鏡合せと虚仮威し


眠るのが怖かった。何よりも。


それは私にとって自分とこの世を遮断することで、その隙間に良からぬモノが私を訪うのではないかと常々考えていたから。


大人になるにつれて、人でないモノよりも人の方が恐ろしいのだと気がついた。人は簡単に人を裏切ってしまって、後から悔やんで、取り戻すことなど出来ないはずなのに、どうにか手に入れたがる。強欲は罪である、そう言った誰かの考えはきっと正しいのだろう。

眠るのは、いっそう怖くなった。


一つ。思うところがある。人というのは、未知を恐れ、そして嫌う。人というのは、未知を未知としておきたがらない。


人は人を解ることができない。自分以外の誰かを解ることができない。人が自分と似た性質を持つ人を嫌うのは、人と自分を差別化し、自分を守るための一つの策なのだろう。

自分は他の人とは違う。自分は自分である。そんな当たり前のことを実感したくて、人は人を嫌う。誰よりも自分であるために、人を嫌う。


たかが命一つ、安いものだ、特にこの世では。あまりにも安すぎる。そして、あまりにも重すぎる。一人で背負うには、とても、とても。

だから人は自分の命を、何かに預けたくて依存する。自分は悪くない。そう思いたいから依存する。


何が言いたいとは、聞かない方がいい、そんな明白な応えがあるわけではない。これはただの虚仮威しである。人を具現化したものである。



明日は、晴れているだろうか。そんなことを考えながら、眠りにつく私も。ただ、人を具現化したモノなのである。

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