第4話 街へ
森を出てから小一時間ほど歩いた。しかし、この体は一切疲労感を覚えない。豪もそれに違和感を覚え始めていた。
「この体、こんなに歩いたのに全然疲れないな。前の俺だったらもうぶっ倒れている頃だろうに…ひょっとして、ゲームと同じで疲労という概念が存在しないのか?」
エイオンではアバターにスタミナというものが存在しなかった。どんなに強力な魔技や武技、剣技を使っても、闘魂や魔力が消費されるだけで、「疲れて動けなくなる」ということがなかった。
強いて言えば、闘魂がすべて消費されると戦う気が起きなくなって、闘魂が回復するまでは敵を攻撃する事が出来なくなり、サンドバッグ状態になるという事があるくらいである。ちなみに、魔力は基本的に全て消費することがないため、魔力を全て消費するとどうなるかは今でもわかっていない。
もし、ゲームの時のアバターの体の法則がそのまま受け継がれているのであれば、相当なアドバンテージになるのではないか、と豪は考えた。
この世界の人間は自分よりはるかに強い力を持っているはずだ。そうでなければ、あの強い男たちがあんなに身なりが悪いわけがないし、そもそも盗賊をやっているわけがない。あの男たちがこの世界で最強の人間なら、さっき崖から見えた町があんなに発展しているわけがない。
よって、この世界の人間に本気で襲い掛かられたら豪は簡単に死んでしまうだろうと考えていた。
しかし、いくら強いといっても人間は人間である。当然、走っていたら疲れるし、動きすぎたら倒れてしまう筈である。それを考えたら、この世界でも生きていけるのではないかという希望が芽生えた。
「まあ、過信するのは良くないよな。もしかしたらスタミナの量が異常なのかもしれないしな。」
過信しすぎて足元をすくわれて死んでしまうのは、アニメではよくある出来事である。そのため、確証が取れるまで無理な行動はしないように考えた。
そんなことを考えながら歩いていると、少し先に整備された道のようなものが見えてきた。この世界にきてようやく出会えた道に豪は歓喜の言葉を漏らす。
「うおおおおお!!やったぜ!道だ!道が見えたぞ―――!」
豪はそう言いながら街道に向かって走る。街道がどんどん近づいてくる。そして街道にたどり着いた豪は、町に行くにはどっちに行くのがいいか考える。
「さっき見た感じだと、町は右の方だよな…よし!右側に行ってみるか!!」
そして豪は右と左に広がる街道の右側に行くことを決める。街道はコンクリートが張ってあるわけではないが、草原よりはとても歩きやすかった。
「いやー、道にこんなに感謝したことはないな!道がこんなに素晴らしいものだとは思わなかったぞ!」
道に感謝しながら、豪は街道を歩く。街道の先には未だ何も見えないが、きっともうすぐだということを信じながら歩き続ける。
そしてしばらく歩いていると、うっすらと壁のようなものが見えてきた。詳しくは分からないが、レンガ造りの壁である。今見えてる距離から考えると、10mはありそうな壁である。
その壁が見えた瞬間、豪は全速力で走りだした。もう少しで町に着くという考えからである。
そして壁がくっきりと見えだしたころ、壁に門があるのが見えた。
「おっ!!やっとか!やっと町に入れるぞ!」
そしてどんどん近づいてくと、門の前に二人ほど人が立っているのが見えた。
そしてそれと同時に森で会った盗賊を思い出して、この世界の人間が相当強い可能性があるということを思い出す。
「絶対トラブルにならないようにしないとな。喧嘩になったりしたら死亡確定演出だ。」
そして豪は町の門の100mほど手前で減速し、歩いて門に向かいだした。
そして豪は町の門の手前に着いた。
門の前に着いた豪は、門の前に立っている二人を見る。
二人は鉄のような光沢の鎧を着ており、二人とも右手に剣を持っていた。顔も兜で隠れてて見えない。
本当に自分より強いかどうかを確かめるために、武技の一つである「仮想演習」を使ってみる。
「仮想演習」とは、目の前にいる生物を一人選び、その生物と刹那の想像の中で数百回の戦闘シミュレーションを行う技である。
この技はゲームでは基本的に、見たことないプレイヤーや敵モブと戦う前に、どの程度の確率で勝てるかを調べるために使われた。
もしもその刹那の戦闘シミュレーションの中で、一回も勝つことのできない敵が現れた時、その敵に勝つ確率は0%である。しかし、豪は今までそんな敵に出会ったことはなかった。
そして、目の前の二人のうち、豪から見て左の人間にこの技を使った。
刹那の間に、幾度もの仮想戦闘が行われた。
豪が使いうるあらゆる戦法を使った。
何千、何万、何十万という方法で、目の前の人間を殺そうとした。
しかし、豪はその戦闘で、一割弱の勝率しか得られる事が出来なかった。
豪は恐怖した。
今までも、仮想戦闘で勝てない敵はたくさんいた。
しかし、それでも時の運さえ良ければ四割強の勝率は得られていたのだ。
それなのに、目の前の人間には一割弱の勝率しか得られない。はっきり言って、異常である。
そう絶望していると、目の前の、左側の人間から話しかけられる。
「えーっと…どうした?門の中にに入るのか?」
そう言われてはっと気が付く。その声から、目の前の人間は男だと分かった。
そして豪は少し躊躇した後、話しかける覚悟を決めてその質問に答える。
「あー!す、すいません!入ります入ります!」
豪は慌てて質問に答えた後、門に入ろうとする。すると、さっきの男に止められた。
「待て待て待て。入るなら犯罪歴がないか調べさせてもらうからこっちにこい。」
どうやら門を通るには手続きが必要なようで、門に隣接している塔に連れていかれる。その塔は壁と同じくレンガ造りで、少し黒ずんでいた。そして、その塔についている扉に案内されて、塔の中に入る。
塔の中は綺麗に片付いていて、円形の部屋の中心に様々な書類が置かれていた。
男はその書類のうちの一つをとると、豪に渡してきた。
「その紙に魔力を流せ。そしたらその紙にこれまで犯した犯罪が書き出される。何も犯罪を犯してない場合は紙の色が青色に変わる。」
そして豪は言われたとおり、紙に魔力を流す。すると紙の色が青色に変わった。どうやら問題ないと判断されたようだ。
もしもいつの間にか犯罪を犯していたら、この男たちに何をされるかわからない。そのため豪は内心ほっとしていた。
「よし、問題ないな。門に戻ったら町に入っていいぞ。…しかし、犯罪歴がない奴なんて初めて見たな。」
問題ないと言われて門に戻ろうとしたとき、何か言われた気がしたが、豪はそれを気にせず塔を出て門に戻った。
門に戻ると、立っていたもう一人の男に話しかけられる。
「おっ、検査は問題なかったか?」
そう質問されて、豪はそれに答える。
「はい。無事、町に入るのを許してもらえました。」
そう答えると、男はそれを聞いて少し微笑んだ。
「そうか、それは良かった。俺の名前はレン。あいつの名前はガランだ。お前の名前は何だ?」
そう言われて、柊豪だと答えようとして少し考える。今の自分は心は柊豪でも、体はアバターである。
どうせなら、この世界ではゲームの体、ゲームの名前で過ごしていこうと考えた豪は自身のアバターの名前を答える。
「俺の名前は――――――ジェラールです。宜しくお願いします。」
「そうか、ジェラール。くれぐれも犯罪は犯すなよ?」
そう言われて、豪はもちろんだと言わんばかりに首を縦に振って、こう答えた。
「もちろんですよ。この町の兵士は強そうなので、犯罪を犯したら俺が殺されてしまいますから。」
それを聞いたレンは笑いながら
「お世辞を言うならもっと別の人に言え!俺は下っ端だから誉めても何も出ないぞ!」
薄々感じてはいたが、この強さのレンが下っ端だということを知って、さらに恐怖した豪は、レンに対してひきつった笑いを向けながら門をくぐった。
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