第40話 漆黒ノ魔導騎士、降臨

 ドシンッ……ドシンッ……!


 足音を響かせ、サイクロプスがアイラに向かって歩いてくる。


 そしてその拳を振り上げる。


『ククク……これで終わりだな、女勇者よ』


 勝利を確信し、ヴァサーゴが口元を歪める。


 そんな時だった――


「それはどうかな?」


 ――そんな声が、アイラとヴァサーゴの耳に聞こえてくる。


 声のした方を見るアイラ、ヴァサーゴ、そしてサイクロプス。


 その視線の先には、一人の少年が立っていた。


「ティ……オ……?」


 口から血を流しながら、その名を呼ぶアイラ。


 そう、現れたのはティオだった。


 ルシウスにラティナス、それにエイルも、ボロボロになりながら彼の方を見る。


『誰だ、貴様! 勇者の仲間か? まぁいい、貴様から始末してやる!』


 そう言って、ヴァサーゴが《ディメンションスリップ》を発動する。

 アイラの時と同じように、ティオを転移させてサイクロプスの攻撃を当てるつもりなのだろう。


 しかし――


『な……なぜだ!? なぜ転移しない!?』


 ――驚愕の声を漏らすヴァサーゴ。


 なぜなら、その場からティオが一ミリも動いていないからだ。


 当然である。


 今のティオはベルゼビュートによって《ベルゼプロテクション》を付与されている。

 彼女の加護によって、ヴァサーゴの《ディメンションスリップ》は無効化されたのだ。


『グォォォォォォ――ッッ!』


 サイクロプスが、ティオに向かって拳を振り上げ駆け出した。


「来い! ベヒーモスッ!」


 ティオが叫ぶ。


 次元の狭間から、ベヒーモスが現れる。


【出番を待っていたぞ、ティオ殿!】


 嬉しそうな声を出すベヒーモス。

 そんなベヒーモスに大きく頷くと、ティオは「装着!」と、高らかに叫ぶ。


 その刹那、ティオとベヒーモスが漆黒の光を放った。


 そして次の瞬間だった……


 パァン――ッッ!


 ……そんな乾いた音が鳴り響いた。


『グォ……ッッ!?』


 驚愕したかのような声を漏らすサイクロプス。


 見ればその拳が〝漆黒の騎士〟の片手に軽々と止められているではないか。


『いったい何が……ッ』


 呻くように声を漏らすヴァサーゴ。


【どうだティオ殿、吾輩の力は?】


「ああ、最高だ、ベヒーモス」


 漆黒の騎士から、二つの声が聞こえてくる。


 漆黒の騎士……その正体は変形したベヒーモスを、パワードスーツとして装着したティオだ。


 ティオのE Xスキルが増えたことにより、ベヒーモスの能力の一つ、《ナイトオブベヒーモス》が解放されたのだ。


「次はぼくの……いや、ぼくたちの番だ」


 静かに言うティオ。


 そしてパワードスーツとなったベヒーモスのボディから、キュイーン――ッ! と甲高い駆動音が響く。


 次の瞬間……


 ドパン――――ッッッッ!


 ……凄まじい衝撃音が鳴り響く。


 漆黒のパワードスーツに包まれたティオの右腕が、サイクロプスの腹に突き刺さっているではないか。


『グ……ガァァァァァァッッッッ!?』


 遅れてきた痛みによって、サイクロプスが悲鳴を上げ、その場から大きく退く。


『ば、馬鹿な……サイクロプスの外皮を拳で突き破るだと!?』


 目を見開き、大きく狼狽るヴァサーゴ。


 サイクロプスの外皮は強固だ。

 上級魔法スキルを受けても数回は耐えることができる。

 だというのに、たった一回の拳による攻撃で、それを突破された。


 その事実を受け入れることができないのだ。


「いくぞ!」


 パワードスーツから駆動音を響かせ、ティオが飛び出した。


 目にも止まらぬ速さでサイクロプスの胸の高さまで跳躍すると、再び拳を叩き込む。


『ガギャァァァァァァァ――ッッッッ!?』


 激痛により、再び悲鳴を上げるサイクロプス。

 そんなサイクロプスの胸の中から、ティオは心臓を引きずり出した。


『グ……ガ……ッ』


 とうとう叫ぶこともできなくなったサイクロプス。

 その瞳から生命の光が失われると、粒子となってその場から消え失せていく……。


「し、召喚獣を……」


「倒しちゃった……」



 ティオの活躍に、思わず言葉を漏らすラティナスとエイル。

 アイラとルシウスも、信じられないものでも見るかのように、瞳を見開いている。


「さぁ、残りはお前だ」


 パワードスーツの中から、くぐもった声を漏らすティオ。


 右の手のひらを、ヴァサーゴに向ける。


『ま、待て! 貴様……いや、黒騎士よ! 我の仲間になる気はないか!? 我の仲間になれば、魔界で地位と名誉、そして金を――』


「《ブラックジャベリン》……ッッ!」


 苦し紛れに喚くヴァサーゴ。


 その言葉の途中で、ティオは漆黒の魔槍を放った。


 槍はヴァサーゴの腹を貫通し、その生命力を奪い去る。


『おの……れ……こんなところで、魔族の悲願……三獣魔様の復、活が……ッ』


 そんな言葉を残し、ヴァサーゴはその場に崩れ落ちるのだった。


「解除……」


 敵が片付いたのを確認したところで、ティオが呟く。

 再びその姿が漆黒の光に包まれると、ベヒーモスと分離し、元の姿へと戻る。


「ティ、ティオ……あなた……」


「話はあとだ。まずはコレを……」


 体を引きずりながら近づいてくるアイラに、ティオはポーションを差し出す。

 そしてラティナスやエイル、そしてルシウスにも、ポーションを飲ませていく。


 ちょうどそんなタイミングだった――


「ティオ様!」


「どうやら片付いたようね?」


 ――そんな声が、ティオの耳に聞こえてくる。


 アイリスにベルゼビュート、そして彼女に抱っこされたフェリスと、その頭の上に座るリリスだ。


「みんな、先に行っちゃって悪かったね」


 そんなことを言いながら苦笑するティオ。


 樹海を進む最中、戦う音と一緒にアイラたちの悲鳴が聞こえてきた……。


 アイラたちの危機と判断したティオは、アイリスたちに周囲のモンスターを任せ、一足先にこの場へと駆けつけたのだ。


「ティオ、助かりました」


「ホントだよ〜! ていうか、強くなりすぎじゃない!?」


 ポーションによって回復した、ラティナスとエイルがティオに感謝の言葉を伝える。


 そんな中、ルシウスが「ティオ、貴様どうやってそんな力を……ッ」と、何とも言えない表情で、ティオに向かって近づいてきた。


 しかし――


「ティオ……っ!」


 ――そんな声でルシウスを遮るアイラ。


 そのままの勢いで、ティオに抱きついてしまった。


「「む……ッッ!」」


 その光景を見て、アイリスとベルゼビュートが文字通り、ムッ! とした表情を浮かべるが……状況が状況だけに止めることはしない。


「ティオ、本当にありがとう。あなたが来てくれなかったら、私……私……ッ」


 涙目になりながら、さらに抱擁する力を強めるアイラ。


 彼女の豊満な胸の中で揉みくちゃにされ、ティオは「んむぅぅ〜〜〜〜!?」と、くぐもった声を漏らす。


「あはははは!」


「やっぱりティオさんはモテモテなのです〜!」


 リリスとフェリス、妖精二人は楽しげな声を上げるのだった。

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