、♡
嫌悪に満ち溢れていた。何度口を濯いでも取れない口紅の匂いが鼻をついて堪らなかった。知らない。知らない。知らない。俺じゃない、俺は。
覚えている。一字一句。何もかもを覚えている。あの女は俺に笑いかけた。ようこそ。こちら側へと。あの女は。
接吻をした。俺に。俺に、俺の首に手を回して。眠るように目を瞑って。
甘い、香りがした。鼻を劈くような。甘くて、鋭い、針の、針の匂い。崩れ落ちるあの女から。針の匂いがした。
空気のように柔らかい、その唇に、零れるほどの針の匂いが、溢れんばかりのその匂いが、離れなくて、ずっと。
一秒にも満たなかったのか。未だに俺に語るあの目は。もう、離れてくれるはずがなかった。視界にチラつく。鼻腔に漂う。喉が締まる。痛いほどに頭が揺れる。どこからどこまでが、いつの記憶だったかも、定かではない。
あの女は、どうして。
どうして俺に、あんな事をしてくれたんだろう。おかげでずっと、ずっと、何も覚えていられない。
殺した。俺が。それは事実だ。変えようの無い事実だ。汚れた手に間違いが無いと、言い切る勇気なんて無い。だけど。あの女が俺の中で、俺を引き裂くように生きているから。本当に、殺したのかが、分からない。
あの時から俺にはあの女の、吐きそうなほど不気味で、凍えそうなほど残虐で、潰れそうなほど妖艶な笑顔が、焼き付いていた。
***
Tick, tick, my little,
Seek, Seek, LITTLE..
Welcome to the other side 、♡
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