第37話 連れ戻しに来た二人

「ティオ様、少しよろしいでしょうか?」


「……どうしました、アイリスさん?」


 目をこすりながら、ティオがベッドから起き上がる。

 そしてアイリスのいる方向を見て大きく目を見開く。


 そこにラティナスとエイルが立っていたからだ。


「……どうして2人がここに?」


 ティオが不思議そうに問い掛ける。


「申し訳ありませんティオ様、どうしてもこの二人が、お話がしたいと言うので……」


「……わかった、とりあえず話を聞くよ」


 そう言って、ティオはベッドから立ち上がり、部屋に備え付けてあったソファーへと腰かける。


 それに倣って、ラティナスとエイルも向かい側に腰掛ける。


「それで、どうしてここにきたの?」


「ティオ、パーティーに戻ってくる気はないですか?」


「そうだよ! 私たちは、ティオくんがパーティーから抜けることには反対だよ!」


 ティオの問いに、ラティナスとエイルがそんなことを言ってくる。


 そんな二人に対し、ティオは――


「それはできないよ。僕はアイラにもルシウスにも見放されちゃったからね……」


 ――悲しげな表情で、そう答える。


 そんな彼に、ラティナスが言う――


「もし、それがアイラ様の本心じゃないとしたら、どうですか……?」


 ――と……。


「どういうこと? ラティナス……?」


「詳しいことはわかりませんが、何となくの予想はついています。それを確かめるためにも、一度パーティに戻ってきませんか……?」


 そう言うラティナスの横で、エイルもコクコクと頷いている。


 それに対し、ティオは――


「…………」


 ――と、しばしの沈黙をする。


 そしてそのまま、心配そうな表情で見守っているアイリスとベルゼビュート。

 そしてベッドでスヤスヤと寝息を立てているリリスとフェリスを見渡す。


「……なるほど、大切な仲間ができたのですね……」


 ティオの表情を見て、ラティナスが少し寂しげな顔で呟く。


 仲間として、パーティに戻ってきてほしい……。

 そんな思いで、エイルとともにここに来た。


 しかし、ティオには既に大切な存在ができていた。

 それは彼の優しげな表情を見ればわかる……わかってしまう。


 エイルもそれを何となく感じ取ったようで、複雑な表情をしている。


「そういえば、ラティナスたちはどうしてルミルスに来たの……?」


 何だか気まずい雰囲気になってしまったのを紛らわすかのように、ティオが問いかける。


「陛下の命で、ルミルスの大樹海の調査にきたのです」


「調査……?」


「はい。どうやら、樹海の中に大量のモンスターが現れるようになったようで……」


 ラティナスの答えに、ティオとアイリス、そしてベルゼビュートは顔を見合わせる。


 リリスとフェリスは転移系のスキルを使う魔族によって、グラッドストーン近郊の迷宮の中に飛ばされたと聞いていた。

 そして、ここにきてモンスターの大量発生……。間違いなく、迷宮の中で何か異常が起きているのだろう。


「転移系のスキルを使う魔族、ですか……」


「でも、アイラ様の加護があれば大丈夫だよね……?」


 ティオからそのことを伝えられたラティナスとエイルが、そんなやり取りを交わす。


 アイラは勇者だ。

 あらゆる属性に対しての防御策を持っている。

 その内の一つが神聖属性の加護だ。


 それさえあれば、魔族の転移スキルにも、対抗することができるだろうという考えだ。


「明日の早朝、私たちは大樹海へと向かいます」


「そう、なんだね……」


 ラティナスの言葉に、俯きながらひと言だけ答えるティオ。

 その表情はやはり複雑そうだ。


「行きましょう、エイル」


「え!? もう行くの……!? ティオくんを連れ戻しにきたんじゃ――あっ、待ってよ、ラティナス!」


 ティオの言葉を聞き、そのまま立ち上がったラティナスのあとを、エイルが追っていく。


 ◆


「よかったのですか、ティオ様……?」


 しばしの沈黙の後に、アイリスが不安げな表情で尋ねてくる。


「アイリスさん、大丈夫ですよ。ぼくがいなくても、アイラたちは強いですから……」


 無理な笑顔を浮かべるティオ。


 そんなティオの隣に、ベルゼビュートが腰かけながら――


「私はマスターの使い魔よ。だから、どんな時だって一緒。そしてマスターが望むがままに従うわ」


 そう言って、ティオを優しく抱きしめる。


「あ、ずるいですよ……!」


 抜け駆けは許さないとばかりに、アイリスも反対側へと腰かけ、ティオに抱きついてくる。


 二人のいつもの様子に……否、元気付けようとしてくれる二人に、ティオは小さな微笑みを浮かべ、その温もりを味わうのであった――。

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