第34話 別れは頬へのキスで
翌朝、都市の門の前で――
「ねぇ、ティオくん、本当に行っちゃうの? この都市に残る気はない?」
マリサ伯爵が、寂しそうな表情で問いかけてくる。
「すみません、ぼくにはやらなくちゃいけないことがあるので」
苦笑しながら応えるティオ。
そんなティオに、マリサ伯爵は「そう……」と、残念そうに俯く。
「ティオ殿たちについて行きたいところではあるが……」
「この都市から私たちがいなくなったら……上級冒険者が不在になっちゃう……」
マリサの横で、同じく残念そうな表情を浮かべるユリとスズ。
二人ともティオに何も恩返しすることができなくて歯痒いのだ。
ティオ、それにリリスとフェリスとしては、この都市でもう少しゆっくりしていってもいいと思っていた。
しかし、アイリスとベルゼビュートは一刻も早く目的地に向かおうと主張したのだ。
無論、マリサ伯爵、ユリとスズの誘惑からティオを守るためである。
二人の必死な主張にティオは従い、すぐに旅立ちを決めたのだ。
「じゃあ、最後にこれだけ……」
そう言って、マリサがティオに一歩踏み出す。
そしてそのまま――ちゅっ……と、その頬に啄むようなキスをする。
「っ……!?」
伯爵からのキスに、思わず息を漏らすティオ。
マリサ伯爵の護衛たちも「「「……ッ!」」」と目を見開き、そのままティオを睨みつける。
「「なんてことを……!」」
とでも言いたげな表情で、アイリスとベルゼビュートが二人を引き離そうとする……が、さすがに貴族相手に乱暴を働くのはマズいと思いとどまったようだ。
二人して「「ぐぬぬぬ……っ!」」と唸っている。
「そ、それでは……」
「わ……私たちも……」
頬を赤らめ、ユリとスズもティオに近づいてくる。
「え……ちょっ――」
さすがに二人の行動は読めたようで、ティオは逃げようと後ずさるの……だが――
そんなティオの体を、マリサ伯爵がガッチリと前から抱擁し、逃げ場をなくしてしまう。
彼女の柔らかな感触に包まれ、若干のパニックに陥るティオの左右の頬に、ユリとスズは同時に唇を押し付けるのだった。
「え、えへへ……次に会った時は口にしてやるからな」
「うん……楽しみ……」
恥ずかしそうに、それでいて嬉しげな笑みを浮かべるユリとスズ。
「ふふふふ……私も諦めないからね、ティオくん?」
マリサ伯爵も、妖艶な表情を浮かべならが、ペロリと舌舐めずりをするのだった。
「ずる〜い!」
「私もティオさんと、ちゅっちゅしたいです〜!」
一連の流れを見ていたリリスとフェリスがはしゃぎ出す。
リリスはパタパタと羽を動かしティオの額に、フェリスはティオの体に飛び上がり、彼の鼻の頭に面白そうにキスをする。
「まったく……」
「これじゃ怒るに怒れないじゃない……」
妖精二人のはしゃいだ様子に、アイリスにベルゼビュート、そして殺気立っていた護衛たちでさえも毒気を抜かれてしまったようだ。
皆、微笑ましい表情を浮かべるか、苦笑している。
この都市の危機を救うことができた。
ギルドからもしっかりと報酬を受け取ることができた。
マリサ伯爵、ユリとスズに別れを告げ、ティオたちは旅立つのだった――
◆
「う〜ん! 風が気持ちいいわ〜!」
「やっぱりベヒーモスさんでの移動は最高です〜!」
ティオの頭の上にはリリス、そして彼のお腹に抱きつくフェリスが気持ちよさそうに瞳を細める。
ティオの後ろでアイリスが幸せそうな表情で彼の腰に手を回し、ベルゼビュートは不満顔でサイドカーに乗っている。
海岸沿いの街道をグングンと飛ばし南下するティオたち。
次の目的地は都市ルミルスだ。
ここで一泊した後に、都市の近郊に位置する、ルミルスの大樹海にリリスとフェリスを送り届ける予定である。
【そういえば……ティオ殿、新たな真黒ノ扉を開いたようだな】
走行中にベヒーモスが話しかけてくる。
「真黒ノ扉……ああ、新しいスキルのことだね。魔族を倒した時に目覚めたみたいだよ」
頷くティオ。
そう、魔族との戦いを経て、ティオは新たなE Xスキルに目覚めていた。
今の彼のステータスは以下の通りだ。
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名前:ティオ
種族:人間
スキル:《ブラックドレイン》
EXスキル:《ブラックバレット》《ブラックジャベリン》《ブラックストレージ》《ブラックサモン・魔》《ブラックサモン・械》
【NEW】《ブラッククレスト》
==============================
新たに《ブラッククレスト》という名のE Xスキルが増えている。
その効果は……まぁ、実戦の時に見てもらうのが一番だろう。
【実はティオ殿が新たな真黒の扉を開いたことにより、吾輩の能力も新たに解放された。次の戦いは我輩も参加させよ】
「ということは、戦闘に関する能力ってことか。ベヒーモス、楽しみにしているよ」
【ああ、吾輩の力を存分に振るってくれ。そのためにも、もっと吾輩の操作に慣れてもらう必要がある。旅の途中で練習するとしよう】
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