Drown in the C


 推しが新曲を出した。堕落に溺れ切った心がほんの少しだけ浮ついた。

 聴いてみた。何も考えずにぼんやりと。あぁやっぱり上手だな、と思った。

 それだけだった。また溺れた。布団に潜り込んで、イヤホンを外して、音量をゼロにした。

 初めてあの音を耳に通した時の衝撃を、私は多分一生忘れられない。それは素晴らしく幸せな、果てしなく最悪な呪いだ。

 腕が落ちたはずはない。良い歌だとは思うしそれなりに感動もする。新しい技術を常に取り入れて発信する気概にも尊敬の念を覚える。

 でも、あの時の、あの瞬間の。漣につま先をつけたら、見る間にとんでもない波に攫われたような、そんな。そんな、縛られるくらいに、鋭くて、痛くて、美しい。あの。あの瞬間の。

 あの、音を。もう一度聴きたいのに。

 私は多分、もう一生、それには出逢えない。あの時、あの瞬間、あの音に、魂を奪われてから。何も、手にはつかない。

 また、夢を見た。あの日の夢だった。

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