ハロー、フラットライン



 インターホンが鳴った。やっと来たのね、待ちくたびれたわ。躍る心を隠さないままに扉を開けた。

「……久しぶり、アニー」

「今晩は。好い夜ね、ローレル」

 いつも通りの崩した呼び名があまりにも幸せで、思わず笑みが溢れる。絆されたように彼も口角を上げた。

 今日はお祝いの日。とびっきり高いシャンパンを鳴らして、とっておきの隠し味を一つ。私から彼への最高の贈り物。

「積る話もあるけれど、まずは乾杯しましょ。他のことはその後でね」

「あぁ。ありがとう」

 線香花火のように弾けるその透けた泡も、今この時を祝福してくれている。そう、そうよ、今日は待ちわびた日なの。

 美しい硝子の涼やかな音色。たくさんの思い出をぎゅっと閉じ込めた、幸せの合図。

「ねぇ、ローレル」

「なにかな、アニー」

 優しく私を見つめる瞳。こくりと上下する、露わな喉元。愛してるわなんて、月並みな言葉を飾る積りは無い。使い古された台詞よりも、ずっと耽美な声をあげる。


「今日は好い夜だから。

 明日もきっと、月が綺麗よ」


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