ!強化消去をされた時は焦ったけど、流石に技封印はされてなかったか。」
瞬間移動は建物の中では使えない。だから外に出る必要があった。それに瞬間移動は行ったことのある場所にしか移動できない。色々と制限はあるが、便利な補助の魔である。
補助の魔とは、剣技以下の技の序列の影響を受けない代わりに、相手にダメージを与える事が出来ない魔法である。似た技が武術にもあるが、それらは魔法と少し勝手が異なる。
「さて…お待ちかねの考察タイムだ。」
豪は、さっきの冒険者たちについて考える。先程の冒険者達は、能力は明らかに豪より上だった。それも、「とてつもないほど」だ。
冒険者の一人が放ってきた『烈火』も、まともに食らっていれば即死していたかもしれない程威力が高そうに見えた。
その能力から考えるに、あそこにいた冒険者一人ひとりがエイオンでの特殊ボスレベルだ。
もちろん、『烈火』を放ってきた冒険者が特別だった、という可能性もあるが、その可能性は低いだろう。
「それに…上級魔人だっけか?そんなもんはエイオンにはいなかったが…この世界特有の生物なのかな?」
エイオンの魔人は上級も下級も無かった。どのレベルのプレイヤーも、種族名は変わっていなかった。
「あ…まさか、俺の他にもプレイヤーがこの世界に転移してきてるのか?そして、レベルの低いプレイヤーが下級とよばれて、レベルの高いプレイヤーが上級とよばれているのか?」
その考えに行きつくが、魔人は自分を含めて二人しか確認されていないことを思い出し、その考えを捨てる。
「う~ん…他にも考えること多いけど、また今度考えればいいか!」
三十分間色々考察したが、結局結論の出ないものが多かったので、考えるのをあきらめる。
「というか…反射的にこの森に来ちゃったけど、出られるかな…」
そして、自分の今の状況を思い出し、どうするべきか考え始める。
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