第35話 再会の勇者パーティ

「よく来たな、勇者たちよ」


 バーレイブ王国が王都ヤルロイ――その王城の謁見の間にて、玉座に座した男……国王が口を開く。


「今回はどのような御用命でしょうか?」


 玉座の前で片膝をつき、アイラが問いかける。

 その後ろでは、ルシウス、ラティナス、エイルも同じ姿勢で控えている。


「今回、貴殿らに頼みたいのは、モンスターの討伐ととある調査任務だ」


「討伐と……調査、ですか?」


 国王の言葉に、少し首を傾げるアイラ。


 今まで、国王直々に討伐などの任務を命じられることはあった。

 しかし、調査任務というのは珍しい、いったいどういうことだろうか……。


 アイラの疑問に答えるべく、玉座の側に控えていたこの国の大臣が口を開く。


「ルミルスの大樹海で、強力なモンスターが頻繁に現れるようになったと報告があったのだ。このようなことは初めてなので、討伐はもちろん、その原因を究明しなければならないのだ」


 大臣の言葉を聞き、アイラは「なるほど……」と頷く。


 ルミルスの大樹海は妖精の暮らす静かな場所だ。

 妖精の暮らす場所と地脈で繋がった大地は、農作物が豊富に育つとされている。


 もし、ルミルスの大森林で暮らす妖精たちがモンスターのせいで殺され、あるいはそれらから逃げるためにこの地を去ってしまったら、国としては一大事だ。


 それらを食い止めるために、モンスターの討伐と、強力な個体が頻繁に現れるようになった原因を究明しなければならないのだ。


「それでは、さっそく現地に向かいます、陛下」


「うむ。頼んだぞ、勇者一行よ」


 任務の詳細が書かれた羊皮紙を受け取り、いくつか質問を終えたところで、アイラは仲間を連れて玉座を後にする。


「む……? そういえば、騎士の少年がいなかったようだが……確かティオといったか?」


 アイラたちの後ろ姿を玉座から見送る途中で、国王はその事実に気づく……が、たまたまいなかっただけだろうと、自分の中で納得するのであった。


 ◆


「ここがルミルスか……」


 辺りを見まわしながら、ティオが感嘆の声を漏らす。


 ベヒーモスを飛ばすこと数日、ティオたちはエルフの住う都市、ルミルスへとたどり着いた。


 ルミルスはかなりの規模を誇る都市であった。木造の建物が立ち並んでいるかと思えば、都市の中にはたくさんの草木がバランスよく点在しており、自然との調和が美しい。


「初めてくる場所ですが……なるほど、これは心が落ち着きます。エルフが多く住うのも納得です」


 心地良さそうな表情をしながら、アイリスが伸びをする。

 もともと、エルフは森に住う種族だ。草木の溢れるこの都市は、エルフ族であるアイリスにとって落ち着く場所なのであろう。


 そしてそれは妖精族であるリリスとフェリスも一緒のようだ。

 リリスは機嫌よさそうにティオの周りをクルクルと飛び回り、フェリスはアイリスと同じく気持ちよさそうに伸びをしている。


「ルミルス、懐かしいわね……」


 そんな中、ベルゼビュートが微笑を浮かべながら、言葉を漏らす。


「……? ベルはここに来たことがあるの?」


「そうよ、マスター。と言っても、かなり昔のことだわ」


 小さく頷きながらティオに応えるベルゼビュート。


【うむ、ここでは色々あったものだ……】


 どうやらベヒーモスもここに来たことがあるようだ。


 何やら思い出を懐かしむような二人の雰囲気に、これ以上何かを聞くのも野暮だと思い、ティオは質問するのをやめるのだった。


 そんな時だった――


「ん〜! なんだかいい匂いがするわ〜!」


「ほんとです〜!」


 ――リリスとフェリスの二人が急に興奮した声を上げる。


 二人の声に遅れて、ティオたちも都市の奥の方から香ばしい匂いがしてくることに気づく。


「よし。リリス、フェリス、行ってみようか」


「わ〜い!」


「ごはんです〜!」


 ティオの言葉に大はしゃぎしながら、リリスは彼の頭に乗り、フェリスは彼の体をよじ登り抱っこしてもらう。


 そんな二人に苦笑しながらも、ティオたちは匂いのする方へと移動する。


「いらっしゃい〜! 焼きたてだよ!」


 移動すること少し、ティオたちは屋台が立ち並ぶ小さな通りへとやってきた。


 その中でも特に香ばしい匂いのする店へと近づくと、屋台番の男エルフが声をかけてきた。手元では炭火を使って、何やら串に刺した肉を焼いている。


「いい匂いですね、何の肉ですか?」


「森で獲れた猪と鹿の肉さ。今朝獲れたばっかりだから新鮮で美味いよ!」


 ティオの質問に笑顔で応える屋台番のエルフ。

 リリスとフェリスの視線は串焼肉に夢中だ。

 ティオは適当に人数分の串焼きを買うと、さっそくリリスとフェリスに食べさせてやる。


「うわ〜! 何これ美味しい〜!」


「噛むたびに肉汁が溢れてきます〜!」


 串焼きにむしゃぶりつきながら、リリスとフェリスが幸せそうな表情で感想を漏らす。


 それに続き、ティオたちも串焼きにかぶりつく。


「なるほど、確かに美味しい」


「鹿肉は初めて食べましたが、いいですね」


「猪のお肉も脂が乗ってて美味しいわ」


 ティオにアイリス、そしてベルゼビュートも串焼きを気に入ったようだ。


 それを見た屋台番のエルフは満足そうに笑っている。


 串焼きを食べて腹も膨れた。次は今日泊まる宿屋を探しに行こう……ティオがそんなことを考えたタイミングであった――


「ティオ……?」


 ――ティオの耳に、そんな少女の声が聞こえた。


 思わず振り返るティオ。


 そこにはアイラと、ルシウスを始めとする元パーティメンバーが立っていた……。

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