第46話 魔法使い(物理)

「あれは……ドレイクか」


 次なる階層へと足を踏み入れたところで、ティオが正面を見据える。

 その視線の先では、Aランクドラゴン族モンスター、ドレイクがこちらを睨み、唸り声を漏らしている。


「ティオ様、ここは私が……」


 そう言って、アイリスが前に出ようとする……が――


「待ってくれ、ここは私たちにやらせてくれないか?」


 妖刀を鞘から抜きながら、ユリが前に出る。


「うん……あのモンスターは私たちが乗り越えるべき……」


 そう言って、スズも魔剣を抜く。


(なるほど、そういうことか……)


 二人の真剣な表情を見て、ティオは理解する。


 魔族ガイルとの戦いで、二人はドレイクに敗北しそうになった。

 敗北の屈辱、そして恐怖を乗り越えるために、二人はこのモンスターと戦い、勝利したいのだと。


「わかりました。二人に任せます」


「ティオ殿、感謝する」


「絶対……勝ってみせる……」


 真剣な表情で武器を構えるユリとスズ。


 次の瞬間、ドレイクが二人目掛けて駆け出した。


「喰らえ……《ファントムライトニング》ッ!」


 迫りくるドレイクに向かって、ユリが揺らめく漆黒の稲妻を妖刀から放つ。


『グガァァァァァ――ッッ!?』


 稲妻を浴び、苦しげな悲鳴を上げるドレイク。


 上級クラスである妖刀使いのユリが放ったスキルの威力は凄まじい。

 そこにティオが施した《ブラッククレスト》の効果も合わされば、その攻撃力は絶大だ。

 たとえAランクモンスターといえども、激痛のあまり、悲鳴を上げずにはいられないだろう。


「今だ、スズ!」


「任せて……《フレイムスラッシュ》……ッ!」


 ユリの声に応え、スズが飛び出した。


 漆黒色――闇魔力を帯びた炎の魔剣で、ドレイクの後ろ足を切り裂いてみせる。


「いくぞッ!」


「トドメ……ッ!」


 二度の攻撃でその場に蹲ったドレイクに、ユリとスズが渾身の斬撃を繰り出す。


 ドレイクは『グ……ガァァァァ……ッ!?』と、呻き声を漏らすと、その場に倒れ伏した。


「やったな、スズ……」


「うん……やったね、ユリ……」


 ドレイクが息を引き取ったのを見届けたところで、そんなやり取りを交わす二人。


 彼女たちの穏やかな表情を見ればわかる。


 これで、あの時の屈辱と恐怖を、乗り越えることができたのだと――


 ◆


 さらにモンスターどもを倒しながら、迷宮の中を進むことしばらく――


 ティオたちの前に、二体の巨大な異形が立ちはだかる。


「ゴーレム……それも〝高機動型〟か」


 二体のモンスターを見据え、静かに呟くティオ。


 高機動型ゴーレム、ゴーレム族の中でも特に強力なAランクモンスターだ。

 その名の通り、巨体であるにも関わらず、凄まじい機動力を誇る。


「よし、〝練習には〟ちょうどいいな。みんな、ここはぼくにやらせてください」


 前へと踏み出しながら、ティオが言う。


 それと同時に《ブラックサモン・械》を発動し、次元の狭間からベヒーモスを呼び出す。


「ベヒーモス、ぼくたちの力をさらに高めることにしよう」


【それでこそ吾輩のマスターだ、ではやるとしよう】


 そんなやり取りを交わしたところで、ティオとベヒーモスが漆黒の光に包まれる。


 そして光が止むと、そこには漆黒の騎士が佇んでいた。


 言わずもがな、ベヒーモスのスキル――《ナイトオブベヒーモス》を発動し、ティオがベヒーモスをパワードスーツとして纏った姿である。


 その姿を初めて見たユリとスズが目を見開く。


 それと同時に、パワードスーツと化したベヒーモスから、キュイーン――ッ! と駆動音が鳴り響く。


『グゴォォォォォォ――ッ!』


 高機動型ゴーレムの一体が雄叫びを上げる。

 凄まじい速度で、ティオに迫りくる。


 ズガン――ッ!


 鈍い音が響く。


 高機動型ゴーレムの拳を、ティオが手のひらで受け止めたのだ。


『グ、グゴ……ッ!?』


 移動速度を乗せて放った拳を軽々と止められ、戸惑った声を漏らす高機動型ゴーレム。


 ティオは敵の拳をそのまま両手で掴み、あろうことか投げ飛ばしてみせた。


 凄まじい勢いで後方へと飛んでいく高機動型ゴーレム。

 なす術もなく、背中から壁に激突する。


『グゴォォォォォッッ!』


 仲間をやられ激昂したのか、もう一体の高機動型ゴーレムが飛び出した。

 途中で姿勢を変え、スライディングキックをティオに放つ。


 そんな敵の攻撃を、片足をのばし受け止めてみせるティオ。


 まさかこの攻撃も防がれるとは……! とでも言いたげな呻き声を漏らす高機動型ゴーレム。


 そんな敵の足の関節部分に、ティオが勢いよく拳を振り下ろした。


 ドパン――ッ!


 凄まじい音とともに、敵の関節部分が砕け散ったではないか。


『グ、グゴ……ッ』


 その光景を目の当たりにしたもう一体の高機動型ゴーレムが、僅かに後ずさる。


【ティオ殿】


「ああ、逃すものか」


 ベヒーモスとそんなやり取りを交わすと、ティオはパワードスーツから甲高い駆動音を響かせ、その場から跳躍した。


 今まさに後ずさる敵の頭の高さまで飛び上がり、そのまま頭部に渾身のパンチを叩き込む。


『グ、ゴ……ッ』


 そんな呻き声ともに、その場に崩れ落ちる高機動型ゴーレム。


 高機動型ゴーレムは頭部に魔法文字ルーンを持っている。

 それが大きく削られると、活動を停止する。


 ティオはそこにパンチを叩き込んだのだ。


「さぁ、残りはお前だ」


 片足を破壊され、動けないでいる高機動型ゴーレムに向かって歩き出すティオ。


 敵はなんとか這って逃げようとするが……それが叶うはずもなく、ティオに頭の魔法文字を砕かれるのだった。


「なぁ、ティオ殿って黒魔術士だよな……」


「魔法スキルを使わないで……倒しちゃった……」


 ティオの活躍を目の当たりにし、ユリとスズは呆然と言葉を漏らす。

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