嗚呼、世界とは余りに素晴らしい
こんなものを誰が好くんだろう。そう、考えていた。
夢に満ちたファンタジスタ、誇りに溢れたシュヴァリエ。未来を描く神の手。世界を創る神の目。誰もが望むのは、美しく希望に愛される、幸せな物語。努力すれば報われる、爽快な物語。
成功しない、成就しない、不毛で不憫で情けない。初めから夢を見ることすらしない。諦めて諦めて諦めた。結果がこれだ。無駄な話を連ね続けることしか出来なくなった、写り込むのは当たり前に自分の鏡像で。
どう足掻いてももう届かないそれを、どうにか手に掴もうと必死になって。肩にぶつかってから追い抜いていく誰かの姿を何度も見て。何度も、何度も見て。あぁ、かなわないんだなぁ、なんて。独り言ちた時にはもう筆は手から離れていて。
足して描いたって意味が無い。陳腐が積まれるだけだ。意外性というものは、何を付け加えずとも気付くことが出来るから価値があるのだ。説明してしまえばそれは作者が考える、気付いてほしいという欲望が具現化しただけになってしまう。
分かっている。そんなことはとうの昔に。だって、哀しいじゃないか、気付かれなくては。ちっぽけで実りのない拘りを、無下にされたくないんだ。分かっている。エゴだというそれぐらいは。
こんなものを誰が好くんだろう。誰もが望む要素から反比例した物語を。不毛で不憫で情けない物語を、いったい誰が好くんだろう。そう、考えていた。
誰かが、そこに座っていた。いつの間にかそこに座っていた。あの世界を、なぜだか楽しそうに眺めていた。それが、あんまりに楽しそうだったから、もう一度筆を取ってみた。
楽しそうだった。本当に。私の世界を見るその人の目が、本当に楽しそうだった。少しして、私も楽しんでいることに気が付いた。
私が欲しかったのは、きっとこれだったんだ。大人数の賞賛も、湧き上がる歓声も要らなかった。ただ、自分が写した世界を、楽しんでくれたらそれで良かったんだ。
こんなものを誰が好くんだろう。そう、考えている。笑い調子に。揶揄混じりに。
こんなものを、好く人間が。私以外にも居るんだよな。そう、考えている。
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