第45話 双子と迷宮攻略

 翌早朝――


 探索任務に出掛けるために、ギルドへと集まったティオたち。

 ティオたちが来てすぐに、ユリとスズが現れた。


 今回、ティオたち、それにユリたち二人が加わったチームが先遣隊として迷宮に挑むことになる。


 その後、少し時間を置いてから、後発隊が迷宮の中に入り、色々な調査をするとのことだ。


 つまり、ティオたちはモンスターどもの露払いと、目立つ素材や資材の回収をするのが任務内容となる。


「よ〜し、頑張るわよ〜!」


「ティオさんにいただいた、私たちの力を見せつけるのです〜!」


 張り切った声を上げるリリスとフェリス。


 彼女たちはティオのスキルによって、戦う術を新たに手に入れた。

 それを披露したくて、ウズウズしてるのだ。


「それじゃあ、出発するとしよう」


 ユリのかけ声で、一行は遺跡……の中に現れた、新たな迷宮を目指す。


 ◆


「ここが新たな迷宮への入り口か……」


 遺跡の中で、隠されるように存在していた下へと通じる階段を見据えながら、ティオが呟く。


「ベル、今のうちに加護をお願い」


「了解よ、マスター」


 ティオの要請に応え、ベルゼビュートが《ベルゼギフト》と《ベルゼプロテクション》を発動する。


 ティオたちはもちろん、ユリとスズにも加護を与える。

 体の中からエネルギーが湧き上がる感覚に、ユリとスズは目を見開く。


 それだけでは終わらない。


 今度はティオが、E Xスキルが一つ《ブラッククレスト》を発動する。

 仲間全員の下腹部に、歪なハートを模したかのような、漆黒の紋章のようなものが現れる。


「な、なんだ……これは……っ!」


「か、体が……熱い……っ?」


 頬をほんのりピンクに染めながら、ユリとスズが艶かしい声を漏らす。


 リリスとフェリスも「んっ……熱い……っ」「すごい、力が湧き上がってくるの、です……っ」と、見た目にそぐわぬ、なんとも色っぽい声を漏らす。


「ユリさん、スズさん、剣を抜いてみてください」


 初めての感覚に戸惑う二人に、ティオが指示を出す。


 彼に従い、抜刀する二人。

 手にした刀と剣が、漆黒色に染まっていることに目を見開く。


「ティオ殿、これは……?」


「ユリさん、二人にぼくの持つ闇属性を付与しました。刀身を敵に触れさせるだけで、ある程度ダメージを与えることができます」


 ユリの質問に答えるティオ。

 その言葉を聞き、ユリもスズも驚いた表情を浮かべる。


 言葉で説明するより、体験してもらう方が早いだろう……。

 というわけで、一行はさっそく迷宮の中へと足を踏み入れる。


 ◆


 迷宮の中……その景色は薄暗いものの、外の遺跡とそこまで見た目は変わらないものであった。


 迷宮を歩くこと少し――二体の異形が現れる。


 ゴブリンの進化種〝ホブゴブリン〟だ。

 身長は百八十センチほどであり、ランクはDランクとなっている。


 見目麗しい女性陣を見て興奮したのか、耳障りな『グギャアア!』という声を上げ、棍棒を手に駆け寄ってくる。


「ティオ殿たちにもらった力!」


「試してみる……!」


 そう言って、ユリとスズが漆黒色に染まった妖刀と魔剣を手に飛び出した。


 ベルゼビュートの加護により、凄まじいスピードで駆ける二人。

 とんでもない速度に、ホブゴブリン二体が驚愕に目を見開きつつも、棍棒を振り上げる。


 ユリとスズがすれ違い様にホブゴブリンの体を浅く斬りつける。

 そして次の瞬間、ホブゴブリン二体は虚な目をして、その場に崩れ落ちた。


「……ッ! すごいな、浅く切っただけだというのに……」


「これがティオさんの……闇魔力の力……」


 闇魔力が付与された自分たちの武器を見つめながら、ユリとスズが思わず声を漏らす。


 本来ならば牽制程度の攻撃。それがティオの加護を受けたことで、一撃必殺の攻撃となった……。その事実に、驚愕と感動を覚えたのだ。


 どうせなら死体も持ち帰ろうと《ブラックストレージ》で、ホブゴブリンたちの死体を回収するティオ。


 それが終わったところで、一行はさらに奥を目指す。


 ◆


 ユリとスズが、次々に現れるホブゴブリンどもを撃破していく。


 二人とも、ティオたちによって授けられた力を振るうのが、楽しくて仕方ないといった様子だ。


 ホブゴブリンどもを倒すことしばらく、次の階層へと続くと思われる階段が現れた。


 警戒心を高めながら、一行は下の階層へと降りていく。


『ワオォォォォォォォ――ンッ!』


 次なる階層へと辿り着いたところで、そんな咆哮が響き渡る。

 ティオたちの視線、その先には五体の異形が立ちはだかっていた。


 狼型のモンスターである〝ビッグファング〟だ。

 ランクはBランクであり、連携攻撃を得意とする種族だ。


「ねぇねぇ、ティオ!」


「そろそろ私たちも戦いたいのです〜!」


 敵を前にし、リリスとフェリスがそんなことを言ってくる。


「よし、それじゃあ二人とも頼んだよ」


 二人に頷いて応えるティオ。

 その言葉に、二人は「「わ〜い!」」と無邪気に声を上げる。


「いきます! 《ライトニングウィップ》〜!」


 フェリスがスキルを発動する。

 彼女の足元から、漆黒の鞭が飛び出し、ビッグファングどもを絡めとる。


『グルゥゥゥ……!?』


 苦しげな声を漏らすビッグファングたち。


 本来であれば、フェリスの《ライトニングウィップ》は敵を殴打したり、捕縛する機能しかない。

 しかし、ティオの《ブラッククレスト》の効果を受けたことで、生命力を奪い取る効果を得ているのだ。


「ナイスよ、フェリス! 喰らいなさい……《ライトニングスナイプ》!」


 フェリスが敵を捕縛したところで、今度はリリスがスキルを発動する。


 彼女の目の前の空間に魔法陣のようなものが現れると、その中から漆黒の魔法弾がいくつも飛び出した。


 魔法弾に滅多撃ちにされるビッグファングども。

 やがてその瞳から生命に光が失われ、五体全てがその場に倒れていく……。


「やったわよ、ティオ!」


「やりました〜! ティオさん!」


 敵を倒したところで、勢いよくティオに寄ってくるリリスとフェリス。

 二人の頭を「よくやったよ、二人とも」と言って、優しく撫でてやるティオ。


 リリスとフェリスの二人は「「えへへ〜」」と、満足げな表情を浮かべるのだった。


 そんな光景を眺めていたユリとスズが――


「むぅ……」


「羨ましい……」


 ――と、小さく声を漏らすのだが、ティオがそれに気づくことはない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る