第27話 女伯爵からの依頼
「ん……っ」
夕刻――
窓から差し込む夕陽の明るさで、ティオが目を覚ます。
まだティオの横では、リリスとフェリスが「すぴー、すぴー……」と寝息を立てており、隣のベッドでアイリスとベルゼビュートも眠っている。
皆を起こさぬようにベッドから立ち上がり、そのまま洗面所で眠気覚ましに顔を洗う。
(みんなまだ起きなさそうだし、散歩でもしてこようかな……?)
そう考え、部屋の外へと出た……ところで、先ほどの女従業員がティオの方に歩いてくる。
「お出かけしようとしていたところ、申し訳ありません。実は来客がありまして……」
「え? ぼくにですか……?」
女従業員の言葉に、きょとんとした表情をするティオ。
この都市に来るのは初めてなのに来客とは……。
いったいどういうことだろうか?
「はい。下のロビーでこの都市の領主――〝伯爵〟様がお待ちですので、お早めにお願いいたします」
「は、伯爵……!?」
ティオは思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
まぁ、貴族が直接出向いてきているなんて聞かされれば、当然である。
どうしてぼくなんかに、しかもどんな用があって……?
ティオの頭の中が、疑問で埋め尽くされる。
しかし、伯爵ともあろう者を待たせるわけにはいかない。
ティオは女従業員に案内されながら、ロビーへと向かう――
◆
「あらぁ? これは随分可愛いボウヤなのね」
「……え?」
目の前の人物に、ティオは不思議そうな表情を浮かべる。
従業員の案内でロビーのソファの前まで案内されたのだが――
そこには一人の女性が座っていた。
「私の名前は〝マリサ・クラリス〟……。この都市の領主よ。いきなり呼び出してごめんなさいね?」
「え? それでは、あなたが伯爵様なのですか?」
「ええそうよ。アウシューラ帝国からきた、あなたからすれば、女領主は珍しいかもしれないわね?」
そう言って、微笑を浮かべるマリサ伯爵。
髪は藍色の腰まである長髪で、女性にしては背が高め。
自信を感じさせる笑みの似合う、妙齢の美女である。
(女性が貴族家の当主……。国によってはそんなこともあるんだな)
そんなことを考えながらも、ティオは挨拶を始める。
「初めまして、冒険者のティオといいます。伯爵様自ら出向かれるとは、いったいどのようなご用件でしょうか?」
「ふふっ、冒険者にしては丁寧な男の子なのね」
そんな風に笑いながら、隣に座るように勧めてくるマリサ伯爵。
貴族様と同じソファに座るなどとんでもない……! と、それを断ろうとするが、クイっと腕を引っ張られ、ティオはそのまま座らされてしまう。
少し離れたところで護衛と思しき男たちが、ティオを見ている。
貴族の隣に座らされた上に、何だか監視されているようで居心地が悪い。
「今日はお願いがあってきたのよ」
「お願い? ぼくにですか……?」
「ええ。実はガゼル侯爵様の船に乗って、妖精を連れた冒険者が現れたと小耳に挟んでね。少し気になって情報を集めてみたの。そうしたらご子息のティエル様を、命の危機から救った凄腕の冒険者だっていうじゃない?」
そう言って、ティオに笑いかけるマリサ伯爵。
恐らく……というか、ほぼ確実に、侯爵家の船の乗組員たちから、その情報を聞き出したのだろう。
「そんな凄腕冒険者のあなたに、とあるクエストを受けてほしいの」
「クエスト……ですか?」
「ええ、伯爵家が依頼し、冒険者ギルドが発行した正式なクエストよ。実はね……」
マリサ伯爵から伝えられたのは以下の通りだった。
最近、都市の近隣でモンスターに襲われる事件が多発している。
その件数は通常では考えられないほどで、領主である伯爵は近隣の調査を冒険者ギルドに依頼した。
すると、都市から少し離れた遺跡に、モンスターが出入りしているのが確認できたらしい。
遺跡がモンスターの縄張りになっているのではないか……?
そう考え、数日前に冒険者たちを派遣したのだが、帰って来なかったという。
そこで、今回はこの都市のAランクの冒険者パーティにクエストを依頼することにした。
そんなタイミングで、ティオたちの噂を聞き、念のためにそのパーティと一緒にクエストに同行してほしいとのことだ。
「ちなみに、モンスターの種類はどのようなものなのですか?」
「ゴブリンにオーク、それにワーウルフ……様々な種類に襲われた報告を受けているわ」
「複数種の襲撃ですか……」
マリサ伯爵の答えに、難しい表情をするティオ。
迷宮であれば様々なモンスターが出現するが、ただの街道などで複数のモンスターが頻繁に現れるのは珍しい。
(危険な香りがするな……)
と、ティオは思う。
だからこそ――
「わかりました。その依頼、引き受けます」
「え……? ちょっと待って、まだ報酬の話もしていないのだけど……」
ティオの言葉に、戸惑った表情を浮かべるマリサ伯爵。
そんな彼女に、ティオは――
「人が困っているのなら、見過ごすことはできません。それに、伯爵様が自ら出向いてきたのです。何としても引き受けてほしいと考えていたのですよね?」
――と、小さく笑う。
領民思いの優しい女伯爵を、見捨てることはできないというわけだ。
「ありがとう。……ほんと、乗組員の子たちが言っていた通り、正義感の強い子なのね」
やはりガゼル侯爵の船の乗組員たちから話を聞いていたようだ。
マリサ伯爵は礼を言いながら、ほっとした様子を見せる。
(リリスとフェリスを故郷に届けるの、少し遅れちゃうけど……二人とも許してくれるよね?)
ティオはそんな心配をするが、ティオの優しさを理解している二人のことだ、大丈夫であろう――。
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