五月雨


暖かい日差しに包まれて目を覚ました。特別な予定もない、久方ぶりの穏やかな日曜日に、由紀はひどく安堵した。

少し前から同じ悪夢を見続けていたのもあるかもしれない。実際は一週間程度だが、悪いものは長く続いているように思うものだ。由紀は、体感一ヶ月ほど叶わなかった、夢を見ない睡眠を摂れたことに何へともなく感謝していた。

コーヒーでも淹れて、今日はのんびりしようかな。せっかくだし、ベランダで風を感じながらクッキーでもかじりましょ。とっておきの缶を戸棚から引き出して、由紀はいたずらっ子のように笑った。

フィルターをセットして、豆を計って、ヤカンが鳴いたら火を止めて。口が細長いポットに入れ替えて、じっくりと黒を抽出する。あどけなく柔らかい香りが広がって、思わず深呼吸をした。溜めた空気が身体中に満ち足りる感覚。自然と口角が上がった。

少し肌寒いから、ベランダに出るならブランケットが要るかしら。寝室から薄手のブランケットを持ってきて、予め椅子にかけておく。これでよし。でも、随分明るく晴れているから、スカーフくらいでもよかったかな。そう思って空を見上げた。

なんだか。なんだか、不自然に明るい。太陽とは違う場所に、嫌に明るい何かがある。星のような、でも星よりも大きい、あ、割れた。え?割れた。欠片が降っている。光る雨みたいに。爆音が響く。欠片がぶつかったらしい。遠いのに熱が伝わる。雨が降る。こっちにくる。くる。




その日、国際宇宙ステーションは今までにない騒々しさで包まれた。突如超速度で地球に接近した小惑星が爆発したのだ。理由が分からないが考える余裕もない。どうにかして伝えなければ。しかしここからの情報では数秒タイムラグがある。致命的だ。その間に終わってしまう。こことて無事では済まない。せめて情報だけでもどうにかと。走り回る他の乗員を、気に留めることもできず、一人。窓を眺めていた。あぁ。もう終わる。こちらにくる。くる、

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