本能、打出でたり



 肉。それは生けるものの渇望。火が入り始めた茶と赤の波はさながら真冬の夕焼けの如く。その身が薄ければ薄いほど、波は早く強く打ちつける。待ち続けてはならない、波が落ち着いた瞬間を狙って素早く確実に取り上げなければならない。湯気が立ち上る様はさながら晴れを告げる朝霧の如く。我が舌の上に乗る時を今か今かと伺うそれを焦らすように深い黒の中へ。引き立つ豆の香りと塩味。特有の風味を持つ日本独自の調味料はこの美しき生への渇望に相応しい。片面の半分もつかないほどに抑えるのが何よりも大事な決め手なり。いざ、尋常にその完成された全てを口内へ。舞い踊る朝霧をも抱え込み、今我が舌の上に御座すこれは正しく祝福。赤き頃より秘めた甘みと耐えて仕上げた塩味は何とも代えがたい命の恵み。嗚呼、この美しき生への渇望に感謝を。本日も抗えぬ本能に一粒の懺悔を。我が心はただ、生きたいと叫ぶのみなのである。



「んま」

「やろ」


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