賢者アルジャールの回想



意外だったかな、ロンド。君は僕を、腰抜けだと思っていたからね。この時分でも、まだ君は笑っているだろうか。僕を腰抜けだと。そうかもしれないな。君がいなくなってからでなければ、動けないような男だ。腰抜けで間違いないさ。だけどね、ロンド、僕は聞き捨てならなかったんだよ。君がいなくなってから、君が罪のない人や国を滅ぼした悪人だと、まことしやかに囁かれるのが。悔しかった。何も知らずにのうのうと、君の血が滲むほどの努力の上に成り立った安寧を、ただ給いのさばるだけの、棒切れのような人間たちに、何も言えない自分が。だって証拠がないんだ、君があんなに、あんなに頑張った証拠が。君はそれでいいんだと言うだろう。それでも、僕はどうしても、見せつけてやりたいんだよ、彼らに。君が、受けた祝福をかなぐり捨ててまで斬り去ったあの忌々しい神が付けた、老いず死ねない呪いを。そんなものを身に宿し、涙を忘れてもなお、生きとし生けるもののために歩き続ける君の勇姿を。


なあ、ロンド、僕は君を見つけるよ。どれだけかかっても。


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